嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

海岸に猟師の村があったてぇ。

そけぇはねぇ、

大方猟師さん達ばっかいじゃったちゅうねぇ、その村は。

そうしてねぇ、その日はねぇ、

朝んうちゃあちぃっと曇っとったいどん、

余(あんま)い風もなかごたっ日じゃったけん、

若(わっ)か猟師さん連中ばっかいやったけん、

「ぎゃん日はさ、魚(さかな)は沢山(よんにゅう)捕るっばん」て、

誰(だい)じゃい言うたもんじゃい、

「そうたい、そうたい。ぎゃん時、魚ば沢山捕らんばのう。

舟ば出そうやあ」て言うて、もう若か連中ばっかいやったもんじゃい、

沖さい舟ば出(じ)ゃあたてぇ。

空はほんなこて曇っとったばってんね、網ばひゃって、投ぐっぎもう、

今まではなかったごと沢山(よんにゅう)面白かごと

魚の捕るっちゅうもんねぇ、

「ぎゃん、良か漁はなかあ」ち言(ゅ)うて、

昼前までもう沢山(よんにゅう)魚ば捕れてね、

「もう、昼上がりなっとんもん。

あつこの島さい行たて、あの、昼どんしゅうかあ」ち言(ゅ)うて、

皆、舟は小(こま)ーか島に着けたて。

そうして、弁当ば食べおっ時さ、

仲間の一(ひと)人(い)がねぇ、

「ありゃあ、白蛇の珍しかにゃあ」ち言(ゅ)うて、

一匹の小ーか白蛇ば見(め)ぇかかったちゅうもん。

そいぎぃ、一時尻尾ばグルグル握って回(まや)あてみたい、

そいから棒で叩(たち)ゃあてみたい、面白半分ばしおったぎぃ、

その蛇はねぇ、一時(いっーとき)ゃあっちさいウロチョロ、

こっちさいウロチョロしおったいどん、

背中に傷は合(お)うし、人間がグルーッと、取り巻いとっもんじゃい、

どぐろ巻(み)ゃあとったて。動きえじぃ、

あったぎ仲間の一人がね、

「ぎゃんとばうち(接頭語的な用法)殺(これ)ぇて、何にならんなあ。

可愛そうかなあ、もうお前達、ぎゃん白蛇どめぇへつろうもんじゃなかあ」

て言うて、白蛇ばつまんでね、

「草むらの中さい早(はよ)う逃げろ。もう、来っこんなんぞう」て言うて、

あの、草むらさい逃がしてやったちゅう。

そうして、全部(しっきゃ)あの者(もん)はもう、

ご飯もすんどったもんじゃい、

「まいっちょ、お魚ば捕ろうやあ」て言うて、

また舟ば沖さい出(じ)ゃあたてぇ。

そいぎぃ、出ゃあて魚ば捕いよったぎねぇ、風ん出てきたちゅう。

昼上がい過ぎから。

そうして、波の太かとの立ってばい、

「誰(だい)でん用心せろよう。右舵(かじ)、そりゃ左舵」ち言うて、

「もう、あの、いいしこ捕ったけん帰ろうやあ。

もう、岸さい帰ったがましばい」て言うて、

仲間が力ば合わせて帰りかけた時には、

なかなか大波の寄せて来て、もう舟もゆうこときかんちゅうもんねぇ。

そうこうしよっうちねぇ、

とうとう大波に舟は引っ繰い返ってしもうたて。

そうしてねぇ、

もう、海岸では家(うち)の家族の者(もん)が、

「朝から出た舟の帰って来(こ)ん」ち言(ゅ)うて、待っとったいどん、

その晩なとうとう舟で出た者な帰って来んやったちゅう。

そういうところに、もう夕方暗(くろ)うなってから、

あの白か蛇ば助けてくいた男がねぇ、一人、助かったらしゅうして。

海岸には来んで、昨日昼飯食うた小島(こじま)に流され着いたて。

そいどん、

波にもまれたいしとったもんじゃっけん、

体はだるうして動かんちゅうもんねぇ。

そうして、

その島は無人島じゃったちゅう。

困ったにゃあ、起きえーん、と思うとったぎね、

向こん方からねぇ、笊(ざる)ば抱えてきれいか女の人のやって来て、

一時(いっとき)したぎその女ん人は、

「やっと気がつきんさいましたねぇ」て言うて、

「私の方につかまってください。じき近くに私の家(うち)があります」て、

言うちゅうもん。

そいぎねぇ、肩につかまって、

その家に連れて行たて傷の手当てもそこん家でしてもろうたて。

そうして、

ご馳走どま我が好いたとば知ってばしおったろうかにゃあ、ちゅうごと、

我が好いたとばっかい並べて食べさせてくいたて。

そいでもう、

その男はねぇ、

「こがんして助けてもろうて、有難うござんした。

舟に流されてしもうたもんじゃい、

体がきつかばっかい」ち言(ゅ)うて、言うたぎね、

柔らっかフカフカの布団にまで寝せてくいて、

そいから先ゃねぇ、その漁師さんな、もう混々と眠っとったてぇ。

そうして、目を覚(さみ)ゃあてみたぎねぇ、

気のついたとは我が家(え)のぼろ布団に寝とったちゅうもん。

ありゃあ、家(うち)の者の介抱してくいたろうかにゃあ。

あいどん、

きれーいか女(おなご)のご馳走食べさせてくいたにゃあ、

て思(おめ)ぇ出しよんしゃった。

そうして、気のついて、

「一緒に行た者達ゃ、どがんなったろうかーあ」

ち言(ゅ)うて、聞いたぎぃ、家ん者のショボッとして、

「ああ、わい達ゃ、全部(しっきゃ)あちぃ死んだばーい。

あんた一(ひと)人(い)助かったとう」て、言うことやった。

ところがねぇ、夢んごとして思うて、

我が枕元に紙包みのあったてじゃっもん。

「こりゃ、何(なん)じゃろうかにゃあ」ち言(ゅ)うて、

開(ひら)ゃあてみたぎね、もう小判の五枚(ごんみゃあ)、

ピカーッて、光っとの包んであったて。

「不思議かにゃあ。ぎゃん銭(ぜん)のう」て言うて、

その紙に包んであった銭ば広げた見たぎぃ、

蛇の鱗(うろこ)の付(ち)いとったちゅう。

あいどん、

男はね、チャアーンとそのわけが、その時わかったちゅうばい。

ありゃあ、こりゃ、

俺が白蛇ば助けたあの晩が、我がにお礼にくいたばーいて、

チャアーンと、わっかったちゅう、

そいばあっきゃ。

[四七  本格昔話その他


(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P324)

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