嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかーしねぇ。

お爺さんがねぇ、柴刈りに行きんさったて、山に。

そして山の柴を、そのへんもう、

枯れた柴の良か塩梅(あんばい)との

沢山あんもんだから、

ほんーにその柴の溜ったちゅう。

そいでもう、日暮れ近くになったけん、

帰らんばねぇ、と思うとったけど、

余(あんま)い沢(よん)山(にゅう)取っとんしゃった。

括(くび)いよんしゃったら、空に真っ黒か雲ん出て、

夕立ちのきて、雷(かみない)さんの

ピカピカーってして、

もうじき雨の降っごとなったけん、

ほんなそこに大きな祠(ほこら)のあったちゅうもん。

あら、よか塩梅祠のあった。濡んごと、

ここに入りゅうで思うて、

括ったとばヒヨッと入るっぎぃ、

ストーンて無(の)うなっ。まいっちょ入るっと、

ストーンと。また入れたら、またストーン。

まいっちょ入れても、みんな持って帰ったなかごと、

その柴のねぇ、括ったとの、無うなったちゅう。

何処(どこ)さい落ちていったろうかにゃあ。

取い戻してこんばあ、と思うて、今度(こんだ)あ、

お爺さんまでストーンて、

そけぇ入って行きんさったてぇ。

そいぎねぇ、恐ーろしか道の広か道のあって、

向こん方に御殿のきれいかお家(うち)の

見えたちゅうもん。そうして、若(わっ)か女の、

こうこう手招きしおったてぇ。

「あらー、あすこにあぎゃん所のあるねぇ」

て言うて、行きんさったら、

「こんにちはー」ち言(ゅ)うて、女の人の言うて。

「ほんに薪(たきぎ)をたくさん

有難うございました」て言う。

冗談(ぞうたん)のごと、

薪はくいたのではなかったとこれぇ、

持って帰らんば、と思えて来たとこれぇ、

と思うたけども。

それは正直で心の優しいお爺さんだったから、

「いや、いや。どういたしまして」て、

頭を掻(か)き掻きお辞儀をしましたと。そいぎぃ、

「お爺さん、どうぞこちらへ」て言うて、

女の人に招き入れられて。そうして甘酒ばいっぱい、

そこでご馳走になんしゃったちゅ

うもんねぇ。そうして、これは美味(おい)しい、

これは美味しい、と思うて、

さあ、帰ろうーでしおんしゃったぎぃ、

そいぎぃ、何(なん)じゃいここで失いんしゃったて。

そいぎぃ(何(なに)を失いんしゃったかわからん。

手拭を落しんさったか。)、何かをねぇ、

このお爺さんが、

「あら、落したよう。帽子じゃなかったろう。

落したごたっ」ち、言いんしゃったら、

その奥の方から、お姫さんごたっとの、

ショロショロ、ショロショロって、出て来て、

「お爺さん、焚物はかまどで焚くんでしょう。

竈(かまど)で人間の顔をお作りになったら、

お爺さんは一生困らんで暮らせます。竈に、

ぜひ帰られたら人の顔を作ってください」て。

「そうすると、お家は栄えますよう」て。

お姫さんが、

「薪を貰ったお礼に、お爺さんが一生幸せなように、

竈を作ってそれに人の顔を作ってくださいねぇ。

お約束します」て、言んしゃったてぇ。そいぎぃ、

お爺さんは、

「じゃ、これで失礼をいたします」ち言(ゅ)うて、

焚物(たきもん)いっちょも持たんで、

スゴスゴと家へ帰って来たら、お婆さんの、

「今日の焚物はー」と、聞いたので、

「雨の、あの夕立ちに濡れっしもうたけんが、

預けてきたあ」て言うて、いっちょきんさった。

そうしてねぇ、

「神さんのごたっとからねぇ、良かごとば聞いた。

あの、竈に人間の顔ば作っぎぃ、

ほんにまんぐい(金マワリ)の良(ゆ)うして、

『お金も困らず、お米にも困らず、ほんに良か』て、

いうことば聞いて来たけん、

いっちょしてみゅうかあ」て言うて、

竈に人の顔ば作んしゃったぎぃ、

ほんにその家は栄えたて。

そいが初まいで、隣(とない)から隣、真似て、

竈には人の眉(まゆ)やら鼻やら

作るようになったということです。

チャンチャン。

[八六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P361)

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