嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかしねぇ。

兄弟の神さんのおんしゃったてばい。

兄さんは海の幸彦、て言います。

弟はねぇ、山の幸彦ち。

兄さんはほんーに釣りの上手で、

海にばあっかい行きおんしゃったてじゃんもんねぇ。

また反対、弟は山ば駆けっ歩(さり)いて、

兎を捕ったい、猪を捕ったい、

そりゃあ弓矢でそぎゃんとも射いとも非常に上手やった。

そいでねぇ、あの、

楽しみよさったある日のこと、

この兄弟の神さんがねぇ、

「二人の、あの、持ち物を換えっこしてみゅうかあ」て、

兄さんが言んしゃっ。

「弟の山の幸彦、お前の弓矢を私に、

弓矢をとったことないから、

私にも貸してくれんか、しばらく換えっこしてみれんか。

そうすると、私の釣り針をお前にやるよう、預けよう」

「はい。いいですよう」て、

二人の神様仲良しだったから、

二人で交換しんしゃったて。

そうしてねぇ、海の幸彦さんが早速、

ぎゃんして何時(いつ)も兄さんが

美味(おい)しいお魚(さかな)ば捕って来るんだ、

どうして釣れるだろう。

さぞ、楽しいじゃろうと思うてねぇ、

針を持って海に出かけたて。

兄さんの方はね、

弟は夕方暗(くろ)うなんまで山を駆け回って、

あの、山を追っかくっとは、

ほんに、どんな素晴らしいことじゃろうかあ、

と思うてね、創造豊かに、

弟の弓矢を取って山に行きんしゃったて。

そいで、早速ねぇ、弟が

「今(こん)度(だ)あ兄さんよいか

沢山(よんにゅう)取って」ち言(ゆ)うて、

行きんしゃった。

それでね、兄さんは山さい行きんさったいどん、

恐ーろしかもう、きゃあ草臥るっ。

そうして、どいでん弓ば、

こうして引きよっぎぃ、

動いて足も早うしてひん脱ぐっ。

もう弟はすばしこいとみゆっ。

私も手におえんと。

早うかじばのけて帰んしゃった。

そして家に帰ってね、

弟はきっと沢山(よんにゅう)魚ば持って

ニコニコ顔でいっぱい

お御馳走にしてよか魚ば持って帰って

来(く)っじゃろう、と思うて、

待っとんさったて。

どぎゃん魚ば釣って来っこっじゃい、

楽しみにして待っとっ。

あったぎねぇ、暗(くろ)うないかかってねぇ、

山の幸彦はションボリして帰って来た。

そうして兄さんを見るなり、

「ごめんなさい」て言うて、

涙をポロポロ落としたもんじゃい、

「どうしたのか」と、

兄さんの聞きんしゃったぎねぇ、

「実は、釣り針が海に落ちました。

竿はここにあるけど、

釣り針ば海に落ちてわかりません」

あーったぎ兄さんは、

そいば聞いて怒るの怒らないの、

たった一つの釣り針じゃ。

俺は、あれで海に釣りに行くのが何より楽しみじゃったのに、

探して返さんば許さん」恐ーろしか

海の幸彦の怒い方ちゅうて酷かった。

そいぎぃ、山の幸彦は本当にすまなかった、

と思うて、海の所に立って、

海を眺めて泣きないよった。

あったぎね、

三日目に真っ白か髭の年取った神様が、

「どうして毎日、

ここでお前は泣いているのか」ち、

言んさったぎぃ、そいぎねぇ、弟は正直に、

「兄さんに借りた釣り針を海になくなしてしまいました。

『それを探して来い』と言われて、

ここに毎日、来ていますが、

本当に手立てがありません。困っております」て、

ありのままのことを髭の神さんに言うた。

そいぎ髭の神さんの、

「そいぎねぇ、私が良い知恵を教ゆっ。

心配せんでも良か」て言うてね、

宥(なだ)めんさったて。

そうして、すぐ側にあった小舟を指さしてね、

「この舟に乗って、潮の流るっごと、

自分で櫓は漕(かか)んで行くぎね、

潮のズーッと引くて。

その潮の流れに乗って行くぎぃ、

お城があいよ。宮殿があっ。

その宮殿の中には入らん前にね、井戸がある」て。

「その井戸の側に柚子の木がいっぱいあるもんね。

あの柚子の木は青々と茂っているよ。

だから、その柚子の木に登って隠れていなさい。

そいぎね、女の人が、

あの井戸を宮殿に一つある井戸だから、

女の人が水汲みにやって来ます。

そいぎぃ、その女の人に、

あんたの困ったことを話してみなさい」て、

言うことを教えた。

そいぎ山の幸彦は元気づいてね、

この舟の底にあったもんじゃ、

櫂で漕がんで流れるままに、

流されて行ったら宮殿の竜宮に着いたて。

あったぎ白い髭の神さんの言んさったごーと、

井戸の側に柚子の木が茂っとったて。

そいぎスルスルっと山に慣れてとったもんだから、

木に登って隠れとったら、じきね、

女の人が壷を持って水汲みぎゃ、

そうしてねぇ、女の人が、

井戸を水を汲もうとヒュッと井戸を覗いてみたらね、

人の顔が、体は隠れとっても、

水に映っとったてぇ。

ビックイしてねぇ、

もう恐ろしか色青うなって、

女の人、ビックイして逃げ込んで行たて。

そいぎねぇ、山の幸彦は、

「私は水が欲しいので」て、女に言った。

あったぎ女の人、すぐ器に水を入れてね、

「いっぱい飲んでください」て言った。

そいぎぃ、山の幸彦そいでね、

「美味しい冷たい水や」て、

その水ば飲みなったぎね、

昔の人、首に勾玉をかけとったね。

それがね、首からはずれて、

不思議なことに、その水を入れた器の中にね、

カラカラさ落ちてきた。

そいぎねぇ、

山の幸彦さんの首にかけとった勾玉の、

その首からはずれて、

入れとった器の中からねぇ、

パラパラパラっと落ちてくっ。

くいてしもうたてぇ。

そいぎねぇ、そのくいて、

玉のくいた器ば乙姫様の所に持って行ったぎね、

そして、

「井戸の柚子の木に若い男の人が登っていて、

『水をくれ』て、言うたので、

飲ませたら、この玉がくっついて離れません」て、

申し上げたてじゃんもんね。

そいぎ早速、

乙姫様の所に山の幸彦呼び出されんしゃったて。

そいぎ山の幸彦は、

竜宮宮に来た訳ば言わんばらんじゃったもんねぇ。そいで

「兄さんから借りた釣り針ば失うたあ」と言うことば、

あの、話しんしゃったぎぃ、乙姫さんのね、

「おうー。そりゃあお気の毒でしたねぇ。

そんなら、あの、釣り針を見つけた者はないか。

魚たちば呼び寄せて聞いてみよう」て、

おっしゃってばい、話しんさった。

あったぎ鯛がねぇ、他の魚が言うことにゃ、

「何か、喉に刺が引っかかって困って、

泣いて」と、いう知らせの、じき入った。

「あいばその、赤鯛のわざわざ調べてみよう」て、

乙姫さんのおっしゃって、

赤鯛を御殿に連れて来て見んしゃったぎぃ、

その山の幸彦さんの、

あの、兄さんから借りた釣り針がさい引っかかとったて。

そいぎぃ、

「こいを持って行って、お返しせんば」て言うて、

あの、赤鯛から、喉から、釣り針を取り出すことができたて。

そうして、その乙姫さんは、

このねぇ、青年が山の幸彦が真面目真っ正直で、

そうして立派な心でしたもんじゃっけん、

ほんーに湯に入って、ユックリしていきなさい」と、

言んしゃったけれども、

「早う帰らんぎぃ、

兄さんが待っているだろうから」て言うて、

お暇すっ段になったぎぃ、竜宮の乙姫さんは、

「これは竜宮のみやげですよう」て言う、

潮の引く玉と潮の満つ玉ば二つ、

赤と白の玉を持って、

「こちら赤いのは潮の満つ玉、

こちらの白玉は潮の引く玉」て言うて、

「何か、あなたの困った時に、お使いなさい」て言うて、

「竜宮のみやげです。

さあ、お持ち帰りください」ち言(ゅ)うて、

みやげまでくんさった。

あったぎぃ、チョロッとおったと思うたぎぃ、

一年も狩猟ば留守にしとんさったて、

山の幸彦さんな。

そうして兄さんないつもの調子で、

「何処、うろつきよったかあ」て言うて、

目はむき出して腹かきんさったて。

そいぎぃ、あの、弟の、

山の幸彦はみやげに持って来た潮の満玉を見せて、

パーッと開けて、

「潮満てみてー」て、

言ったら家の中までドンドン、

ドンドン潮の満ちてきて、

山の幸彦さんには、潮がかからんけど、

その兄さんの海の幸彦さんは、

溺れてアンブイアンブイすっごと、

あの、なったもんじゃっけん、兄さんが、

「助けてくれー。命だけは助けてくれー」ち言(ゅ)うて、

恐ろしかもがきんさったもんじゃい。

そいぎぃ、弟の山の幸彦は白い玉を差し上げて、

「潮引け。潮引け」て、

言んさったぎぃ、すぐ潮は引いた。

そうして、そいからはもう仲良く無事に、

釣り針も返ったぎぃ、二人は仲良く、

あの、暮らしたて。

そいばっきゃ。

 〔一九  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P286)

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