嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

神様が朝、お目覚めになって庭にお立ちになって、

「ああ、何て清々しい朝、空気の澄んできれいで、

気持ちがいいねぇ」て、

しばらく庭にお立ちになっておられたら、

何処【どっ】からか麗しい歌声が聞こえてくる。

もう寄るようにしばらく立って、

その歌声を聞いておられました。そうすっと、

もちろん近くに家来達がおるから、

「お前【まい】達、今誰【だれ】が歌っているのか、

素晴らしい歌だったねぇ。

とても清らかないい声だったねぇ」

「ああ、歌を聞きましたけれど、

誰【だい】か顔を見かけませんでした」

「そうか」て言うて、

神さんのお部屋にお入りになったて。

そしてまた、夕方になりました。

「ああ、日が沈んだねぇ。一日暮れたねぇ」

て言うて、また庭にお立ちのなったら、

また朝聞いたあの美しい声が、

何処【どっ】からか聞こえてくる。

もう心を添われるようにして、もう神様は、

そこいらにこう行っておられたんです。

「誰かいるかなあ」て。けれども、

誰もそのへんいる人はいません。一人もいない。

そいでねぇ、もう神様はガッカリなさって、

側にいた家来に、今もほら、

今朝の歌と同【おんな】じように、

とてもいい涼しい声が聞こえたろう」て。

「そうですね。聞きました、聞きました」と、

言ったら、けれども、何も見えません。

すぐ近くの枝に、小鳥が止まっていたのが、

「私が鳴きました」

「あら、お前、歌ったのではなくて鳴いたのかあ」

て言うて「なぜ、お前は今そんなに鳴いたのか」

「今のは、私は、有難うございます。

感極まって鳴いたのです」

朝、それに今の声と同【おんな】じように

神様が聞かれたちゅうが、

「お前だったのか」

「はい、そうです」て、小鳥が言ったて。

そして話しました。

「私達は、つたない小さな生き物です。そいで、

どうか今日一日無事に過ごせますように、

どうか安全に暮らせますようにと、

お祈りをしているんです」て、その小鳥が言うた。

そいぎ夕方、今日一日無事に過ぎたから、

またお祈りをするんです。

本当に今日一日有難うございました。

本当に有難うございました。

深々とお礼を申し上げているんです。

両方とも私達の心からの祈りです。

それを神様は伝えていて、

「ああ、お祈りというものは、いいものだ。

お祈りを欠かしてはいけない。小さな生き物でも、

お祈りして。そうであったか、

お祈りは大切だよ」て。

そいばあっきゃ。

[九五  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P369)

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