嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

世の中の開けとらん大昔ゃ、

鬼のおったちゅうもん。

そうして、鬼どま、人間の舌ばひん抜(に)いできて、

そいば食うぎ三年も長生きしよったてぇ。

そいもんじゃい、鬼のおっ所(とけ)ぇ行くぎ

人間の舌の山んごと大事に

積んでしまってあったてばーい。ぎゃなことで、

嘘ば言うぎ舌ば抜ぎゃ来おったと鬼の、ある時さい、

山奥から赤鬼のやって来て、

「嘘言う者(もん)のおらんきゃあ。

嘘ば言うてくいろう」て言うて、

歩(さる)きよっちゅうもん。そいぎねぇ、

誰(だい)でん口ゃ、ウッて結うで

何(なん)てってん喋らんちゅう。

もう舌どんみすっぎ大事(ううごと)、

ひん(接頭語的な用法)抜かるっと思うて、

誰(だい)でん口ゃあ硬う横文字に結んで言わんて。

あったぎぃ、舌ば食べられんもんじゃい、

鬼のひもじゅうしてたまらじねぇ、

仏さんには御仏飯ば上げてあっけん、

御仏飯ないとん食うてみゅう、と思うて、

行ったぎぃ、その御仏飯ばその家(え)は

何時(いつ)んはじじゃい食うてしもうてあったてぇ。

何(なーん)も残っとらんじゃったてぇ。そいぎもう、

ひもじかもんじゃい気の短(みしこ)ういちなって、

鬼のねぇ、

「御仏飯な、誰(だが)食うたかあ」て言うて、

怖(えす)かごと太か声でその家(え)で言うたぎぃ、

年取った爺ちゃんのねぇ、

「俺(おい)が食うたあ」て、言いなったて。

そいぎぃ、

「そんないば舌ば出せぇ」て、鬼のこう、

舌ば抜(に)いでくりゅうだいと思うて、言うたぎぃ、

爺ちゃんのもう出す舌はなかったちゅう。

もう早(はよ)う空言(すらごと)ば言うて、

舌をひん抜がれて、その舌ば持ちなれんやったて。

あったぎねぇ、三つになる

小(こま)ーか男の子のさい、

「あの御仏飯ば上げんしゃったた全部(ひっきゃ)あ、

俺(おい)がいち食ううたもーん」て、

言うたてじゃっもん。

「こりゃ、ものばそぎゃん言うな」て、

爺ちゃん達の言いなったいどん、

もうちい(接頭語的な用法)言うてしもうた。

あったぎぃ、鬼のニコーニコーして、

この小(こま)ーか子の舌ないば

柔らかくして美味(うま)かろうと思うてねぇ、

その子の根つう(傍)さい来て、

「どら、舌ば出せぇ」て、言うたぎぃ、

子も正直か者(もん)じゃい舌ばペローッて、

出(じ)ゃあたてぇ。あったぎねぇ、

その舌のピカピカ光いよっちゅうもん。

あったばってん、鬼も鬼、

恐ろしか太か釘抜きば持っとんもんじゃい、

その釘抜きで舌ば、子供の舌ば抜こうで思うて、

力まかせに引っ張いどん、

どぎゃんしたも抜けんちゅう。

そいぎねぇ、鬼はとうとう諦(あき)めて、そうして、

山さい帰って行たてばい、大人達ゃさい、

じき嘘どんつくいどん、

子供は真っ正直じゃっもんじゃっけん、

いっちょん嘘はつかじぃ、

御仏飯食うごたっそがんとでんが、

「俺(おい)がいち食うーたあ」ち言(ゅ)うて、

真っ正直、ほんなこてばあーっかい言うもんじゃい、

仏さんのチャーンと守ってねぇ、

子供は嘘は言わんけん、舌は抜かれんやったてぇ。

鬼もねぇ、ガッカイしたてぇ。あいどん、

嘘ば言うぎ舌ば抜かるってばい。

チャンチャン。

[七八  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P355)

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