嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

むかーしむかし。

長者の娘のねぇ、こともあろうに、

もう、貧乏人も貧乏人の家(うち)にお嫁入りに行ったて。

そうして、一年は早いもんでじき正月になったて。

あったいどん、餅も搗(つ)きえんて。

そいぎぃ、ほんに何(なん)で年とろうかねぇて、

もう、二(ふ)人(たい)夫婦はしょっちゅう

正月の話ばっかいでため息ばちいとったて。

そして、嫁入りした娘が、そんな時に、

「長者さんのお母さんは風邪で寝込んだあ」て言うて、

誰(だい)からじゃい聞いてきた。

そいぎぃ、その嫁さんなったとは長者の家(うち)さい、

イソイソとして行ったてみたぎぃ、

おっ母(か)さんの、

「風邪見舞いに来たようー」ち言(ゅ)うて、

出かけた。

おっ母さんは寝てゴホンゴホンゴホンち、

咳ばしよらしたとが、枕元にジーッて、

座っとったぎぃ、ジーッと考えよったぎぃ、

長者の家(うち)嫁入り前に自分がおった時ゃ、長者の

「おいは忘るっけんなあ」ち言(ゅ)うて、

「金庫の鍵ばお前(まい)に預くっ」ち言(ゅ)うて、

何時(いつ)も私(わし)に預けとったよなあ、

と思(おめ)ぇ出(じ)ゃあたあ。

そいが座敷の真ん中の柱の見えん方に鍵ば、

金庫ん中(なき)ゃあ私(あたし)ゃ決めちったよう。

今も、そけ置くごと決めとんしゃろうかにゃあ、

と思うたもんだから、

座敷さん行たてみたら、ある、

確かにそけあったて。

そい今も父(とう)ちゃんな、

ここに置きよらすばいなあ、と思って、

一時(いっとき)考えて、

その鍵ばいっちょ何処(どけ)ぇじゃいひん(接頭語的な用法)

なおうしてくりゅうかにゃあ、思って、

自分の帯の間に隠して、

しめしめと思うて、その婆ちゃんには、

「もう、帰っけん」ちて、

貧乏の家(うち)さん帰ったて。

そうして、聟どんにじき話すにゃ、

「今日からあんたはねぇ、

『金毘羅さん参(みや)ゃあに行く』ち言(ゅ)うて、

家(うち)ば一時(いっとき)留守しんさい」て、

ヒョロッと言う。

「いんにゃあ。

私(わし)ゃ金毘羅参(みゃ)あいはいはせーん。

銭(ぜん)一銭もなかとけぇ、

そがん段じゃなかあ」て言うて、

言んしゃったけん、

「いんにゃ。金毘羅参(みゃ)あいは口実て。

こけねぇ、私(あたし)が実家の、

長者の実家のうちの、あの、鍵ば持って来とっ。

こいば、こっから三里ばっかい先行くぎお堂のあっ」て。

「そこの松の木の中さん、

誰(だーい)も掘らんごと埋めときんさい、

この鍵ば。そいぎぃ、お父(とっ)たんなもう、

鍵のなかぎんとにゃ、

銭(ぜん)出されじ困んもんじゃ大騒動して探す」て。

「そいば、あんさんに頼むごと良か

塩梅(んびゃあ)に言うから。

そいけん、今日から私(わし)は金毘羅参あいて、

言うて出かけんさい」て、こがん言うて、

耳打ちしたて。そいぎぃ、

「そうか」て言うて、

「銭(ぜん)もなかもん」ち言(ゅ)うて、

貧乏人の聟さんな出かけらいた。

そいぎぃ、年の暮れじゃもんじゃあ、

長者さんなあ、

「雇い人にお金も払わんばらん、

買い物もせんばらん」ち言(ゅ)うて、

金庫の鍵を探すどん、なか。そいぎぃ、

「鍵を見つけた者(もん)にはお礼をやるぞ。

お礼をたんとはずむぞう」て言うて、

そりゃあもう、大事(おおごと)じゃった。

そいは、じきその貧乏人に嫁に行ったとの

聞きつけたもんじゃけん、

じき長者さんの家(うち)に行たて、

「あのー、お父さん。家(うち)の主人はねぇ、

何(なん)でも夢見っぎ正夢で当たっ」て。

うちの今の金毘羅参(みゃ)あいに行ったて

留守じゃーどん、帰って来らすぎ夢の今、

お告げのありゃすんみゃあーか、

聞いてみゅうかあ」て言うて、

長者さんに言うとっと。

そいぎぃ、長者さんな我が娘のことだもんだから、信用して、

「そいぎぃ、そうしてもらおう。

ぜひ、そうしてくれ」て言うて、

娘に頼んだて。そいぎぃ、

あの、聟さんが帰って来たぎぃ、

「あんさんは、

今日はユックリ休んで良か夢ば見てください」て。

「そいが、あいどん、

『お腹のひもじゅうしてたまらん』て、

言いよっよう」て、言うたら、

「そいぎぃ、お父(とっ)あんに行たて

酒ん肴を貰うて来っ」て言うて、長者さん家出かけたぎぃ、

「お父さん。良か夢ば見ゆうでちゃ、

グッスイ寝んばらんてじゃけん、

お酒どんください。

お酒ばかいじゃなし、

肴がつきもんよ」て言うて、

その晩な長者さんの家(うち)から

酒肴をせしめて来(き)んしゃったて。

そいぎぃ、酒どん飲んでグッスリその、

貧乏人の亭主は寝たて。

そして寝とったぎぃ、じき長者さんがやって来て、

「良か夢の占いの出たろうかあ」て、

やって来たけん、

「そりゃ、私(わたし)よいか主人に、

聟さんに聞いてくださーい」て、

言うたぎぃ、聟さんに、

「これはこれは、

金毘羅参(みゃ)あいはどうじゃったかあ」て、

聞きんしゃったぎぃ、

「ああー。金毘羅参あいにゃ

沢山(よんにゅう)人が参あいよんさったあ」て、

嘘ばっかい言うた。

「そいぎぃ、実は、

お前(まい)さん昨夜(ゆうべ)夢ば見たかあ。

私(わし)ゃ、もう金庫の鍵を無くして、

チョッと正月の段じゃなかあ」て、

言うてやったぎぃ、

「ああー。見た、見たあ」て。

「チョッと待ってくだっせい」ち言(ゅ)うて、

ジーッと考ゆうごたふうにして、

「実は、こっからスーッと行くぎぃ、

三里ばかい行た所に、お堂のあって。

そこん前には木のあとっもんなあ。

その木の、そうねぇ、松の木の下やろう。

松の木の下ば掘っぎぃ、

ヒョッとすっぎあっかわからんばい」

ほんなもんのごと

「その夢のお告げ」ち言(ゆ)うて、

聟さんが話(にな)ゃあたもんじゃ、

「そうか。そいぎ三里にいたことのあーっ。

お堂のあっとけなあー」て言うて、

「もう、使いの者(もん)ばやろうよいか」ち言(ゅ)うて、

その、長者さんは駆けじゃーて行た。

そいぎぃ、

なるほどお堂の三里ばっか行った所(とけ)ぇあってぇ。

その前松の木もあんもんだから、

そこ掘ってみたぎねぇ、

チャンと金庫の鍵の出てきたて。

そいーぎぃ、そいば手にして長者さんはほんに喜んで、

お陰めでたいお正月ができたよ。娘は、

「お父さん。そぎゃん無事に

お金のお父さんばっかいそんなに、

安心すっことなん」て。

「私(わし)達もお正月の

シッカイでくっごとしてくれんば」て言(い)うて、

お餅やら、お酒やら、

肴まで長者さんからチャンと貰うことのできて、

この貧乏人も人並みの正月がすることができたて。

チャンチャン。

〔一八  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P285)

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