嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしねぇ。

何でも一口にグッて、

ひん(接頭語的な用法)飲む人のおらしたてぇ。

食べ物(もん)ばやっぎグッて、ひん飲んで、

もう一(ひと)飲(の)みしてしまう。

「味も何(なん)もわかったもんじゃあんみゃあだい」

て、人達の言いおったないどん、

ひん飲むとば自慢する男じゃったて。

そいぎある時、太かお饅頭ば持って来て、

そのグッと、ひん飲みゆって自慢する男に、

「このお饅頭ば一口でひん飲みゆっやあ」て聞いた。

そいぎぃ、

「ひん飲みゆっ。任せて」て、言うたて。

そいどん、その太か饅頭にジイッと

針ば入れた者(もん)のおったて。

そうして、

「こいば、ひん飲みゆっねぇ」

ち言(ゅ)うて、言うたぎぃ、

「任せて」て言うて、見事にひん飲んだ。

ところがさ、余(あんま)り太かったもんで、

そん時は目どま白黒させて、その男はねぇ、

大きか饅頭を一口に飲んだてよう。

「ありゃあー」て言うて、

誰(だい)でんビックイしたそう。

「自慢すっだけあんねぇ。

あぎゃん太かとば一人(ひとい)では

食べきらんごたっお饅頭でん、

ひったくってひん飲んだもんね」て言うて、

皆は帰ったて。

そいぎぃ、

そのあとで太か饅頭ばひん飲んだ男のお母さんがさ、

「家(うち)うちの息子は、腹ん痛しゃコロコロして、

腹ん痛しゃしおっ」

て、言う声の家の外まで聞こえおったて。

「お前(まい)、饅頭には針(はい)どんが

入っとったとではなかろうかあ」

ち言(ゅ)うて、恐ろしゅう世話焼いてじき

腹薬どんば飲ませんさいたどん、

「お腹(なか)の痛か。お腹のせく」ち言(ゅ)うて、

夜中(よさいじゅう)コロコロしおんさいたちゅう。

その翌日は、

公役ちゅうて誰(だい)でん働き出んばらんとでん、

その働きに行きえじぃ、苦しゃもう、

汗冷水(ひやみず)たらして、

「痛か。痛か」て、言いおんしゃったて。

そのうち、その男が縁側にヒョッと出よったぎねぇ、

雀がさ、あの、韮(にら)の葉ば取っちゃあ食べ、

取っちゃ食べ、こずいて食べおって。そうしちゃあ、

糞(ふん)ばコロッて、しいしい(オシッコ)するて。

糞ばすっ。不思議かにゃあ、と思うて、

「おっ母(か)さん、あの、

雀の糞ば持って来て見せて」

て、言うたら、おっ母さんは、何(なん)でぇ、

と不思議に思うとったて。

「そがん言うわじぃ、

雀の糞ば拾(ひろ)うて来てよう」

て、一生懸命痛かながら、

「あ痛(いた)、あ痛」て、言いながら頼むもんで、

「そうねぇ」ち言(ゅ)うて、

おっ母さんが拾うて来たので、

そいば紙の上でつぶしてみよったら、

針金のいっぱい糞の中に入(はい)っとったてぇ、

雀の糞の中に。あらー、そいぎぃ、

あの韮ば食うぎ金物でん何(なん)でん、

下(くだ)っとばいねぇと、その男は気のついて、

「おっ母さん、韮のそこん辺(たり)ぃ

あっごたっけん、韮ば、生(なま)ば取って来てぇ」

ち言(ゅ)うて頼み、その韮ば刻(きざ)うでもろうて、

「お腹(なか)の痛かとの治るかわからん」

ち言(ゅ)うて、

刻んだ韮ばおっ母さんに食べさせてもらったて。

そいぎにゃ、すぐお便所に行きたくなって、

お便所をすませたら、ケロッて治ったて。

ありゃあ、雀んごとあぎゃな何(なん)も知恵も

何処(どけ)あろうかちゅうごとあんもんでん、

生活の知恵はチャーンと知っとっとねぇ。

「ほんに、あの雀から教えられたばい。

あのまま死ぬとこじやったあ。

こげん良か知恵は人にも教えんばない」

ち言(ゅ)うて、おっ母さんと息子は、ホッとしたて。

[五九  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P337)

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