嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

本当(ほーんと)に静かな山の村じゃったて。

そこにねぇ、もう何時(いつ)ーも化け物(もん)の出てきて、

そうして、

あの、大晦日の晩には、年頃の娘を山の上のお宮さんに、

連れて来てくれていうことじゃった。

ところが、

そん時は、何事(なゃーごと)じゃいそがん言う、何となくこう、

触れの出たけれども、山の上の宮さんに娘ば連れて来て、

その娘が一(ひと)人(い)も帰って来(こ)んて。

「不思議かにゃあ、とこともなかあ」て言うてねぇ、言いおんさったぎぃ、

その、ある長者さんの家(うち)にねぇ、猫を飼(こ)うちゃった。

ところが、

その猫ば飼(き)ゃあーはじめてから、もう、そこの奥さんが、

もう体が弱(よお)うなってねぇ、年中病気てじゃもんねぇ。

そいぎもう、

ほんーに心配しおんさったて、家族な皆。

ところが、

その猫のおっ母(か)さんの寝つきんさってからはねぇ、

しょっちゅうその、寝とんさっ寝床の側から猫が離れんそうです。

そうして、おトイレに行きんさっ時も、

その猫がニャンニャン、ニャンニャンついて来るそうです。

そいぎねぇ、ご主人が、

「来(く)んな」て、そのヨローヨロして行きんさもんじゃけん、

トイレにもご主人につんのうて(後カラツイテ)行きよったて。

そして、

猫のメンメン言(い)うて、

もうほんな足下から足もつりになるごとついて来(く)んもんじゃから、

「お前(まい)は来んな。来んな」ち言(ゅ)うて、

もうしょっちゅう追い払いおんさった。

そいどん、

もう、そん猫は忠実で、もう年中その奥さんの、

年寄いお母さんの側から離れじぃ、

ご飯食べんさっ時も側におっ。

休みんさっ時も側におっ。

そしてトイレ行きんさっ時も来っ。

そいぎぃ、

「母ちゃんがぎゃん体の弱(よわ)うなっとは、

この猫が家(うち)に来てからやった。

そいぎこの猫が何(なん)か悪霊ば持って来とっに違(ちぎ)ゃあなかあ」て、

言うてね、

そのご主人が刀ば持ち出(じ)ゃあて猫の首ばダーッて斬んさった。

あったぎね、ほんなトイレの入い口にねぇ、

恐ろしか腕んごと太か蛇の、いかーにももう、何(なん)か、あれは、

こう舌ば出(じ)ゃあてはくごと、前厄(まえやく)ばかくごと、

弱い目かくごと、その妖気、何(なん)かを吹きかけよったて。

そいでもう、

猫ばターッて斬んしゃっぎねぇ、

そいまで家(うち)んども誰(だい)も知らんじゃったいどん、

その蛇の喉首のガーッていうて、そこに飛(と)うで行たて、

食らい付(ち)いとったて。

そうしてその、

大きな蛇がドターッて、庭に落ちたて。

そいぎぃ、

家(うち)の檀那さんがね、

「お前(まい)はぎゃん忠実か猫やったか」て。

「ほんに家の嫁さんが体の弱ったとも、

あの蛇が妖気ばハッハーハッハーかけられてナヨーナヨいちなったとば

助けてくいたとなあ。

お前(まえ)は忠義な猫じゃったとけぇ、

いち殺(これ)いて悪いことした」て言うて、

自分の墓の横に猫の墓ちゅてお祀(まつ)りして、

内輪ん者のごーと丁重に霊(れい)を祀りんしゃったて。

それからねぇ、

その奥さん、元気が出んしゃったて。

そして、何事(にゃあーごと)病気もなし、元気が出て、

治(ゆ)うなんしゃったて。

チャンチャン。

[四八  本格昔話その他]

(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P325)

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