嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

それこそもう、ズーッとお爺さんのまたお爺さんの、

またお爺さんちゅう、

むかーしむかしあった話ですよ。

あるねぇ、お家(うち)におタツていう

女の子がおったんだってぇ。ところが、

小さい時からねぇ、恐ろしか目の大きくてねぇ、

いろいろなことを聞くちゅう。聞くんですって。

お爺さんが何(なん)とか言うと、

「あら、それは何処(どっ)からどうしたと。

これは何処から取ってきたあ。どうしてこれがある」

て言うて、もうそのおタツに会うたら、

もう質問責めだったそう。本当にお爺さん達も、

物知りの人達も困いよんしゃったてぇ。

そのおタツがねぇ、だんだん大きくなったらねぇ、

「盆の十六日に恐ろしゅう、

あんた達ゃ盆の十六日は、

早(はよ)う山の高(たっ)か所に

誰(だい)でん集まんしゃい。命を落すばい」て、

もう正月時分から言うたてぇ。そいぎ誰(だい)でん、

「ありゃ、ちぃった余(あんま)いあぎゃん

何(なん)でん聞きおったけん、

気の狂うたっじゃろう。おかしかこと言うねぇ」て、

言うことを本気にせんじゃった。しかし、だんだん、

だんだん、八月の盆頃になったら、

「皆、命が危かけん、墓さい十六日は登んさい。

墓さい集まらんばよう」て言うて。

そいどんそん年の盆の十六日はねぇ、

空が青く澄み渡ってもう、そりゃあもう、

雲一つなか風も起こらん良か日和じゃったて

じゃんもんねぇ。

ところが、三時頃になったぎぃ、

恐ろしか東の方の海が真っ黒になった。

「おかしかねぇ」と、村の人達が言いおったぎぃ、

ゴーッて、音のしたかと思ったら、

山のような波が押し寄せてきたちゅうよ。

恐ーろしか高(たっ)か波の押し寄せてきて、もう、

逃ぐっだんじゃなかったてぇ。そいぎぃ、

おタツの言うことを聞いて、

お墓には二十四、五人ぐりゃあ

集まっとんしゃったてぇ。そいぎぃ、馬鹿にして、

里におった者(もん)な

皆(みーんな)流されて

死んでしみゃあいんさったてよ。

そいからまた、こんなこともあったちゅう。

「ほんに手の痒(かい)か。痒か、痒か」

ち言(ゅ)うて、きれいか娘さんの右手をむしって

痒しゃしおんしゃったて。

そのうち骨の出てくっごと

痒いしゃしおんしゃったて。

そいぎぃ、

「何(なん)でん知っとらすけん、

あのおタツさんに診てもらいんしゃい」て、

言う者のおって。そいぎぃ、

「お医者さんでんなかとけ知っとんしゃんもんね」

て、言うことじゃったけど、その人は、

おタツの家(うち)を尋ねて行って、

「手の痒い」ち言(ゅ)うて。

「どらー」て、言うてその、

おタツの大きな目で見たら、

「あら、あんた、ここに虫の沢山(どっさい)おっ」

ち言(ゅ)うて。

そうしてすぐ、竹のへらんごたっとで、

シュシュシュって、つまんで、

もう二、三十匹も一寸ばっかいの

虫ば出しんしゃったてぇ。

そいから先はその手は

チットモ痒くないようになって、

立派(じっぱ)にその娘さんはお医者さんでもない、

おタツのお陰、手がきれーいに治んしゃったて。

そんなこともあったちゅうてね、そいから先は、

おタツは目が恐ろしく大きくて、「あの目のー」て、

言いいよったけど、皆が、

「あの眼力はすごさあ」て褒めた。

[七〇  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P349)

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