嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

村にね、お父さんと息子と二人暮らし家があったち。

あいどん、お父さんがねぇ、男の世帯だもんだから、

何(なん)でん大切にして、

縄ぎれたと一本でんほんーに大切にせんばいかんよう。

道に落ちとってちゃ、縄ぎれ一本でも大切にせんばて、

その息子にほんーにもう、

物を大切にすっことを教えおんさったて。

そして、その息子十四、五にもなった時分にねぇ、

「あの、お父さんとぎゃんしておっても、

何(なーん)も田舎で仕事もなかぎぃ、

何(なん)じゃい良か仕事のあいろわからんけん、

仕事見つけぎゃあ、私を旅に出してくださーい」て、

息子が言うたちゅうもん。

「そうもそうない。そいぎあの、

体に気をつけて行って来(こ)い」ち言(ゅ)うて、

お父さんから暇もろうてねぇ、あの、旅にその息子は行たて。

そいで、ズーッと行きよったぎねぇ、

大根ば括(くび)いよっ百姓のおんしゃったてやんもん。

あったいどんねぇ、その息子が通る時分にはねぇ、

その括っ縄の足らんでさ、困ったにゃあー何で括ろうかにゃあ。

ほんに困っとんしゃったてぇ。その息子はズーッと行きおったぎぃ、

そのお百姓さんが、チョッと手前でねぇ、

縄の落ちとったもんじゃい、

ああ、お父さんがかねてから

「縄一つ大切にせんば」て、教えられとったけん、

「この縄も拾(ひろ)うて行こう。何かのたしになろう」ち言(ゆ)うて、

持っとったて。あったぎぃ、良か塩梅(んべぇ)百姓が、

こいば括るらんまもんどん何(なーん)も括るとのなかにゃあ、

と思うとったぎぃ、息子ヒョロッと来て、

「こんにちは」て。

「良か塩梅(んばい)でしたねぇ」ち言(ゅ)うて、

その縄を差し出(じ)ゃあたて。

そいぎもう、お百姓は喜んでね、

「ほんにぃ、難儀せんで良かったあ、

あんさんから貰(もろ)うて。有難うございます」ち言(ゅ)うて、

自分の作ったその大根を三本もくんしゃったてぇ。

そいぎねぇ、その三本の大根を貰うて、

スーッと行きおったぎ今(こん)度(だ)あ、

鍛冶屋さんの表じゃったてじゃんもん。

そうして鍛冶屋さんが、

「チョッとー」て、通り過ぎようと、

「チョッとー。チョッとー」ち言(ゅ)うて、

大声で呼び止めんしゃった。

そいぎ何やろうかーと思うて、

「あんさんな、三本も大根はお入用(いりよう)ですか」て言うたぎぃ、

「いや。これはあちらの方の村から、

お百姓さんから貰うたと」て。

「そいぎぃ、その大根ば夕飯のおかず何(ない)しようなし困っとったけんが、

一本わけてくださーい」て言うたもんじゃい、

「はいはい。良かあ、あの、喜んでおわけします。

どうぞ、どうぞ」て言うて、

鍛冶屋さんに大根ばくいてやったぎぃ、

鍛冶屋さんの恐ろしか喜んでね、

「この包丁は切るっですよう。

家(うち)で作った包丁じゃっけん、

ほんにこりゃあ、切れの良か包丁じゃっけん」ち言(ゅ)うて、

大根貰ったお礼に包丁ばくんしゃったて。

そうしてねぇ、ズーッと行きおったぎねぇ、

あったぎぃ、あの、竹ばこう、細ーに、あの、して。

何(なん)やろうかなあ、と思うて、息子が仕事ば探しぎゃ行きおんもんじゃいけん、

何(なん)じゃい我がにむいた仕事は、

あったぎねぇ、あの、ところがねぇ、その、弓矢ば削(けず)いおっない、

切れ物の歯のこぼれて、ガサーガサーなって、いっちょん上手にならん。

「ああ、困ったなあ。

この切れ物は研(て)ぇでも。もうなまくらで困っ」て言うてねぇ、

「ほーんに、あの、仕事のあんみゃあかあ、

と思うて、こうして見たらね、弓矢ばそこで作い家(うち)じゃったあてぇ。

そい捗(はかど)らん」ち言(ゅ)うて、

そこの弓矢ば作っ所の者が言いよんしゃったて。

あったぎぃ、その息子はね、

我が包丁ば持っとった、たん時、包丁いらんもんじゃい、

「この包丁で作ってみんさい」ち言(ゅ)うて、

やったぎぃ、そいぎほんーに切れ味の良かてじゃんもん。

ぎゃん切るる包丁は何処(どこ)で買いんさった」

「いや。お礼に貰(もろ)うた。

そいぎあなたも、そい使うぎ弓矢の立派な弓矢のでくんないば、

大事か物(もん)じゃっけん、こいあなたに上げます」ち言(ゅ)うて、包丁ばくんしゃったて。そいぎぃ、

「こりゃあ、ほんなお礼でございます。

私(あたし)ん所の弓矢ば作いしゃあがすっぎぃ、

幾らでんあいますから」て言うて、

その弓矢ばくいたちゅうもんね。

そいで弓矢ば貰うてテクテク、ズーッと行きおったぎねぇ、

ほんーな山の入り口、もう日の暮れとった。

もう薄暗(ぐろ)うなっ。そうして、一軒の宿屋の人が走り出て来て、

「家(いえ)でお泊まんさい」て。

「今からこの山を越えおっぎんと、狼の出てきたいなんたいして、

無事には山を下った者(もん)はおらん」て。

「そぎゃん、あの、歩いてどん行くものじゃなか。

どうぞ、家(うち)に一晩安うして泊めますから泊まってください」て、こぎゃん言う。

「そうか。そいぎねぇ、言われたごとしましょう」て言うて、

その、いちばんおろいか部屋に良か」て言うて、

納戸のごたっ所(とけ)ぇ泊まったて。

あったいどん、ご馳走どまいっぱい出(じ)ゃあてくいたて。そして、

「あんさんは弓矢ば持っとんさっとが、

弓矢の先生ですかあ」て、そこん者(もん)な言うたけん、

「いんにゃあ。こいも包丁ばやったぎぃ、

弓矢もお礼に貰うたあ」て、こがん言うたあ。そうして、

「ああ、左様ですか」て、言うことで、

「あの、そいぎぃ、あなたはここで、

まあ、薄暗い所(ところ)で気の毒ですけど、

お休みください」と。

「そいぎぃ、今晩一晩お世話にないます」ち言(ゆ)うところでねぇ、

そこの泊まったいどん、薄暗い所で、ほんに寝つきも悪かもん。

いっちょん寝ーぇらんもんじゃいけん、

やあなか(中間)から起きて、

この弓はどぎゃんすっとやろうかにゃあ、と思って、

こうして弓矢の矢ば作いよって、

「昔のこうして引きしちゅうて、引きよったなあ」ち言(ゅ)うて、

そいぎ弓のパーッて、窓ば破ってでた。

(窓ちゅう窓はそこはなかったとでしょう。)あったぎねぇ、

隣(とない)の大金持ちさん所(とこ)のねぇ、

蔵に大泥棒が入ろうと、入ろうでしとった。

その頭目をめかけて胸にボスーッと、

そん、放った矢が刺さって、泥棒達ゃ大将・親方がやられた。

「こりゃものにならん」ち言(ゅ)うて、逃げ腰やった。

あったぎお隣(とない)の金持ちさんから、

「ぎゃんあの、泥棒ば家(うち)の大事な物をおっ盗らるっところじゃった。

退治してくんさったたどなたじゃったろうか」ち言(ゅ)うて、

そこの宿屋に聞いたぎなあ、納戸のあがんとが、

弓ば持って泊まんさったけん、

「はい。私がこうしたぎ飛んではって行った」て、

いうようなことでね。そいぎさ、

「私の所(ところ)に来てください」ち言(ゅ)うて、

そこの一(ひと)人(い)娘の聟さんば探しおんしゃったとと夫婦になってね、

その後は本当に幸せに暮らしたて。

チャンチャン。

〔二〇  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P288)

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