嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかし、大昔のこったいねぇ。

村には塞の神さんちゅうとの祀っちゃったあ。

塞の神さんな日の当たらん所(とけ)ぇおいなった

ちゅうもんぇ。そいで一年中、

風邪引きばっかいしとんさいたあちゅう。

「ああ、寒か寒か。ああ、熱の出たあ」ち言(ゅ)うて、

一年中働く日ちゅうて、いっちょんなか。

風邪引きばっかいじゃったちゅう。

あったもんじゃい貧乏ばっかいじゃった、

その塞の神さんな、山の神さんに沢山(よんゆう)

銭(ぜん)ば借っとっち。借金しとんしゃったて。

そいぎねぇ、その返済の期限がさ、

正月の十五日に決めとんしゃったてじゃんもん。

「十五日の来っぎ返すばーい」て、

ぎゃん言うとんしゃったて。あったぎねぇ、

じき、明日(あした)は正月十五日にいちなったてぇ。

そいぎぃ、塞の神さんな、さあ、

どぎゃんすっかにゃあ。

銭の何(なーん)も返す銭はなかとこれぇ、

チョッと考えんさいた。

山の神さんな強かけん返さんぎぃ、

怖(えす)かごとなっばいなーあ。

ここ辺(たり)もうおらんごとないろうかあ、

と思うたぎぃ、

どぎゃんないとんせんぎ困んにゃあと思うて、

塞の神さんな考えてさ、前ん晩ねぇ、

「そうだ」て、思(おめ)ぇつきさいたて。

そうして、こうして田圃ば見たぎぃ、

まーだ正月時分までじゃい、

百姓達の田圃の中(なき)ゃあ藁の沢山(よんゆう)

残っとったちゅうもん。

そいばドンドンやって運んで来てさい、

我が家にはいっぱい山んごと積んでねぇ、

塞の神さんな、火ばつけんしゃったて。

そいぎ乾いた藁はボンボンやって燃ゆっし。

そいぎぃ、ゴウゴウやって音たてて燃えたて。

あったぎぃ、もうそけねぇ、火の燃えおっ時、

もう朝になって山の神さんの借金の催促に

やって来んさいたて。あったぎねぇ、

沢山(よんゆう)藁の燃えた時来て、塞の神さんな、

そけぇつっ立って、太ーか溜め息ため息ばしんさっ。

「山ん神さん、借金ば返さんらんじゃったいどん、

仕方なかあ。ぎゃんして丸焼けしたばーい」て、

言んさったてぇ。そいぎぃ、そいば目の前見てさい、

山ん神さんな、さあ、返せ。もう返せて、

気の毒で山ん神さんに言われんじゃったあ。

「お気の毒じゃったねぇ。あいどん、塞の神さん、

あんたは無事じゃったけん、まあ良かったたーい。

あいないないば、また、

来年の十五日来っばっかいなーあ」て言うて、

帰らしたてぇ。そいぎさい塞の神さんな、

「はーい」て、返事さいたちゅうもんねぇ。

あいどん、呑気かもんじゃいけん、

そいから先も借金な返しえじさい、

塞の神さんなもう、そういうこっじゃったてぇ。

再々、借金の催促を受けおらしたて。そのたんびに、

藁ばつん燃やちゃあ、

「返す、返す」ち言(ゆ)うて、

言いおんしゃったぎぃ、そいから先ゃ、

村ん者(もん)も塞の神さんに加勢して、

猿田彦の宮さん藁ば運うでさい、そうして、

「さあ、ドンドンと燃やせ。さあ、ドンと燃やせ」

て言うて、あの、正月の十五日焼きおった、

燃やしおった。

そいがねぇ、ズーッと伝わって、そうして

「どんど焼き」ちゅうごとなって、

こりゃあ、どんど焼きの始まり。

「ああ、世話なし世話なし」ち言(ゅ)うて、

どんど焼き燃やしよった。

チャンチャン。

[六二  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P340)

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