嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

大変犬を可愛がる神さんがおんさったて。

とうとうその狛犬は、もう神様の前から離れんごとなって。

そこに行たそうです。

そいで良いお爺さんが村にいた人達が、

もうその、神社の周りを何時(いつ)―でもお掃除をきれいにし、

必ずもう、毎日、お参りを欠かさずお参りをしよんさった。

そうしたらねぇ、狛犬さんがもの言うたて。

「爺ちゃん、明日(あした)来る時は、

叺(かまぎ)を持って来てくれんやあ」て。

そいぎ良いお爺さんで、狛犬さんの、

神さんの家来の言うことじゃっけん、

こりゃあ言うこと聞かんば、と思うて、持って来たら。

神様に手ば叩いて拝んでから、

「狛犬さん、叺を持って来ました」ち言(ゅ)うた。

「そいぎぃ、私(わし)の口に当ててくれー」て言うてね、

口に当てんさった。

そしたらね、口から出るは出るは、

小判なポロポロポロ、ジャリジャリ、ジャリジャリ、

もうこの叺一杯出たて。そいぎねぇ、

「そりゃあ、爺ちゃんにやるから、

自分で自由に使いなあ」て言うて。

もう、担ぎきらんごとしてねぇ、持って、

ヨチヨチして帰った。

そうして、その良いお爺さんは、それからというものは、

金持ちさんになって、とても裕福な暮らしやった。

そいぎぃ、隣(とない)の方(ほう)にねぇ、

自分の小さい時から遊んどったあ、ありはその、

横道坊て、元気坊の爺ちゃんな年取っておって、お友達やった。

「あなたは、お前(まり)ゃあ気色に(スサマジク)、

大変その、分限者なたあ」て。

「金持ちどがんして、そぎゃん莚(むしろ)いっぱいもお金ば得てきたとう」て言うた。

「そりゃあ、神さんの所(とけ)ぇおんさっ狛犬さんの口から貰(もろ)うたばーい」

「そいぎぃ、私(わし)もそいばしてみたかーあ。

私(わし)も貧乏ばっかいもう、飽き飽きしてこの世に生きとっとも、

もうほんにこんな難儀しては、

もう暮らそうごとなかと思うとったあ」て言うてね、

じき翌日も暗かうちから叺を持って、

狛犬さんのアーンちゅうて、そこに上げとったぎぃ、

うっともチャリンとも音のせん。

もうしびればきらしてねぇ、もう腕はこう、

肩まで入れてお腹ん中にゃ(ニハ)あろうかにゃあ、

と思うて、手ば入れてかき混ぜよった。

そしたらねぇ、お天道様の出る頃にゃ、

その狛犬さんの口が、アブッて塞がった、手ば塞いだて。

そいぎぃ、

「あ痛(いた)、あ痛、あ痛」で、食い込んだもんだから、

その手を抜かそうでするけど、なかーなか抜けない。

そいでもう、その晩は暗くなっても、その爺ちゃんは帰らんもんだから、

家(うち)ん人が来たら、手を挟まれている、狛犬に。

そいぎぃ、村の近所の人達、村ん人達が、いっぱい寄せ集めてねぇ、

「家(うち)の人は、右手は切ってばしせんぎ外(はず)れんごたっ。

どがんしたら良かろうかあ」ち言(ゅ)うて、

もう皆(みんーな)で神さんに拝む。そして狛犬さんに、

「何(なん)とか離してください。離してください」て言うたら、

その晩の夜中に神様の声が聞こえてねぇ、そしてあの、

「うちに毎日お参り来てくるっ、

あの隣の爺ちゃんば呼んで来い」て。

そいぎ皆(みんな)でその隣(とない)の爺ちゃんはもう、

抱ゆっごとして連れて来てねぇ、そいぎぃ、

「お前(まい)、手の食い込んで、

こぎゃんこっちは紫になって、

手は死んごとなっとっ。こりゃあ大変だ」て言うてね、

狛犬さんを撫でて、その、友達の肩ん辺(にき)ば撫でたらね、

スウーッと手が抜けてきたて。

そいからは心を入れ換えては、良い爺ちゃんにねぇ、

大変あの、神様を信仰するようになった。

やっぱい神様は信仰せんばいかん、て言うお話です。

そいばっきゃあ。

〔二七  本格昔話その他〕
(出展 蒲原タツエ媼の語る843話 P297)

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