嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

人間ば神さんの作んさっ大昔のことよ。

神さんはねぇ、人間の腹ん中(なき)ゃさ、

心の中に良か虫と悪か虫と一緒に

住まわせんさいたて。

そいで良か虫の元気か時ゃ

何事(にゃあごと)なかと。

そいどん、この悪か虫のさ、その扇(あお)ぎもう、

そいが暴るっぎ大事(ううごと)。その人間のさ、

悪かとこばあっかい触れ回(まや)あて

歩(さる)くちゅうもん。そうして、

人の悪かとばっかい言うとない良かいどん、

我が悪かとこまで喚(わめ)ぇて、触れ回すて。

そいぎねぇ、その上さ、

人間世界ばっかいじゃなしねぇ、

その人間の本人の遅(おす)う眠っとっ夜中に、

この悪か虫のジーッと人間から

這(ひ)ゃあ出(じ)ゃあて、

天の神さんの所(とこ)さい行たて。そうして、

その人間の悪口ば申し上ぐっちゅうもん。そいぎぃ、

神さんのそいばほんなこて聞いて、

「確かに聞いたあ」ち言(ゅ)うてねぇ、

「ぎゃん人間の悪かないば、

その者(もん)な何処そこの何(なん)ちゅう村の

何ちゅう所(とこれ)ぇ住もうとっとかあ」

ち言(ゅ)うて、詳(くわ)しゅう聞いて、

「ぎゃんまで悪かた人間世界から追い出さんばあ」

ち言(ゅ)うて、神さんの

その者(もん)ば知んさっぎぃ、確かにもう、

長(なご)うせじ

その人間は死んごとしんさっちゆう。

そいどんねぇ、誰(だい)でんほんなこたあ、

何時(いつ)死んででんよかてちゃ言いおっても、

死んとがいちばん怖(えす)かとばい。

長生きしたかと。死んとうなかとがほんな心て。

そいもんじゃねぇ、我が悪口どん言われて、

神さんのお前(まり)ゃ死ねて言んさっぎぃ、

死なんまらんけんと思うて、

そいから先ゃ庚申さんというとはばい、

猿の神さんじゃっもん。そうしてねぇ、

夜(よ)のよしして、その庚申さんな悪か虫が

そうつかんごと番してくるっ神さんて。

もう、そいぎぃ、夜のよしして、

庚申さんな番しとんさっもんじゃい、悪か虫ゃあ、

人間世界では悪口ば言うたいもすいどん、

天神さんの所(とこれ)ぇは絶対行きえんて。

天の神さんの所(とこ)さい

登って行こうでしよっぎぃ、この猿の神さんの、

「こりゃ、こりゃあ」ち言(ゅ)うて、

頭から叩(くら)せんさっと。

そいぎぃ、人間はそいば良(ゆ)う知っとっもんじゃ、

庚申さんばあすけにもこけにも、そうして、

向こうにもというごとお祭いして、

そして自分達の幸せに暮らしゆっごとちゅうて、

誰(だい)でん頼みおっとよ。そして、

庚申さん祭いをすっと。

そいばあっきゃ。

[七三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P351)

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