嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしの話やんもんねぇ。

お爺さんとお婆さんとが仲良く暮らしおったちゅう。

お爺さんは何時(いつ)ーも山さん焚物(たきもん)を取りに行きよんさったてぇ。

今日(きゅう)も山さん焚物取いぎゃ行きおんしゃったぎぃ、

道でさ、ガヤーガヤー子供がおって言いよったちゅうもんねぇ。

何(なん)じゃろうかにゃあ、と思うて、覗いてみんしゃったぎぃ、

一匹の小猿を太か荒縄で括(くく)っていじめよっちゅう。

そいぎぃ、その小猿が、

「キャ、キャ」ち言(ゅ)うて、鳴きおっちゅう。

そうして、こうー木の上ば見たぎぃ、親猿はさ、

木の枝にブラ下がって、

そいを動きもせじ心配そうに見おったちゅうもんねぇ。爺さんな、

「ほーんに、こりゃこりゃ。

お前達、何(なん)ば我が無茶ばしおっかあ。

そん、猿の親猿が心配して見おっぞう。そら、見てんのう。

木の上から見おっぞう」言うてから、

「お前達ゃ、おもちゃんごとそぎゃんいじめよっない、

そん猿ば俺(おい)にくいろう」て言うたぎぃ、

子供は何(なん)とも言わじようしとった(黙ッテイタ)。そいぎぃ、

「あがんと、お前達には銭(ぜん)ばやっ。

そいけん、その小猿を私(わし)にくれ」て

、言んしゃったぎぃ、そいぎぃ、

「やろう。やろう」ち言(ゅ)うて、わけもなし子どんが、

その小猿ば爺さんにくいたちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、爺さんはねぇ、小猿ば離(はに)ゃあたぎぃ、

小猿はじき親ん所(とこ)に、木に登って行ったちゅう。

そうして、その日、

お爺さんが家(うち)さい帰っとったぎねぇ、夜、

「トントン、トントン」と、戸を叩く者(もん)がおっちゅう。

「誰(だい)だあ。もう何(なーん)もかかっとらんけん、

入(はい)って来(こ)いよう」言うて、声ばかけんしゃったぎぃ、

今日の親猿じゃったちゅう。そうして、

「お爺さん、小猿ば助けてくださって有難うございました。

こいは、ほんなそん時のお礼です」ち言(ゅ)うて、

一文銭ば三枚(さんみゃ)あもくれていたて。そうして、

「こいはねぇ、なるべく太うか

木の箱に入れとってくださいよう」と言って、

帰って行たちゅう。

そいぎぃ、お爺さんなその晩じきぃ、

太うか木の箱ば見つけて、その一文銭の三枚あ入れとんさったちゅう。

そうして、夜(よ)さい寝とんさったぎぃ、

夜中に箱ん中がねぇ、

「ガサンガサンガサン、チャランチャランチャラン」て、

音のすっちゅうもんねぇ。

奇妙な音のしてきたにゃあ。何じゃろうかにゃあ、と思うて、

夜んの夜中(よなき)ゃ箱ん中ば見てみんしゃったぎさ、

一文銭の三つ入れとったぎぃ、

箱一杯(いっぴゃ)あ一文銭のなっとったてぇ。

そいぎぃ、お爺さんな、こりゃあ、猿の仕業(しわざ)ばいにゃあ。

「有難い、有難い」ち言(ゅ)うて、

両手を合わせてそのお金ば拝みんさいたちゅう。

何時(いつ)も貧乏じゃったからねぇ、

「有難か。有難か」ち言(ゅ)うて、拝みんしゃったてばい。

そいから先ゃ、

爺さんな恐ろしゅう金持ちになって暮らしんしゃったてぇ。

あいどんねぇ、このお爺さんなもう、

ほんに心の良すぎっごたっ人じゃったもんじゃっけん、

我がばあっかいこぎゃん良か目に合うて罰(ばち)かぶっごたんにゃあ。

誰(だい)でん周りゃ貧乏人ばっかいとけぇ、

この銭ば誰(だれ)ーでんわけてやって喜んでもらおうだい、

て思(おめ)ぇたって、一文銭ば三枚(さんみゃ)あ持って、

鍛冶さんに行きんしゃったて。そうして、鍛冶屋さんに、

「こいば半分に切って、六文にしてくいござい」て、

頼みんしゃったぎぃ、

鍛冶屋さんのその銭の三文の

沢山(よんにゅう)なっとば噂に聞いとったぎぃ、

この銭ばいにゃあ。この銭で爺さんな分限者にないおったばいにゃあ。

そいぎぃ、俺(おい)がこいば貰うて、

他に作ってやっぎ良かさい、と思うて、

他の銭で、こいば半分にして、六枚ににゃあて、

一文銭ばこしらえてお爺さんに渡しんしゃった。お爺さんな、

「有難うござんした。有難うねぇ、有難うねぇ。

人にも嬉(うれ)っしゃさしゅうだい」て言うて、

抱(うだ)いて持って帰んしゃったて。

そうして、家(うち)さい帰って

楽しか気持ちでその晩は眠ったいどん、

箱に入れとっても、チリンともコソッとも言わんじゃんもんねぇ。そいぎぃ、

「おかしかにゃあ」ち言(ゅ)うて、箱ば見てみんしゃったいどん、

やっぱい六文ににゃあた六文入っとっばかいやったて。

お爺さんのねぇ、ありゃあ、

あーん鍛冶屋のすい替えたばいにゃあ、て思いんしゃったて。

「あいどん、待て、待て。腹立つに及ばん及ばん。

爺もなあ、あの猿から貰うたばっかいで、

あん猿から貰わんじゃったて思うぎ良かもん」ち言(ゅ)うて、

あきらめんしゃったて。

そいで、何(なーん)ても言わじいおんしゃったて。

一方、鍛冶屋さんなさ、

一晩くれて朝目ば覚ますよいか早(はよ)う、

銭のいっぴゃあなっとっばいと思うて、

箱ば開けて見んしゃったいどん、

ありゃ、何遍見てもただの石。

ありゃあ、俺が扱うぎただん石じゃったて。

ほんな三つ、小石のあるだけじゃったてばい。

そいばあっきゃ。

〔三一  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P300)

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