嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
冬になっぎさい、山奥から鬼ん出て来て、
子どんば連れてはって行たて、
いち(接頭語的な用法)食いよったちゅうもん。
そいでもう、冬になっぎ
村ん者(もん)は怖(えっ)しゃしおらした。
「今年も早(はよ)う雪の降ったけんん、
食べ物にかつれとっ(飢エテ)鬼どんが
また来っばい」ち言(ゆ)うて、
恐(おっそ)ろしかビクビク、
ビクビク世話焼きよったあ。
「こりゃまた、どがんすっぎ良かろうかにゃあ。
鬼ば追い払う方法どまあんみゃあかあ」て言うて、
その話ばっかいじゃったてぇ。
あいどん、
何(なーん)も良か考えはなかちゅうもんねぇ。
あったぎねぇ、
「こりゃあ、神さんに頼んでみにゃあ。
神さんに頼むとがいちばん良かばーい」ちて、
言うた者のあったてぇ。そいぎぃ、
全部(しっきゃ)あ村ん者(もん)な、
「もう寒うなっけん、
鬼の来(く)んに違(ちぎ)ゃあなか。
氏神さんに一晩中お籠いして、お頼みしゅう」て、
言うことになって、
全部(しっきゃ)あどめ
一晩中寝じお籠(こも)いばしおったてぇ。
あったぎぃ、明くる日はさ、寝不足でばい、
そうして誰(だい)でん早(はよ)うから
夕(よう)べ一晩中寝じおったもんゃい、
良う寝たちゅう。
あったぎねぇ、いちーばん子どんば沢山(よんにゅう)
持っとっ村ん者(もん)の父(とう)ちゃんに
明け方夢ば見せんさいたてばい。
そりゃあねぇ、
「鰯(いわし)の頭ば真っ黒かごと焼(や)あて、
すぼらきゃあて、
金串(かなぐし)に突き刺(し)ゃあて
門口に立てとっぎ鬼どま寄いつかん」
て、神さんのもう、
何遍でんそいば言うて聞かせよらすたい。
そいぎぃ、近所ん者(もん)に、
「もう、夕(よう)べ夢見た」て。
「神さんの鰯ん頭ばすぼらきゃあて、
門口立てとっぎ鬼の寄いつかん」て、言うたぎぃ、
「そんくりゃあですむことないば、
誰(だい)でんしゅう、易かこと」て言うて、
全部(しっきゃ)あどめ、じき鰯ば買(こ)うて来て、
頭ば真っ黒焦(こぎ)ゃあて、
そうして表(おもて)に立てとったぎばい、
もうその日の夜(よ)さいさみゃあ(ニカケテ)、
山奥から鬼がやって来たちゅうもん。
あったいどんねぇ、何処(どこ)ん家(うち)からでん、
何(なん)じゃい臭(くさ)かとの
鼻に入(ひや)あい込むて、そうして、
煙(けぶい)のごたっとの出よっちゅうもんねぇ。
そいぎぃ、鬼の言うことにゃあ、
「目も開けちゃおられんにゃあ。
何(なん)じゃい臭か嫌な匂いがすっ」ち言(ゆ)うて、
太か鼻ばクンクンさせおったちゅう。
「こいばひっこくろうない(ガブ飲ミスルナラ)
たまらん」て言うって、また家(え)さにゃ来じぃ、
皆山さい全部(ひっきゃ)あどめ行たちゅう。
「良かったない。神さんのやっぱいありゃ、
お告げで知らせてくんさったあ」て言うて、
村ん者は嬉しがっとったあ。
あったぎねぇ、一年ぐりゃあ来(こ)んじゃったてぇ。
二年目にばい、
山(やみ)ゃあ焚(たき)物(もん)
取いぎゃ行た者のあったてねぇ、
そうして帰さみゃあ(帰リガケニ)
鬼のそこん辺(たり)ぃ歩(そう)つきよっとば見て、
もう焚物どまほたいう捨てて(放置シテ)
我が家(え)さい帰らしたちゅう。そして村ん者にゃ、
「また鬼どんが歩(そう)ちいて来(き)おっばい」
て言うた。
「こりゃあ、たまらん。
また氏神さんに聞くにこしたことはなか。
氏神さんにお籠(こも)いばしゅう」ち言(ゅ)うて、
じきお籠いばさしたちゅう。
そしたらば、今度(こんだ)あ神さんのお告げはねぇ、
「そうかあ」て。
「『我が境内でねぇ、
竹ばないだけ沢山(よんにゅう)集めて来て、
ボンボンやって燃やすぎ良かあ』て言う、
お告げやったあ」て、
言う者の村ん者の中(なき)ゃああった。あったぎぃ、
「神さんの言んさっごとしゅう。
そいがいちばん鬼には効くっ」て言うて、
竹どん面々取って来て、
そうしてドンドンやって燃(も)ゃあたてぇ。
そいぎぃ、竹じゃもんじゃいポトンポトン、
ポトンポトン爆発すっごという。
冷やかもんじゃい子どんでん全部(ひっきゃ)あ
集まって、氏神さんの境内で当たいよったぎ、
鬼のやっぱいやって来たて。そうして、
「村に誰もおらじぃ、子どんでん見えんじゃっかあ」
て、こがん言うてねぇ、鬼の、あいどん、
氏神さん所(とけ)ぇ火の燃(む)えよんにゃあ。
ありゃあ、火事じゃっかにゃあ、と思うて、
こうつま立って見てみたぎぃ、
一時(いっとき)したぎぃ、ボターンボターンて、
爆発すっごと音のすっちゅうもん。
「怖(えす)かにゃあ。
ぎゃん爆発音どま今まで聞いたことなかったあ。
人間は恐ろしかことばすんにゃあ。
臭かとば煙(けぶ)らきゃあたい、爆発ばさせたい。
こりゃ、人間にゃ寄りつかれんて言うて、
山奥さにゃ鬼どま逃げて行たて、
そいから先ゃいっちょん鬼の姿は見えんかったてぇ。
チャンチャン。
[六一 本格昔話その他]
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P338)