嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 毎年、むかしねぇ。

男の家の軒に燕(つばめ)の巣作いよったてぇ。

そうして、雛(ひな)を育てて秋には南さい帰って

行きよったちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

その男が冗談のつもいでさ、

「今度来(く)っ時ゃ、何(ない)なんとん

みやげば持って来(こ)いよう」て、

その燕どめ言んしゃったちゅうもんねぇ。

そいぎさい、夏の初めに燕が元気良く

何時(いつ)もんごとやって来たて。

「ありゃあ、元気で今年も来たばいにゃあ。

早(はよ)う来たにゃあ」て言うて、見よったぎぃ、

コトーッて何(なん)じゃい白ーか種ば

落したちゅうもん。

「ありゃあ、俺(おい)が冗談に言うたとば、

良(ゆ)う覚えてみやげ持って来たあ」ち言(ゅ)うて、

拾うてみたぎんとねぇ、そいぎぃ、あの、

種物(たねもん)じゃったけん、

「どぎゃんとの生(お)ゆうかい、

蒔(み)ゃあてみゅうだーい」ち言(ゅ)うて、

その男が蒔ゃあたて。

あったぎぃ、芽がじき出て、

もう恐ろしか勢いで伸びっちゅうもんねぇ。

そうして、暑か最中(さなか)太うか花の黄色かとの

咲(し)ゃあたてぇ。太ーうか花の咲ゃあてねぇ。

そうして、畑いっぱい広がって、

実もなったちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

男はその実ば抱えて、

「こりゃあ、煮て食うもんじゃろうかにゃあ、

焼いて食うとじゃろうかにゃあ。

こぎゃんもんじゃろうかにゃあ。

どがんもんじゃろうかにゃあ」て、言うたぎぃ。

そいぎぃ、嫁さんが出て来て、

「こぎゃんとも食わるっくさんたあ。まず、

煮てみゅうかあ」て言うて、眺めて見よったいどん、

「晩のおかずに、良か塩梅」ち言(ゅ)うて、

鍋いっぴゃあ煮んしゃったて。あったぎぃ、

ほんに一口、食べて

美味(おい)しかったちゅうもんねぇ。

「こりゃあ、美味(うま)かにゃあ。隣も、

また隣も配ろう」ち言(ゅ)うて、あっちこっち、

「こりゃあ、燕のおみやげばんたあ。燕のねぇ、

持って来てくいた種からできたとう」ち言(ゅ)うて、

配んしゃったぎぃ、近所の辺(にき)ん者の、

「そりゃあ、そいぎ何(なん)と言うとやろうかあ」

ち言(ゅ)うて、聞きんしゃったけん、

「あはあ、何(なん)ちゅうとじゃろうかあ、名前も、

そいこそ知らん。何じゃろうかあ」ち言(ゅ)うて、

皆が寄ってたかって、頭をひねいひねい、

「南ん国からどっちしろ運んで来たとじゃいけん、

あっちん辺(にき)、

カンボジャちゅう国のあってじゃろう。そいぎぃ、

その名前ばとって、『カンボジャ』て、

ちぃ(接頭語的な用法)つきゅう」て言うて、皆が、

その太ーかとの花の黄色かとの咲くとに、

「カンボジャ」て、ちぃつけたて。

そいが未だに南瓜(かぼちゃ)になって、

「未だに夏の食べ物(もん)なほんに美味(おい)しか」

ち言(ゅ)うて、皆が戴きおっとよ。

そいばあっきゃ。

[七六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P353)

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