嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

梅やんと竹やんが山越えして大晦日に、

年越し参りをしおったちゅう。

あったぎ山の上まで来たぎ見たごともなか人の、

頭の上にねぇ、扇ば乗せてさ、

ボソーボソ独り言いいよらした人(と)に、

出会いんさったてぇ。

頭の上に扇乗せとんしゃったてぇ。

竹やんが梅やんに言うことにゃ、

「誰(だい)やろうかあ」

て、聞いたぎぃ、

山ん上で会(お)うた人のニコーっと笑わしたて。

そうしてまた、ボソボソボソって、

言いおらしたちゅうもんねぇ。

見たぎぃ、そけぇは一(ひと)人(い)じゃなし

四、五人もおらすごと見えたて。二(ふ)人(たい)は、

「ありゃあ、何人でんおらしたなあ」ち言(ゅ)うて、

思うとったぎぃ、扇ば、シコシコっと投げて、

その上に全部(しっきゃ)どめ乗って、

おらんごとなってしまわしたて。

そいぎ二人は年越し参いをすませて、

家(うち)さん帰り、年を取っ時、嫁さんに、

「年越し参(みゃ)あいしおったぎぃ、山ん上、

不思議な人に出っかしたあ」ち言(ゅ)う、

その不思議か話ばしおったぎぃ、床の間からねぇ、

「我がどんやったよう」て、声のしたちゅうもん。

そいぎ声のすっ所さい行たてみたぎねぇ、

山の上で会うたそん人の

餅のお供えしちぇやっ所(とこ)ん前、

チョキーンて座っとんさったてばあーい。

そいぎ家(うち)の者(もん)に、

「山の上で会うた人の家(うち)の床の間に

来(き)とんさあ」って、言うて皆で見らしたぎぃ、

全部(しっきゃ)で見た時ゃ、

姿も形も見えんされんやったて。梅やんな、

「ほーんな、俺(おい)は見たのに」ち言(ゅ)うて、

悔しがったてぇ。そん時ねぇ、山の上で見て、

家(うち)にも座っとんさいたとけぇて、

ほんに悔しがったいどん、

婆ちゃんが話しんしゃには、

「年の晩から正月にかけてはのう、

正月さんの何処(どこ)ん家(いえ)にでん、

松の木ば目当てにお出でんさっ。

そいけん床の間には、チャーンとお飾りに、

お餅を供えばらん」て。

「そいぎそけぇ、

ジーッと何時(いつ)でん座っといござっとよう」て。

「そうして、その正月さんの来(き)んしゃっごと、

何処の家にでん、門松ちゅうて立ちゅうがあ。

松の木ば目当てに来んさいとっ。

お正月さんの来んさいとっ。そうして、

そのお正月さんな床の間にジーッと座ってねぇ、

この家の無事息災を祈ってくんさっ。

そいけん、昔から言い伝えば守らんばあ」て、

婆ちゃんな言うて聞かせんたいたあ。

そいで、梅やんも竹やんも、そいから先は、

門松はしっかい立てたい、お餅のお供えも、

ちゃんと訳ば聞いてからは、すっごとなったちゅう。

お正月さまの話、チャンチャン。

こりゃ、

ちゃあーんとお正月ば立派(じっぱ)にすっごとね。

[六〇 本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P338)

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