嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村に不思議な災難ばっかい起こいよったて。

おんちゃんが山に登いよらすぎぃ、山の天辺(てっぺん)から

太か岩のゴロゴロきて、どぎゃんこってん登られんちゅうもん。

そうして、

もう太か道じゃなし小(こま)ーか脇道ば行かんばあて。

そこさいも横さいも転げっちゅうもんねぇ。

そいから、おばっちゃんの暗(くら)ーか夜(よ)さい

提灯つけて行きよんさっぎねぇ。

そいぎぃ、

その提灯ば誰(だい)じゃい、ちぃ消すて。

そぎゃん不思議なことばあっかいあいがおったて。

そいから、

子どんが五人も川さにゃ泳ぎゃ行くぎぃ、

「こっちさい来い。こっちさい来い」ち言(ゅ)う者(もん)のあって、

もう五人の子供は、アンブクアンブグっさすて。

誰(だい)じゃい押しゃつくって。

そいぎぃ、

五人行たうち三人はどぎゃんこってん死んで仕(し)舞(みゃ)あおったて。

そうして、

芋畑に行たてむっぎぃ、太かとを掘いくい返(かや)あて、

一(ひと)かぶいずつかぶいついてあって。

「鼠の仕業じゃろうかあ。ぎゃん、この仕業じゃ困んにゃあ」て言うて、

村ん者(もん)な、

「もう、ぎゃなことは昔ゃなかったいどん、不思議かにゃあ」

ち言(ゅ)うて、困いおったて。

あったぎぃ、隣村のさ、恐ろしか若(わっ)か者の元気かとのおったとが、

「こりゃあ、何(なん)じゃいの仕業」て。

「そいば退治せんぎぃ、安心して暮らされんぼう」て言うて、

「俺(おい)が三日のうち退治さてやっ」ち言(ゅ)うて、

元気坊がその村にやって来たて。

その災難続きの村さい来てくいたて。

そうして、その村ばウロウロ、ウロウロ回って

歩(さり)いたちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、

何(なーん)も変わったことのなかて。

二日目も何事(にゃあごと)なかて。

「何(なーん)もありゃせんとば、余(あんま)いビクビクしおらすけん、

なかことまであっごたっ」ち言(ゅ)うて、その男は、

「シッカイ皆せろ」ち言(ゅ)うて、元気づけて村ば回いよったいどん、

「まあ、ぎゃーん何(なーん)も三日も世話すっごとなかない、

災難じゃなか。話ばかいたい」て言うて、

石の転んできたい、子供が川(かや)あ入(ひゃ)あたいぐゃあ、

あっくさいて、

その青年も思うとったて。

あったいどん、

もう明日(あしちゃ)あは三日と約束しとっもん。

帰ろうと思うとったその三日目の夕方じゃったぎぃ、

池の所ん辺(にき)ば通いおったぎねぇ、

もう日の暮れおっとこれぇ、

木の枝にもう、立派か太か蝶の手のひら広げたごと太か蝶の止まったて。

「ぎゃん暮れになって、蝶の止まって。あの蝶のきれいさ、きれいさ」

ち言(ゅ)うて、

この青年な突っ立って見よったちゅうもん。

あったぎねぇ、

その太か蝶ば畳んだーい閉じたい、畳んだーい閉じたいすっ

根元ん辺(にき)ばジーッと見おったぎぃ、

狐の手のごたっとの時々見ゆってじゃっもん。

そいぎぃ、

若(わっ)か者(もん)なハッと思いたったと。

ジーッと屈(かが)んで石ば手に取って、その蝶ばめかけてパーッて、

投げらしたちゅうもん。

あったぎ蝶のさ、「ギャー」て、言うたてじゃっもん。

そうして、蝶はとうとうじき見えんごといちなったて。

そいぎぃ、

蝶の止まっとっ所ん辺(にき)に若者の行たてみたぎねぇ、

あったぎぃ、

九つも尻尾を持っとった太か狐のねぇ、

臓のにきから血ば出ゃあて、ゴローッて死んどったてぇ。

そいぎぃ、

「こん狐が、ぎゃん悪さばしおったとばーい。

お大師さんにつんのうて来た『九尾の狐』ち言(ゅ)うとは、

こいがこっじゃったばーい。

日本に何時(いつ)まっでんおかじぃ、ちぃ死んだけん良かったにゃあ。

こいからもう、誰(だい)でん安心して良かあ」て、言いよった。

ところがねぇ、

そがん悪の猛(たけ)た狐じゃったけんねぇ、

死んどらじ一時(いっとき)したぎ生きあがったて。

「日本人は全部(しっきゃ)あどめぬてって(ナマクラ)しとって、

思うとったぎぃ、わやくばしよったぎぃ(イタズラヲシテイタラ)、

仕舞いはやられた。

私の傷も深かごたっ。

あいどん、

唐には良か練薬があっけん、この膏薬ばつけんば治らん」て。

「我がは、

ぎゃん日本に何時(いつ)まってんがおっぎぃ、ちぃ死なんばらん」て。

「早(はよ)う唐さい帰って、あの練薬で治(ゆ)うなろう」ち言(ゅ)うて、

涙は流しながら、そがん言うて、そうして唐さい帰って行たて。

そいから先ゃ、この村は何事(なーんごと)なし平和じゃったて。

そいばあっかい。

[五五  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P333)

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