嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

力持ちの神さんの二人(ふちゃい)おんさったてよ。

昼間はなかなかお姿の見えんどん、

夜(よ)さりになっぎねぇ、見ゆっと。

村の男が一(ひと)人(い)、

夜よい帰って来よったぎねぇ、麦畑ん中で、

「いやいや。俺(おい)がまちかっと強か」

「いんにゃ、いんにゃ。こっちが強かぞう」

ち言(ゅ)うて、

「いんにゃ。こっちが強か」

言(ゆ)う声のしよってじゃもんねぇ。

ありゃあ、何(なん)じゃろかあ。

ぎゃん山ん中(なき)ゃあ、

と思うて行たてみんしゃったぎぃ、寒の最中に、

こともあろうに、頭も顔も着とう物(もん)も

真っ白か二(ふた)人(い)の神さんが

相撲取いしよゃったて。そいぎぃ、

麦畑の麦の植えとっ真ん中で、そうして、

男のあんさんたち、相撲、

人間て思うとんもんじゃっけん、

その通りかかった男の、

「あんさん達、相撲も良かがなあ、

そこに麦の生えとっ所(とけ)ぇ、

メチャメチャにまずいよう」

て言うて、注意したら、神さん達じゃったてぇ。

そがん力較べしおんさっとこれ、

「かんまん(構ワナイ)、かんまん」

そいから、「どっこいどっこい」ち言(ゅ)て、もう、

その辺(あた)いはメチャクチャに、相撲取った後は、

メチャクチャに麦の、あの、

踏(ふ)んつけられとったて。そいぎねぇ、

ズウッと後ん話ないどん、

村の百姓達ゃ神さんの仕業じゃもん、

仕方(しよん)なかたーい、と思うて、

我慢しとったいどん、

そこーうの神さんの踏ふんつけんさった

麦のでくっ時なったぎぃ、

恐(おっそ)ろしゅう米(麦の誤りか)の太うして、

丈夫して沢山(よんにゅう)取れたちゅうもんねぇ。

それから先ゃ、寒か時ゃ麦は、

踏んつけたが良うでくって

村ん者(もん)な皆な思うて、

麦な芯な踏みつけよったて。

チャンチャン。

[七七  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P354)

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