嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

こりゃ、ほんなこてあったてばい。

山ん村にねぇ、竹の子さん、蕗(ふき)てん、

蕨(わらび)てん、

沢山(よんにゅう)取るっ村があったちゅう。

そいで、そこでも山菜てぇろうちゅうて、

山にニョキニョキ春になっぎ生(は)えてくっどん、

きれーいか茸の。

こりゃあ、毒茸でん気違い茸て言うけん、

取っことなんて、皆が嫌うとったて。

気違い茸いっちょは、

取っぎ良(ゆ)うなか。気違いになっ。

ところが、ある日ねぇ、

その天狗茸は両方の手にブラブラ下げて、

まあ、男が山から村さん降りて来たてぇ。

そいぎあの、

「あん人(した)、

毒茸て知らじ取って来(き)おっ。

立派かと思うて、今に毒の当たっばん。

死んばい」

また、ある人は、

「可愛そうにゃあ」ち言(ゅ)うて、

皆が言いおったて。

子供達ゃどうかというぎぃ、

珍しがって、

ゾロゾロ、ゾロゾロ、

その後からついて行くちゅうもんねぇ。

「あぎゃん若(わっ)か男でんさ、

あの茸のまわって死んてばい」て、

言う者もあったちゅう。

そうして、そがんして村の庄屋さんがねぇ、

聞いてやって来たて。

そぎゃんとば持ってやって来(き)おっ。

村の災いどん起こすぎ大事(ううごと)。

そして、その庄屋さんが、

「あんたあ、あの若(わっ)か者。

私ん所(とけ)ぇ、チョッと来(き)んさい」て言うて、

連れて行きんさったて。

そして、

「あんた、何(なん)ていう名前」

「えぇ、いんにゃあ」ち言(ゅ)うて、

答ええんてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、

「何処(どっ)から来たねぇ」ち言(ゅ)うても、

首を振って、

「わからん」て。

ありゃあ、

この茸の体中まわっとっじゃろうかにゃあ、

と思うたぎぃ、コロッと、

そこに、庄屋さん方(がち)ゃあ寝てそもうた。

こうして、ほんな寝(に)ゅやろうかにゃあと。

スヤースヤ寝っとっ。寝ってしもうたにゃあ、

て庄屋さんが思うとんしゃったぎぃ、

丸一日半もそん男は寝とったちゅう。

そうして、翌日の夕方目を覚(さみ)ゃあて、

庄屋さんは、

目を覚ゃあたもんじゃっけん、

まあいっちょ聞いてみゅうだい、と思うて、

「お前(まい)、名な何(なん)ていうのか。

そうして、何処(どっ)から来たかあ」言うて、

聞いたら、その男は、

「わからん」て。

「どがん思うても考え出しえん」て。

「我がも誰(だい)じゃいわからん」て。

あらー、茸の当たっとったばーい、

て思うとったぎぃ、そん男が、

「私もお手伝いしましょう」て言うて、

薪(たきもん)を割ってみたい、

水汲みや行たりして、

ほんに加勢したて。

そいぎぃ、

庄屋さんの家(うち)でも助かんもんじゃっけん、

一時(いっとき)ばっかいおいとったて。

ところがねぇ、

その庄屋さんの家(うち)には、

今年ゃ十七になるきれいか一(ひと)人(い)

娘さんがおったちゅうもん。

そいぎぃ、

その娘さんがほんにまめまめ

働くその天狗茸ば持って来た男ば、

ちぃ(接頭語的な用法)

好きになんしゃったて。

暇しゃあがあっぎぃ、

その男の側に来て、

「あんた、一時休んで、

私の爪ば切ってぇ」て、言うたい。

そいから、

「あんたの洗濯物ば洗わしてぇ」て言うて、

ほんにその男の世話ばしたしゃすってぇ。

そいぎぃ、そがんとば周いの人達が見て、

「あん人達ゃ二人夫婦になれば、

良か夫婦のごたんねぇ。

似合(にお)うとんねぇ」ち言(ゅ)うて、

眺めよったて。

ところがねぇ、そがんしよったぎぃ、

こがん話の伝わって隣村の

恐ろしか金持ちさんから、

「お宅のお嬢さんを

家(うち)の息子に貰いたい」ち言(ゅ)うて、

チャーンと仲人さんのやって来んしゃったてぇ。

そいぎぃ、庄屋さんの、

「あぎゃん分限者さんに行くぎ世話なし」て。

「私は異存なか」て。

「そいけん、お前(まい)どうか」ち言(ゅ)うて、

娘さんに聞きんしゃったいどん、

娘さんはいっちょん返事はせんちゅうもん。

そうして、分限者さんな分限者さんで、

「家(うち)の嫁ば取っというのは三男坊だけん、

家(うち)来てもろうても、

飯炊くようなことはせじ良か、

大切にすっ。そいけん、

ぜひ来てくいろう」ち言(ゅ)うて、

その分限者さんの言んしゃっぎぃ、

そのねぇ、一(ひと)人(い)娘さんが、

シクシク泣き出(じ)ゃあたて。

そして、言うことにゃ、

「私(わて)はねぇ、

家(うち)来といなっあの男が好きやっけん」て、

こう言うたちゅうもん。

そいぎぃ、庄屋さんなビックイして、腹きゃあて、

「何処(どこ)ん者(もん)じゃい名前もわからん。

我がも誰(だい)じゃいわからん。

何処の馬の骨じゃいわからんとにやらるっかあ」ち言(ゅ)うて、

娘さんに恐ろしか怒んしゃったて。

あいどん、娘さんの心は、

そぎゃん言んしゃっぎ言んしゃっほど、

あの男を好きになってねぇ、

いっちょん親の言うことを聞かんて。

「そんないば、出て失せろ」て言うて、

庄屋さんの怒んしゃったぎぃ、

男と嫁さんは、

「行こう」ち言(ゅ)うて、

出て行たて。

二人は仕方なし、

一日二日と、

銭(ぜん)一銭でん持たじ

テクテク歩いて行きよったて。

そいぎぃ、草臥果てたぎ山の側に

小(こま)かとの焚物小屋のあったて。そいぎぃ、

「ここに泊まろう」て言うて、

二(ふた)人(い)そこに泊まったちゅうもんねぇ。

ところがもう、

いちばん先に困ったとは食べ物(もん)じゃったて。

「何(なーん)もなかねぇ。

もう足も疲れた。上らんごたっ」ち言(ゅ)うて、

二(ふた)人(り)ゃそこで眠たかしころ眠って、

眠いこけとったて。

そいぎぃ、寝とったぎ娘さんが夢ば見たて。

その夢の中には、

真っ白か髭(ひげ)の生えとっお爺さんが出て来てねぇ、

白い花の咲いた草をヒョロッと出してね、

「この薬(くすい)ばさ、煎(せん)じて、

あなたの好きな人に飲ませなさい。

すると、体の中の毒はきっと消えますよう」言うて。

そうしてもう、無(の)うなんしゃったて。

そいぎねぇ、嫁さんな夢から覚めて、

あらっ、ほんなもんごたっ夢ば見た、

と思うてねぇ、あの、行きんしゃったぎぃ、

麓ん方に一艘の舟があったてじゃんもん。

そいぎぃ、こりゃ漁師さんの舟じゃろう、

と思うてねぇ、乗っさったいどん、

白か花ばまず探さんばらん、

と思うて、周りば見たぎぃ、

いっぱいその白か花の咲(し)ゃあとったて。

(今でいうぎぃ、トベラ、ドクダミ草じゃったと思いますよ。)

白か花の咲ゃあた草のいっぱいあったて。

そいぎぃ、娘さんな早速その草ば取って。

さあ、そいば煎じる物もなかねぇ、

と思うたばってん、近くに家(うち)のあんもんじゃい、

その近くの家から鍋ば借りて来て、

早速その草ば煎じて飲ますっごとしたて。

そいで、ちかっと手ば入れて毒(どく)味(み)ばしたぎ苦い苦い、

チョッと苦(にご)うして飲まるっとじゃなかったて。

しかし、その自分の好きな男じゃんもんだから、

元んごとなしたい一心から、

「飲んでください。苦いけど飲んでください」ち言(ゅ)うと、

男はねぇ、その可愛い女の子が言うもんじゃっけん、

グッグッて、一息飲んだて。

そいぎぃ、眠気がさしてコンコンと、

また長(なが)ーくその男は眠ったてじゃんもんねぇ。

そして、ヒョッと目の覚めて、

本物(ほんなもの)に正気になっとったて。

「私(わし)はどうしてここにおるのか。

なあ、お前(まえ)、誰(だい)かあ」ち言(ゅ)うて、

言うたてじゃんもんねぇ。

「何(ない)一つ覚えとらんけど、

こりゃ、どういうもんかあ」て言うて、娘さんが、

「ああ、そうです。あの、

あなたは毒茸ば食べて私ん家(うち)に来て、

しばらくおりましたよ。

だけど、私はあなたが大好きだから、

何処(どこ)までもついて来ます。

連れて行ってください」て、

一心に頼んだて。そして、

「この麓にねぇ、今、

近所の家(うち)に行きよったら一艘の舟があった」て。

そいぎぃ、

「その舟で、あの、向こうの島に行ってみゅう」ち言(ゅ)うて、

舟に乗んしゃったて。

そいぎその、あれが、

その男がズッと舟で行きよったぎぃ、

記憶が戻ってきてね、

「ああ、私は、あの島の網元の息子じゃったあ。

魚(さかな)を捕ろう。私の腕前は凄(すご)いぞ」て言うて、

魚の網ばサッて投ぐっぎぃ、じき魚が捕るって。

うぅ、入る入る。

舟はもう沈むごといっぱいなって。

そうして、

二人はその息子さんの網元の家に帰って来たて。

網元の家ではねぇ、

「ほんに、あの息子は一(ひと)人(い)

息子だったのに死んどっじゃろう」て。

「ほんに、あきらめとったぎぃ、

ぎゃん丈夫で帰って来て。

しかも、可愛か娘まで連れて来た」ち言(ゅ)うて、

恐ろしか喜んで、その舟もねぇ、網元さんの舟やったて。

来る時に、その舟に乗って、

そけぇ繋(つに)ゃあでから山さい行たて、

茸ば取って、もう手に持ったばかいで毒のまわって、

もう前後不覚もなく忘れてしもうて、

コンコンと眠っとったとやったて。

そいぎぃ、その網元さんでは、

「生きて帰った」ち言(ゅ)うて、

もう二人を並べてお祝いばして、そいして、

「そいぎぃ、二人結婚したかないば

庄屋さんの許しば乞わじぃにゃあ」て言うて、二人は、

「どうしても離れえん」て、言うもんだから、

「そんないば」ち言(ゅ)うて、

網元さんはその庄屋さんの

家に駆け合いに行きんしゃったて。

そいぎ庄屋さんも、

「そぎゃんことやったないば、

認めんわけにはいかん」て言うて、

天下晴れて許しが出て、その二人はもう、

めでたか夫婦になって、

それこそ魚もいっぱい捕れるし、

だんだんその網元さんの家も栄えていった。

そいばあっきゃ。

〔一五  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P279)

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