嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村に、太郎ちゅうとと次郎と名の付(ち)いとっ兄弟が、

お父さんと三人で暮らしおったて。そうしたところが、

ヒョッとした風邪が元で、大事にしとったお父さんが、ポックリ死

んでしまわしたて。そいぎ二人は、

泣く泣くお墓ば作って、毎日毎日、お詣りしおったて

じゃんもんねぇ。

ところがさい、一時(いっとき)ばっかいしたぎ兄さんの太郎は、

お墓詣りすっとば、もう面倒くそうなって、

「花ば植えとっぎぃ、お詣りはせんでも良かたあーい

。生きた花ば埋めとこう」て言うて、花ば考えたて。

「こいが良かばい。

しょっちゅうは良か塩梅(んばい)に

美しか花もなかったいすんもんで」て言うて、

墓ん所に、そのねぇ、こともあろうにススキば植えたてぇ。

そうして、

「よし、よし。こいでお父さん、勘弁してくんさい」て言うて、

拝(おご)うで。

そいからちゅうもんな、

遊びにばっかい行く時ゃあってでん、

お墓詣りどもいっちょんご無沙汰してせんじゃったてぇ。

あいどん一方、弟の次郎は、兄さんは、

尻焼け鳥(あきっぽい人)だあー。仕方(しよう)がないなあー、

と思いながら、お父さんにお世話になったことを思うぎぃ、

悲しゅうしてたまらん。毎日、

朝は必ず、お父さんのお墓詣りしよったて。

そしてある日、道端に美しか花が咲いておったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、もし私も兄さんのごと遊び、

お墓詣のでけんじゃった時ゃ、

この美しか花ば植えとっぎ咲いてくるっぎ良かもん、て思うて、

お墓の側にその花ば植えて、

帰ろうとしたぎね、墓の中から声のしたてばい。

「次郎やあ。次郎やあ」て、呼び止むってぇ。

次郎は怖(えす)かったてぇ、弟は。

そいけん逃ぎゅうですっぎぃ、また墓ん中(なっ)から、

「次郎、怖(こわ)がることはないよ。

私(わし)じゃあ、おっ父(とう)だあ」て、言んしゃったてぇ。

そうして、なお話しんしゃっ。

「お前(まえ)は、関心だなあ」て。

「今、植えてくいたお花はなあ、慈恩(じおん)ていう。

恩に報いっちゅうて、慈恩ちゅうて、

お前はおっ父を忘れんでくれていることが、

墓の中(なっ)から良(ゆ)うわかる」て。

「お前の心掛けが良いから、おっ父はお前を守るぞ」て言う声の、

墓ん中からしたて。

そいから先ゃ、何(なーん)も聞かれんじゃったて。

あいどん、弟の次郎に運が向いてきて、

何(なん)をしたてちゃやりそこないはなか。

人からも、ほんにー良(ゆ)う尊敬さるっ。

「心掛けも良か、セッセと働く」ち言(ゅ)うて、

仕舞いには長者とまで言われたごとならしたちゅう。

そいで兄は、ススキば植えたいどん、

何(なーん)も功徳はなし、良かことはいっちょんなかったいどん、

次郎は、そのお父さんが言んしゃった紫の花を慈恩(じおん)ていうたい、

紫苑(しおん)ていうことで、今も紫の話を取って、

「次郎長者さん、次郎長者さん」て、言われおって。

チャンチャン。

〔二四  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P293)

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