嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

片足しかなか左官さんのおらしたて。

そうして遠(とお)か所(とこ)から、仕事ばいうてきたもんじゃいけん、

遠か所(とけ)ぇ行きんさったて。

そうして、跛(びっこ)引いて行きんさったいどん、

そこの仕事も大抵(たいちぇ)苦(に)になっ仕事やったいどん、

立派い仕事が片付いて、ようようして帰い出しなった。

早(はよ)う家(うち)帰いたかあ、ユックイしたかあ、

と思うて、帰って来おったぎもう、日の暮れてしもうた。

そいぎぃ、ありゃ、ここん辺(たり)、人も家(いえ)もなかにゃあ。

あら、あつけぇ一軒家のあっ、と思うて、そこに泊まっごとしたぎねぇ、

ヒョーッと見たぎぃ、そこ火葬場じゃった。

ありゃあー、あいどんまあ、雨露しゃぎゃしのばるっぎ良か、と思うて、

草臥れとんもんじゃい、そけぇ座ったぎぃ、

じきウトウトウトして眠ったぎぃ、

もう酷う表(おもて)でガヤガヤガヤ騒動わしか。

透き間からヒョロッと見たぎねぇ、青鬼てん赤鬼てんばい、

死人引っ張って入るっちゅうもん。

そーいぎぃ、怖(えす)うして怖(えす)うしてガタガタガタ震いおったぎぃ、

鬼どんが今度、喧嘩し始めたて。

ありゃあ、そいぎもう、ぎゃん所(とけ)おらんちゃ、

早(はよ)う柱から天井に上(のぼ)っとんしゃったぎぃ、

あの、死人ば連れて来て、

「こりゃ、俺(おい)がとじゃあ。

俺が見つけたけん、俺が食うじゃ」

「いんにゃ。そがんわけじゃなか。

俺も目(め)ぇかかったけん、俺が食ぶっ」て言うて、

つかめ合うて喧嘩しおった。

そうしてもう、

その喧嘩のけりのつかんじゃったぎぃ、赤鬼の言うには、

「上におん者(もん)に一遍聞いてみゅう」こぎゃん言うた。

そいぎぃ、ありゃあ、左官さんな、

こいどんが目(め)ぇかからんうち、と思うて、

隠れたいどん、調べとったばいにゃあ、と思うて、

ブルブルブル震いながら、降りて来んさいた。そいぎんとにゃ、

「お前(まい)さん、けりばつけてくいろう」て、

赤鬼と青鬼が言うた。そいぎ左官さんの、

「見たままに言いますばい」て言うて、

「仲良う二人でわくっぎ良かあ」て、こがん言んしゃ。

「ありゃあ、そうだったなあ。

喧嘩どませじ仲良うわけたが良かったなあー」て言うてね、こうして見て、

「お前(まい)さんな本当に正直者じゃ。

正直そうにして、あいどん気の毒こと片足で歩きよっ、

可愛そうに。そいぎぃ、この足ばくっつけてやろう」ち言(ゅ)うて、

鬼の力でペチャーッと、その左官さんの無(な)か足に、

右足にひっつけらした。そいぎ立派にその、足のついたちゅうもんねぇ。

あったいどん、その晩な鬼とおんもんじゃっけん、

もう鬼はガリガリ、バリバリ、その死人ば食べおっち、

もう恐ろしゅうして一晩も寝ぇらんじゃったてぇ。

そいぎ夜の明くっとを待って、ガッチガッチガッチもう、

ちいーった薄暗かうちから、帰って来(き)んさったて。

そいぎ家(うち)にやっと到着(とじ)いて、ほっとしんさったぎぃ、

「あら。上方さい行くぎ足まで生えてきたあ」て。

「いんにゃあ。これにはわけのあっ。

こうこう、こういうふうじゃったあ」ち言(ゅ)うて、

左官さんな語いんさったあ。

「あいどん、片一方つけられては、

あの死人な女(おなご)じゃったけん、女の足のちいた。

右足につけてもらったとは、もう足の弱(よお)うして、

もう、あいどんなかよりゃまし。ほんに助かったあ」ち言(ゅ)うて、

話しんさいたあ。

チャンチャン。

〔二七  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P296)

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