嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある大工さんがねぇ、京都のお寺ば造る時にね、

方々から大工さん達が雇われんさったぎぃ、

その大工さん上手やったけん行きんしゃったてぇ。

あったぎぃ、

よう長(なご)うかかってようよう仕事がすんだもんじゃい、

家(うち)さい帰って来(き)おんしゃったちゅうもんねぇ。

そして我が家(や)さい、

「ただいまあ」ち言(ゅ)うて、帰んしゃったぎ二(ふた)人(い)、

嬶さんの出迎えたて。

どっちがほんの我が嬶さんじゃい、チョッと見分けがつかん。

良(よ)う見ても、どっちも良(ゆ)う似とんもんじゃ、

こりゃあ奉行所さん訴えて出んばあ、と思うて、

「家(うち)帰ったぎぃ、

私ゃ一(ひと)人(い)持っととの二人(ふちゃい)嬶がおっけん、

どっちがほんな嬶じゃい裁(さび)ゃあてくんさあーい」ち言(ゅ)うて、

奉行所に行きんしゃったぎねぇ、

「承知した」て言うて、奉行所では一本橋ばベロッとかけ。

そして、

「二(ふた)人(り)の嬶、あの橋は物の見事に渡りえた者(もん)が、

本物の嬶ばんたあ」て、言いやった。

あったぎぃ、

いっちょんとが、

「はい」ち言うて、サッサアサアで、その橋ば渡いかけた。

あったぎねぇ、後ろの方に控えさせとった者のねぇ、

橋の真ん中ん辺(たい)、ドーンと鉄砲で撃ったぎぃ、

その橋の真ん中辺(たい)の嬶さんが鉄砲に撃たれて、

コローッて池に落ちたいどん、

見てみたぎ太ーか狸やったてぇ。

そいぎぃ、狸の化けて来とったあ、て言うことです。

チャンチャン。

[五六  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P334)

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