嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 村に一(ひと)人(い)ねぇ、

間抜けたふうけ者(もん)がおったてぇ。

村ではねぇ、毎年、年の晩になっぎさ、

そん年も年男を氏神さんに

一晩中お仕えすっ習慣になっとったて。

そうして、こん年はさ、

その間抜け男は子(ねずみ)年生まれじゃったちゅう。

そいぎぃ、子年の男じゃったもんじゃっけん、

村の役人さん達ゃ集まって相撲したて。

「あん、間抜けじゃっどんさ、

一晩籠って酒どん注(つ)ぐぐりゃあはしゅうもん」ち言(ゅ)うて、

「務(つと)まるさあ」

「いんにゃあ、務まろうかあ」

「いんにゃあ、易しかこっじゃっけん務まっ」て言うて、

皆で決めて、間抜け男にお籠い役ば言いつけたて。

「何(なん)も難しかことはなか」て。

「酒どん神さんにさ、

飲ませしゃぎゃあすっぎ良かあ」て、

言うことに。そいぎぃ、

「そんくりゃあなことはしわゆい」ち言(ゅ)うことに、

間抜け男にその役が決まったて。そいぎぃ、

「お前(まい)がさ、

今年は氏神さんの守り役ばい。

何(なん)も難しかことなかばってん、

神さんの言んさっこといっちょん逆うことなんよう。

『はい、はい』ち言(ゅ)うて、

聞きしゃあがすっぎ良か」て、

言うことになったて。

そうして、明日(あす)の晩はいよいよ年の晩になったて。

氏神さんの子守り役ばせんばらんもん。

この男は、早(はよ)う寝とかんば、

一晩寝られんかわからん、

と思うて、寝とったて。

そうすっぎねぇ、その前ん晩、

早う寝とったぎぃ、夢にねぇ、

きれーいか女(おなご)の出て来てさ、

神さんの夜のうちお客さんのいっぱい、

ゾロゾロゾロと、やって来んさって。

あいどん、その神さんの沢山(よんにゅう)来んさいどん、

人間にはわからんもんねぇ。

そうして、年の晩になっぎぃ、

どんな神さんでん、氏神さんの所(とけ)ぇ集まって来んさっ。

そうして、その神さん達にさ、

酒の振舞(ふんま)いばせんばらんと。

氏神さんも幾ら何(なん)でん、

疲れて早(はよ)う寝たしゃしよんさって。

そん時、氏神さんの、

「夜が明けたかあ」て、

聞きんさっに違いなかて。

そんな時、何時(いつ)まっでんほんなこて言うて、

「まあーだ、まあーだ明けません。

真夜中です」ち言(ゅ)うぎぃ、

氏神さんな気の短か神さんじゃっけんねぇ、

打ち首にしんさっともあっとよう。

そいけん、早(はよ)う夜の明けじも、言うたがましばい。

そいぎぃ、

「そいかあ。では」て言うて、

氏神さんなじき寝て仕舞(しみゃ)あいんさっもんねぇ。

「そいが、守いの上手よう」て言うて、

女の人が言うて。

ふって、その間抜けが、

今んとは夢じゃったあ。

ほんなもんのごたったあて、目の覚めたあて。

そうして、いよいよ明日(あした)の晩、

年の晩になったて。

そいで、この間抜けさんは、

まあーだ嫁さんもおらんもんじゃっけん、

早(はよ)うから氏神さんのお社さい出かけて、

そこん辺(たい)を掃除をしたい、

あの、汚れた所(とこ)は拭(ふ)いたい、

お飾いをしたいして夜になったて。

あったぎぃ、暗(くろ)うなったぎぃ、

真っ白か卑(ひわえ)たその氏神さんが、

恐ろしか体格の良か人がニコニコして、

「今年は、お前が来てくれたなあ。

正直者で良い性質じゃあ」て言うて、

来んさったてぇ。 そうして、

いよいよ酒盛りば始まったて。

ほんなこてどがんして飲みよんさいろう、

一升二升はじき空(から)になってしもうた。

そうして、三升目のお酒ばつけた時、

氏神さんな、

「まあーだ夜は明けんかのうー」て、

言んさったぎぃ、

まだまだ外は真っ暗うじゃったいどん、

夢で女(おなご)から聞いたけん、

間抜け男はさ、

「もう夜明けでございます」て、

言うてしもうたてぇ。そいぎぃ、

神さんなさ、待ってたようて、

言わんばっかい、

「では、休もう」ち言(ゅ)うて、

我が方からみんなの神さんに

挨拶(あいさつ)して帰しんさいたと。

ありゃあ、良かったろうかにゃあて、

間抜け男は思うて、

拝殿の所(とこ)ばヒョッと見たぎぃ、

ぎゃん夜中じゃろうとに女の人が、

恐(おそ)ーろしか頭ば下げて拝みよっちゅうもん。

そいをジーッと間抜け男が聞きよったぎねぇ、

「私にも、いいお聟さんが

今年こそ巡り合いますように」ち言(ゅ)うて、

一心に拝みよって。

ああ、この女(おなご)、

まあーだ聟さんば持たんとばいのう、

て思うて、もう神様の休みんさったもん。

我が用事はすんだとやろうだい、

と思うてねぇ、まあーだ夜の明けん道を、

「まあーだ暗かもん。

私と一緒に帰いましょうかあ」て言うて、

道連れしたぎぃ、その間抜け男の家まで、

その女(おなご)はついて来(く)ってじゃっもんねぇ。

「あんたは、

何処(どこ)に帰っとう」ち言(ゅ)うたぎぃ、

その女が言うには、

「どうぞ、私をお嫁さんにしてください。

あなたのおっしゃること何(なん)でも聞きます。

頼みます」ち言(ゅ)うて、言うたて。

そいぎぃ、

この間抜けさんも嫁さんな

持たんじゃったもんじゃっけん、

「そんないば」て、言うことで、

簡単に二(ふた)人(い)は、

その女をお嫁さんにして、

そいから先ゃほんに幸せに暮らしたて。

そういうことです。

〔一七  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P283)

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