嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーし。
雲の上の雷(かみなり)さん達の仲間じゃねぇ、
一年に一度嫁取りがあっとったてぇ。
そして雷さん達の仲間では、
三つ約束が決められとったちゅうもん。
いっちょはねぇ、恐ろしか肥えた人間の
お臍(へそ)ば取って来(く)っことて。二つ目は、
お臍の数ばないだけ沢山(よんにゅう)
持っとっ者(もん)。三つ目はねぇ、
背中に背負(かる)うとっ太鼓ば
恐ろしゅう高く鳴らすこと、て言うて、
約束があったちゅう。
そうして、この三つの約束が良(ゆ)う
当てはまん者が良か嫁さんば貰(も)ろうて良か。
良か嫁さんの来(い)おったちゅう。そいぎぃ、
今年も夏になったて。
どの雷さんが嫁ば取ろうかにゃあ。
嫁取い行事が始まったあ。
そうしてねぇ、ある村に桑原(くわばら)ちゅう所が
あったちゅう。そんお寺の和尚さんがさ、
夏の恐ろしか温(ぬっ)かもんじゃい、
素(す)っ裸になってこともあろうに、
お臍は丸出しでお経さんば上げよらしたちゅう。
こいば見た雷さん達ゃ、
「ありゃあ、ぎゃん肉づきの良(ゆ)うして、
太かお臍も見事かない」ち言(ゅ)うて、ガヤガヤ、
ガヤガヤ話しおったちゅう。
そいぎぃ、あわて者(もん)の我が、
あの和尚さんの臍ば取ってくりゅうだい、と思うて、
そん雷さんの、ゴロゴロ、ゴロゴロ、ピシャーって、
お寺さん落ちたてぇ。あったぎねぇ、
恐ろしか音の高(たっ)かったちゅうもんねぇ。もう、
村ん者どまドヤドヤドヤお寺さい
雷さんの寺に落ちたちゅうてさ、かけて来たと。
寺では和尚さんなお経を上げよったないどん、
今すんだとこじゃったちゅうもんねぇ。あったぎぃ、
和尚さんのこうして庭ば見んさったぎぃ、
モヤモヤモヤのして、その中(なき)ゃあ、
まあーだ若(わーっ)か雷さんのおったちゅう。
天竺さい上がいえじおったて。そいぎぃ、
和尚さんな集まって来た村の者に、
「早(はよ)う蓋ばせんきゃあ。その上、
早うシッカイ石で重しばせろ。早う蓋(ふた)ばせろ」
て、言わすけん、
村ん者(もん)な来とったもんじゃい、
太か蓋ばしたと。あったぎぃ、その雷さんな、
ヒィーヒィーヒィ、声ば出(じ)ゃあて泣(に)ゃあて、
「和尚さん、助けてくんさい。私、
まあーだ嫁取り前じゃっけん、助けてくんさい」
ち言(ゅ)うて、頼むちゅうもんねぇ。和尚さんな、
「なんじゃい。雷、お前達ゃ
夏にないしゃがすっぎぃ、
子どんば脅(おど)きゃあて、臍までちい取ろうがあ。
心安う許さるっもんかあ」て、
和尚さんの言んしゃったいどん、雷は、
「和尚さんの言んさっとは良(ゆ)うわかっないどん。
私ゃ嫁さんも取っとらんけん、
雲の上さい返してくんさい。頼みます」
ち言(ゅ)うて、泣き出すちゅう。
そいどん和尚さんな、
「いや、いや。ならん。お前(まい)達は、
悪者(わるもん)じゃ。堪忍せん。
もう困らすっだけ困らせんば、またあ、
酷(ひど)うぎゃん落ちて来(く)っぎ
困っ」て言わす。そいぎぃ、
雷さんが半べそをかきながら、
「今年ゃ、米は豊作ばい」て、
お世辞ば言いかかったちゅう。そいぎ和尚
さんな、
「ああ、百姓が良(よ)う働くけん豊作じゃよ」て、
言んしゃったぎぃ、雷さ
んの、
「和尚さん。そいぎぃ、そいばっかいじゃなかとう。
私(あたい)どんが太鼓
ば叩(たち)ゃあて、雨ば良か塩梅(んびゃあ)
降らすっけん、良かとばい」ち
言(ゅ)うて、もう、ボロボロ涙流(なぎ)ゃあて
言うもんじゃ、和尚さんも、
「そうだなあ。そう言うぎぃ、
雷さんの鳴っ年ゃ米の良(ゆ)うでくっもんなあ。
そぎゃん諺があるある」て言うて、
「ほんなこてなあ、お前(まい)達もおらじにゃ
世の中はつとまらんそんないば。そん代わり、雷、
こけぇ詑証文を書(き)ゃあとけ。ここはねぇ、
桑原ちゅう村ぼう。
『桑原ちゅう所(とけ)ぇ絶対に今から落ちん』て、
約束ば書(き)ゃあて証文ば残(のけ)とけぇ」て。
そいぎぃ、和尚さんに詑証文ば書かせられて、
その雷は、
「『桑原、桑原、桑原には落ちん』て書あて、
ようよう雲の上さい帰ったて。
そいから先はねぇ、雷さんの鳴っ時ゃ、
「くわばら、くわばら」て言うぎぃ、
ありゃここはくわばらばいて雷さんの思う
絶対ゴロゴロ鳴りやすいどん落ちんて
桑原には落ちんて詑証文ばちい書かあたもんじゃ。
そいばあっきゃあ。
[七九 本格昔話その他]
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P356)