嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ある村では、神さんなあ、

火の灯りでそいば目当てに集まって来(き)んさっ。

そうして、火ば焚くぎ必ず煙(けむ)いの出(ず)っ。

その煙いに乗ってあっちに行ったり、

こっちに行ったりしんさっあ。そいで、

ご馳走(っそう)ば供ゆっぎその匂いば食べんさっあ。

そぎゃんことば聞いてねぇ、年の晩には神さんばあ、

お招きすっために、いっぱい神さんの境内で、

火ば燃やすとて。そいぎねぇ、

その大歳の晩のことやったて。

そのー氏神さんの境内でドンドンやって

火ば燃やおんさったぎぃ、あの、子供が、

お火焚きに参(みゃ)あったて。

「一年病気どましませんように、

災難もありませんように」て言(い)うて、

そうして火に当たって帰りおったて。

そして、そのお火焚きに行たて

友達と帰ってみよって、もう別れ際になって、

「さよならー、またねぇ」ち言(ゅ)うて、

ヒョッと山ば見たぎねぇ、

赤(あーっ)か着物(きもん)ば着て

赤か帽子を被ったとの扇ばヒラヒラヒラヒラーって

させて、恐(おっそ)ろしか

愉快そうに踊いおんさった。

ありゃあー、珍しかにゃあ、初めて見たーて、

そん子は思うてね、家(うち)ん者(もん)にも

見しゅうて思うで、急いで家(いえ)ん中に

駆け込んだいどん、家ん者な誰(だーい)でん、

もう寝とんだけやったて。そいぎその子も、

布団にもぐり込んで、そのまま寝らした。

夜の明けたぎぃ、もう、その日はお正月よう。

そいぎぃ、

「お正月にご先祖さんに参(みゃ)ーって

来(こ)んばあ」て、お父さんから言われて、

お参りに、あの、ご先祖さんのお仏壇にお参りに、

ヒヨッと床の間ば見たぎぃ、

夜(よう)べ見た人とソーックリの人、

家(え)の上の踊いよんさった人の床の間に

チョコーンと座って、ニコーニコーしとんしゃった。

そーいぎ子供はビックイして、

家(うち)ん者(もん)に、

「床の間に夜べねぇ、赤(あっ)か着物(きもん)着て

踊いおんさったと、

家ん者の床の間に座るっとんさいようー」て、

おっ母(か)さんに言うて、

「ああー、その人(ひっ)たんがお正月さまじゃろう。

家(うち)にもお正月さんがござったなあ。

粗末にすっことなんぞう。

あの人がお正月さんじゃぞう。良かったなあ、

家(うち)にも正月さまござってぇ」ちて、

おっ母さんの喜びんしゃったて。

そういうことです。

チャンチャン。

 

[七二  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P351)

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