嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

和尚さんがねぇ、火葬場に経読みしぎゃ行きんしゃったてぇ。

その帰い道にさ、(小僧さんも連れて行きんさいたもんねぇ。)

その小僧さんが小さい赤(あっ)か犬(いん)ば連れて来たもんじゃい、

「ありゃあ、可愛い犬じゃのう。親にはぐれたとじゃろう」て、

その犬ばお寺で飼うことにしたて。

そうして、

子供や近所の人達まで、

「ほんなこて可愛いか子犬」ち言(ゅ)うて、

いろいろ子犬に食べさすっとまで持って来(き)おったちゅう。

ところが、

だんだんその犬が太うなって人にもとても懐(なつ)いたて。

そいぎぃ、

だんだんしてみたぎねぇ、犬じゃなしに狐じゃったちゅうもん。

そいぎねぇ、

「ありゃ、犬じゃなし狐じゃった」ちゅう評判になったて。

そうして、ある日、

本山のねぇ、和尚さん方のその寺へ立ち寄んさっ、

と言う知らせの入(はい)ったて。

そいぎぃ、

小僧さんも和尚さんも部屋の掃除やら片付けやら、大変じゃったて。

そうしたところが、

その本山から来(き)んさった和尚さんが、

「俺(おり)ゃ、他所(よそん)ところにまあーだ回っ所のあっけん、

回ってから夜(よ)さいになってから来(く)っけん」て、

言うことやってやんもんねぇ。

そいぎぃ、きれいに片付けて夜になって、長(なご)ー待ちよんしゃったて。

そうしてから、

高張提灯ば先頭につけて寺さい来(き)んしゃったちゅうもんねぇ。

そうして、しばらくお茶やら、お料理やら出たちゅう。

そうして、

しばらくしたぎぃ、

「こちらに狐がいるちゅうことを聞いたがあ」て、

本山の和尚さんが言んしゃったちゅうもん。

「そいけん、

そいば一遍見てみじゃあもんじゃっけんが(見テキタイモンダカラ)、

連れて来て見せてくれー」て、言んさんもんけん、

連れて来てみたぎぃ、

膝の上に、そい、狐ば抱き上げて

油揚げやなんかを食べさせたいしおんしゃったて。

「ああ、いいですなあ。丸々と太っとる」ち言(ゅ)うて、

褒めたいしおんしゃった。

そいぎぃ、

「お聖人様は、よっぽど狐がお好きなようでぇ」て、

和尚さんの言んしゃったて。

「いや、いや。私ゃ生(せい)あるものはみんな好きですよ。

可愛いですなあ。

そうして、まあ、よく慣れとっ」て言うて、

言んしゃってじゃんもんねぇ。

そうしてねぇ、

「そのうち表(おもて)に、伴の者が待っとる。

その伴の者から文箱を受け取って来てくださらんかあ。

あなたと内密の話もありますから、人をお人払いをお願いしますよ」て、

大聖人さんが言んさっもんじゃっけん。

それを聞いて、表に和尚さんが行ってみると、

誰(だーい)もおらんてじゃんもん。

そいで

部屋に戻って来たぎぃ、お聖人さんも、その狐もおらんじゃったてぇ。

そしてもう障子に穴が開(あ)いとったてぇ。

「ありゃあ、このお聖人さんちゅうとは、

親狐が子狐を取い戻しに来たとやったばーい」て、

和尚さんは初めて納得しんさったちゅう。

そいばあっきゃ。

[五三  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P330)

標準語版 TOPへ