嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 そいから今(こん)度(だ)あ、継子いじめ、継子。

むかーしむかし。

長者さんの家(うち)に、

隣の長者さんの家(うち)からお嫁さんが来ました。

お嫁さんはねぇ、じきーお腹に赤ちゃんができたんです。

そいで、産着を、小さな子が生まれてくるために、

産着を縫いながら、ほんに、私ゃ今度、

男でも女でもいいけど、女の子だったら色の白い、

心の優しい子が生まれたらいいけどなあて、

そんな生まれてくる子供の夢を見ながら、

一生懸命縫い物をしておんさった。

そしたら、もう月にいっぺい生まれてきた子供は、

このお嫁さんの思いどおりに女の赤ちゃんでした。

けれども、一週間もこのお母さんは生きとることができないで、

産後が悪くて、早く若死にしてしまったです。

もう赤ちゃんはもう、乳欲しがってもう毎日毎日、

泣くもんだから長者さんの所では、

ほんに赤ちゃん育てるのに困って、

じき後添いにお嫁さんをもらったんです。

そして初めは、この二番に来たお嫁さんも、

小さい赤ちゃんを可愛がっていたけど、

この二番目の奥さんにも、じき赤ちゃんができて、

そいもまた生まれた子供も、女の子でした。

だけども、そのいちばん目に、

先(さき)、生まれた赤ちゃんのように可愛くもないし、

色は小黒くて、もうはらせじゃあて、

余(あんま)りこう、愛らしゅうして来てくる人もなかったんです。

そういうことで、ここの長者さんの家(うち)に用があって来る人は、皆、

「前の奥さんな子供さんが可愛い、可愛い」と褒めて。

そうして二番目の奥さん子供は、

見向きもしないでいたもんだから、

この心良(ゆ)う思っていなかった。

だんだん成長していろいろ物心ついて、

用事ができるようになると、もう、だんだん日が経つにつれて、

自分の子が可愛いけど、

「先(さき)の子がいると、もう較べ者(もん)にさるっと、

必ず早く生まれた子は、ああ可愛いとか、

色が白いとか、うちの子は、私の持った子は、

色が黒いから一(ひと)人(い)も褒めてくれん」て言うて、

もう先(さき)の子には、

「庭の掃除もせろ。さあ、家ん中の雑巾かけだ。さあ、お洗濯だ」

もう暇がないように言いつけて、

仕事ばっかりさせて。そいでも飽き足らんで、もう長者さんに、

「この子がいるために、私(あたし)の生んだ子は、

もう心が歪(ゆが)んでしまう。皆、

ここの家(うち)に用事に来る人も、

前の子ばっかい褒めて、私の子は見向きも誰(だい)でんせん。

この子が目障りになった。

他所(よそ)の家(うち)にも仕事があるから、

少し見習いに他所にやったらどうねぇ」ち、

もう長者さんにしょっちゅう、子の初めに生まれた子の、

他所にやるのが好きなように、

家(いち)に一緒に暮らすのが、ほんに辛いように言うもんだから、

それが初めのお子さんは、心優しかったもんだから。

今(こん)度(だ)あ、ある日のこと、

「お父さん、何処(どっ)かの家(うち)に私でも雇ってくれる人があったら、

しばらく他所の家(うち)に行ってみましょうか。

毎日毎日、お母さんがプンプンしおんしゃっ、

あんなにお腹立ちだから、お父さん、もう私、

親不孝すると思います。

お父さんに気の毒にたまりませんから」ち言(ゅ)うた。

「お前(まい)も、そう思っているか。

私(わし)もそいだけが、あの、二番目のおっ母(か)が辛く当たるもんで、

かねて苦しんでいたんだよう。

お前が他所の家に行ったら、お前はきっと可愛がられるに違いない。

何(なん)でも良くできるから、そいぎぃ、

そのようにしてくれるか」て、ある日の親子の物語で、

「はい」て、言うことで、いよいよ出かけることになりました。

そうしてテクテクテク道をドンドンドン行くけど、

行けば家(うち)のない、もう野っ原の一本道で、

ドンドン歩いて行たら夕暮れに近くになって、

ある森に入(はい)ったんです。

ところが、もう森の深いこと深いこと、

森を歩いて行ったら、草がギッシリ生えていて、

もう日暮れが早(はよ)うですねぇ、もう薄暗くなって、

とうとう夜になりました。

ああ、怖いなあ。こんな所(とこ)で、山ん中で、

林の中では寝とったら、何(なに)か、狼やら、狐が出て来たらどうしよう。

と思うて、足を小走りに急いで行ったら、

向こうにポッカリ灯りが見えたんです。

ああ、灯りが見えて良かった。

あの灯りを頼りにしたら、きっと家(うち)があるに違いないと思って、

ドンドン、ドンドン灯りにかけて急いだら、

やっぱり一軒の小さな小さな家(うち)があったんです。

そこの家(うち)を、もう戸が閉まっていたから、

ドンドン戸を叩いて、

「旅の者です。どうか一晩泊めてください」て、

言ったら、中から背の低い小母(おば)さんが出て来て、

「あら、今とを叩いたのは、お前(まい)だったのか。

お前はねぇ、ここから何処(どこ)へ行くんだねぇ」て、聞いたら、

「私ゃ当てどもない、何(なに)か仕事があるところで、

仕事させていただいたら、いいなあと思うて、

仕事見つけに来て、やっとこのお家(うち)に

辿(たど)り着いたところです」と、言ったら、

「そうかあ。もう夜だから泊まる所がまだ見つかっていなかったら、

家(うち)でもいいよ。家でもお前さんと同(おんな)じような子供がねぇ、

まっと小さいけど、五人も子供がいる。そして私がひとりいる」て。

「だけど、明日(あした)の朝になったら、

私はね、出かけなくちゃいけない。

そいけん、その五人の子供と一緒に面倒を見てくれたら、

家(うち)でも雇ってやるよ」て、

その背の低い小母さんが言ったから、

「結構です。何(なん)でもいたしますから」て、

言うことで、一晩そこに泊まることになりました。

そうしてもう、草臥れてグッスイ眠っとったら、

朝目が覚めた時、もうその小母さんは何処(どこ)に行ったのか、

見当たりません。まあ、小さな子供がワンヤワンヤと、

見てみたら着物は汚れたくった着物を皆が着ていました。

そいを見て、この娘さんは皆それで着物を探して、

新しのを着せて、その着物は川で洗ってやりました。

そうして家の中は、そりゃあもう、散らかし放題、

もうみんな何(なん)でも紙屑もあれば、

ちゃんちゃんこもあるし、ズポンもあるしで、

もうその家いっぱい散らかっていたのを、

きれいにそれぞれ片(かた)付(つ)けて、

そうしてもう泥足で上がったらしくて、

床(ゆか)も汚れていたから、そんな雑巾がけの、

かねて家(うち)にいたから、きれいに拭いて。そうして、

「もう姉ちゃん、何(なに)か食べたい。

何か食べたい」て、言うから、

「粉(こな)が何処(どっ)かあるねぇ」ち、

聞いたら、いちばん大きな子が、

「ここから何時(いつ)もお母さんが出したいたよう」と言うとこ見たら、

いっぱい缶かんの中にメリケン粉の入(はい)っていたから、

それでパンを作って、パンをその五人の子供達に昼は食べさせたて。

「美味(おい)しい、美味しい。姉ちゃん、大好きだ」と言って、

子供達が懐(なつ)いてくれました。

夕方になったら、あの背の低い小母さんが、

「ただいま」ち言(ゅ)うて、帰って来た。

もう、家の中はきれいに片付いて、あんなに泥足が、

あっちもこっちも、

もうベタベタくっついて床も汚れていたなが立派(じっぱ)に磨いてある。

子供達の身なりも、汚れた着物もきれいに洗ってありまして、

これが自分の家(うち)の子供かと思うように、

ビックリしたよう、思う通りそんなに言って、

「有難う。この姉ちゃんがしてくれたの。

有難う、有難う。そいじゃ姉ちゃん、

何処(どこ)にも行く当てがなかったら、家(うち)でいいよ。

家に泊まっていき。本当に、

あなたが来てくれたお陰で、私助かるよ」て言うて。

子供達は口々に、

「お昼にパンまで焼いてくれて、

パンが美味(おい)しかったよ」て。

もうそいでも、言うことなしでこの小さい女将(おかみ)さんは、

「お前(まい)に決めた。お前、いてくれ。

娘さんよ、良かったら家(うち)にいてくれ、頼むんだから」もう、

この娘さんはその家(うち)に、とうとうまた一日暮れた、

また一日暮れた。一年も考えてみたら暮らしたんです。

ちょうど一年経った時に、女将さんが言うたけん、

「もう一年なるから、

お家(うち)に一遍かえってみたらねぇ」て言ったら、

娘さんはコックリと頷(うなず)いたぎぃ、

「そうねぇ」

「娘さんや、あなたほんに家のためになってくれたけど、

何にも他にない。あの、屋根裏に大きな長持ちが一つある。

その中に箱がいっぱい詰っとるんだよ。

その箱はどれでもいい。娘さんが好きなだけ貰っていってくれ。

役に立ってくれた、それ差し上げるから」

大きな箱もあるし、中くらいのもあり、

小さいのもあったんです。

いろいろ箱があるもんだから、こんなに沢山。

長持ちの中のいちばん小さな箱を貰って、

「あんた、それでいいのか。そんな小さなでいいか」

「どうもお世話になりまして」ち言(ゅ)うたら、

「本当に大助かりじゃった。あんなに家の中ば、

床(ゆか)ばピカピカ、子供達も皆、

『姉ちゃん、姉ちゃん』ち言(ゅ)うて、楽しんで暮らした。

「女将さん、お世話になりました」て言うて、

そこの家(うち)から帰って行ったんです。

長い長い道のりを、

「ただいま」て、帰った。

小さな箱をお父さんが開けた。

もう眩(まばゆ)いばかりの金貨がいっぱい詰っていた。

そうして、そこから金貨ば出して、

振ったらポロポロポロ金貨が後から後から、

とめどもなく金貨が落ちるんです。

それを見た二番お母さんは、もう嬉しそうな顔をしない。

「良かったじゃないかあ。金貨が詰った方を貰って。

もっと大きいのを貰って来れば。欲出したねぇ、お前は」

小さいのを貰って来たのに、

非常に何(なん)か機嫌が悪い。そして、

「今度、私(わし)の娘を、そこを良く教えてくれ。

今度、大きな方を貰いに、この子をやるから」て、

言うことで、今度、自分の子を、

「道順を良く姉ちゃんに聞くんだよ」て言うて、教えたて。

そいぎぃ、あの原っぱをズンズン、ズンズン通って、

日が暮れる頃に林の中に入(はい)りました。

林の中でとうとう日が暮れたて。夜になってしもうて、

もう心細くなって、こんな所で泊まりもできない、

と思って、急いで歩いて林の中を入(い)って行たら、

向こうにポツーンと灯りが見えたて。灯りが見えたから、

希望をもって一心に灯りの家(うち)に飛び込んだら、

そこが小さか家(うち)であったけど、私が一年もいた家(うち)でした。

そこに五人も子供達がいて、とても賑(にぎ)やかだったんですよて。

そしたら、チョッと道順はちっとも間違いないように、

その家に辿(たど)り着くからということで、

この後妻に生まれた子供は、言われたとおりに歩いて行ったんです。

そうすっと、やっぱい森の入り口で日は暮れました。

林の中をドンドン歩いて行くと、いよいよ夜深くなって、

梟(ふくろう)はホーホー、ホーホーて鳴いて、

気味悪いようでしたけれども、ドンドン急いで、

その林を抜けていた所に、小さい小さい家があったて。

そこの戸をトントン、トントン叩いて、

「道迷った者です。この家に泊めてください」ち言(ゅ)うて、

その二番お母さんの子供が、飛び込んだら、

「いいよ、いいよ」と、

前の娘さんみたいに働き者(もん)だと思って、

小さな女将さんは、一晩泊めることになったんです。そうして、

「あくる朝は早くから、私は出かけなくちゃいけないから」と言った。

そうすっともう、五人も小さな子供達が、

ワヤワヤワヤ言うて、やかまし言うから、

「うるさい、うるさい」て、

朝から晩までその二番お母さんの子供は怒鳴っていなくちゃいけない。

何(なん)にもしないポカーンとしているうちに、

一日が暮れたら、あの女将さんが帰って来たんです。

「ただいま」

そうして、その姉ちゃんが、

「遊んでも、やかましい。騒ぐとやかましい」て言うて、怒るから、

「この姉ちゃんは嫌だあ。前の姉ちゃんがいい。

前の姉ちゃんは、なぜ来ない」て、もう子供達は皆が言う。

お母さんに申し上げるんです。そうすると、このお母さんは、

「明日(あした)になったらね、

お前さんはここの家(うち)にいないでもいい」て。

「この子達が、お前さんを嫌がるから、じき帰ってくれ」て。そうすっと、

「そうします」と、言ったけども、

「でも、女将さん、箱を貰いに来ました」て、言うたち。

「そうかい。箱を欲しいのかい。

その箱ならね、明(あし)日(ちゃ)あ、

私が行た留守でもいいから、ここの屋根裏に上がって、

長持ちの中、自分の好きな物を持ってお行(ゆ)き。

箱ない幾らでもあるよ。一つだけだよ。

幾らでもやらない、たった一つ持ってお出で」て言って、

女将さんはあくる日、夜が明けたら出かけて行たて。

この二番目のお母さんの姉ちゃんは、

納屋の裏に上がって見たら、言われたとおり長持ちん中、

その中に大きな箱やら、小さい箱やら、いっぱい詰っていました。

もう大きな箱、大きな箱。大きい大きいのに目がくらんで、

もう本当に大きいのを、自分が入(はい)るくらいの大きな箱を選んで、

それを引きずり、納屋から引きずり降ろして、

それを背負って、自分の家(うち)テクテク、テクテクと帰って行った。

「ただいまー」て言うて、帰ったら、

もうお母さんが待ちかねていた。

キッとお前だから、大きな箱を貰って来ると思うとったあ。

大きな箱にいっぱい金貨が、あの先(せん)の子供よりも、

もっと沢山の金貨が入(はい)っているちゅうあいで、

これもう、ジローッと前の子供を、

そいから長者さんを睨(にら)んでいたんです。

そうして、この中にはいっぱい金貨が入っているもんだと思って、

箱をパターンと開けた途端に、

その大きな箱ん中から、

大きな大きな毒蛇が幾らでも出てきて、

あの女将さんに真っ直ぐに、スルスルっと行って、

かぶりつき首にも巻きつき息の根を止めた。

その次には、他の毒蛇も、

この二番目のお母さんから生まれた子供の手を噛(か)み、

足を噛み、首を噛み、

そうして二人とも見る間に毒が回って死んでしまうと見届けたら、

何(い)時(つ)の間(ま)にかその毒蛇達が姿を消してしもうたんです。

もう、心の優しい先(せん)の奥さんの子供は、

本当にそのお母さんが大変仕事ばかい言いつけて、

自分を憎んだけれども、死んでしまったお母さんを大変悲しんで、

野辺送りをしたんです。けれども、

その長者さんの家(いち)には、それから平和と和やかさがみなぎって、

毎日笑い声が絶えないような平和な日々が戻って来たち。

そいばっきゃ。

〔三九  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P312)

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