嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある人が、自分の息子と同ーじぐらいの年の人を

ちぃ殺【これ】ぇたあて。そいぎその、

侍さんは余【あんま】ーまい

ショックだったもんじゃ、その、

「我が殺ぇた若者【わかもん】の供養ばすっため、

もうぎゃん侍どましておられん」ち言【ゆ】うて、

出家しんさいたあて。

そいで方々回いおんさったぎぃ、

いよーいよ金に困って、無一文になんさったて。

そいばズーッと、行きおらしたぎぃ、

薬【くすい】問屋ていう看板【かんぱん】の

かかっとった。

ここないば銭【ぜん】持ちばいにゃあーて。

そうしてここん辺【たり】に家【うち】の親戚も

あったごたあーて、

この侍さんの出家しんさった人【と】の

昔聞いたことのある、

ここの家【うち】尋ねて来【き】んさった。

そうして言んさっには、「私【わたし】は昔、

私の昔、親戚の家【うち】て言うことを

聞いて来ました。自分はこういう者【もん】だけど、

今はお金が一文も無【な】しになった。今度また、

向こうさん修行に行かんばならんけんが、

チョッとお金なし動かれんから、どうか、

少しお金を融通しておくんさんみゃあかあ」

て言うて、お頼みしんさった。

そいぎそこの家【うち】の人が、

「お金は貸してもいいけど、何か、

その質【しち】になる物【もん】ば

残していかんぎぃ、ただ貸すわけにはいかん」て、

言んさったて。

「いやあー、私はこの衣いっちょで

何【なーん】もなか」て。

「ほんな無一文だから頼みよう」て言うて、

熱心に言んさった。そぎゃん言うて、

即座に両手を合わせた、その、

家のご主人に向かって、

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」て、

もう何遍でん長【なん】かこと

唱えよんさったぎねぇ、ヒョロッとその主人が、

薬問屋の主人が、見たぎぃ、その言葉はねぇ、

出よおとが皆な仏さんになって、

口から来【き】おんさったて。そいぎぃ、

店の主人なビーックイしてね、

「さあ、どうぞどうぞ」ち言【ゅ】うて、

「お金をこれだけで良かったらどうか、

あなたのお入りようなだけ」ち言【ゆ】うて、

お金も融通してくいたて。

そいぎぃ、その出家さんは帰り道はまた、

そこばぜひ通らして、お金ば返さんばあ、と思うて、

帰りに寄んさったぎね、その、

立ち寄った店の主人が言んさっには、

「あれーだけの沢山の仏さんば戴いてから、

申しわけありません。

私はあんなに沢山の仏さんを

お返しすることできません。どうぞ、

用立てた金はお使いください」ち言【ゆ】うた、

ていう話。

チャンチャン。

[九九  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P373)

標準語版 TOPへ