嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしねぇ。

長者さんの家(うち)に下男に来た男のおった。

あったいどん、その男もほんーに良か男でね、

そして気の利いて良(ゆ)う働きよった。

そして、

その長者さんの家(うち)に

一(ひと)人(い)娘のおったてやんもんね。

そいぎぃ、その娘さんもその、

恐ろしゅうその、ちぃ好(し)いたちゅう。

コローッてしとんもんじゃあ。

こりゃ気の利いとんしゃ良か男と思うて。

そうして、

とうとうどがんして二(ふた)人(い)が

愛を楽しみと慕うとね、

お腹(なか)が大きくなったてぇ。

そいぎねぇ、

とてもお嬢様で育っとんもんじゃ、

二人はとても一緒になることは

許してもらわれんばい、

こう思うたもんだから、

二人話し合(お)うて、

「夜中にジーッと二人逃げて行こう、

駆け落ちしゅう」て決めた。

そうして二人、

真っ暗か夜道ば逃げて行く逃げて行く、

もう一軒の家もなか山ん中ばもう、

何処さい通ってろうわからんごと

一生懸命逃げて行きおったぎね、

一軒もなか夜やったけん、

明かいの一軒ついた所(とこ)のあったあ。

そいぎぃ、ああー、

家(いえ)のあったけん良かったあ、

と思うて、ドンドンと戸ば叩(たち)ゃあて、

「今晩一晩、

どうーぞ泊めてください」ち言(ゅ)うて、

頼んだぎそこの家(うち)に婆さんのね、

「良か、良か。さあ、

中(なき)ゃあ入(はい)んなさい」ち言(ゅ)うて、

くいたちゅう。それでその、

駆け落ちした二人は、

やれやれとホッとしとったぎねぇ、

そこで赤ちゃんがちぃん生まれたちゅう。

「ありゃあ。こりゃあ

二(ふた)人(い)じゃったとの

三人にちいなった」ち言(ゅ)うて、

婆ちゃんもねぇ、

「あの、そんないば」ち言(ゅ)うて、

その、お産ば手(て)伝(つど)うてしおっ。

そいぎほんーに、男がね、

婆ちゃんがそけぇおって、

お産ば取り上げてくいて、

あの、ホッてしたとこでしょ、

疲れたもんだから。

夜中からもう、何処、どうしたかわからじぃ、

来たもんだから、疲れてウトウトと眠った。

あったぎぃ、

ガリガリ、ガリガリ音のすってやん。

奇妙かよう、

今時、ガリガリしよっと思うてね、

ガリガリいうとで目ば覚(さみ)ゃあてみたぎねぇ、

隣の部屋に寝とったはずのねぇ、

女房どがんしとろうか、

ジーッとこう

(女房になったいろう、

どがんじゃい知らんんばってん、)

彼女はどうやって寝とろうかにゃあ、

と思うて、ジーッと開けてみたぎねぇ、

あったぎねぇ、

ほんなその横背に寝とってねぇ、

婆ちゃんが赤ん坊の手ば、

とっても美味(おい)しそうに

ガリガリ音を立てて食べおったて。

そいぎねぇ、女の方はて、

その子ば見てみたぎぃ、

女の方は、

もう疲れたとみえて

グッスイ眠っとったてじゃんもんねぇ。

あいば良か塩梅(んばい)の家(いえ)のあった、

と思うて、こけぇ泊まったいどん、

こか山姥の家(え)じゃったあ、

と思うてねぇ、あの、その、

女の人にね、合図ば、

こう袖ば引っ張って起こしてね、

「おしっこに立つ振りして来い」て言うて、

おしっこしに二(ふた)人(い)とめ立った振りしてねぇ、

お産した若い女の人は違(ちご)うて、

男は山ん中ば走ること走ること、

もう夜(よ)の明くーんまで知らん所ば、

山ん中ばおろちいて走ったちゅう。

そうしてねぇ、

もう何(なーん)も知らん村のあったけん、

明け方その村に、草臥れて、

もうグッタリなって、

山姥の後から追いかけてじゃ来(き)おんみゃあかと、

後から誰(だい)か来おっごたっ気ばっかいしてねぇ、

おった所(とこれ)ぇ、

ふと見たらまた一軒のあっぎぃ、

ああー、ここは良かねぇ、

と思うて、そこの家(いえ)に飛び込んで、

「私達ば、どうか匿(かく)まってください。

ほんに、あの、

山姥が追っかけて来(く)うごたっけん」て言うて、

色青うなって頼んで。

そこの家(うち)も親切に、

「良か、良か。良か、良か」ち言(ゅ)うてね、

ニコニコして入れてくいた。

あったぎねぇ、何日でんもう、

ノンビラーとして、ユックリしてください。

あんさん達ぐりゃあ

食べさせるご馳走ありますよ」て言うて、

ご馳走いっぱい持って

来てくるってじゃんもんね、食べきらんごと。

あいどん、

今までもう疲れてきとったもんじゃあっけん、

どのご馳走食べても美味しかて。

もうゆうぎゃん美味しかとにあいちいて良かったあ。

この家(いえ)は良か家(うち)やったあ、

と思うて、もう三日も泊まってから、

ヒョロッとねぇ、

庭ば見てみたぎねぇ、

庭にさ、何のあったか。

どうか油搾り機械のあった。

ありゃあ、ここは油搾っとじゃろうかにゃあ。

油搾い機械ば置(え)ぇてあっと見おったぎねぇ、

その横背の方には、

人間の足の首のどいしころでん

積んであってじゃんもん。

あったぎそいば見たとが、

ゾーッてした。

今度、いろいろな、ああ、

ここから早(はよ)う逃げ出せんばあ。

こっから早う逃げんば、

人間の油ば搾らるっとこじゃったあ。

言うてねぇ、

もうまあーだ昼ご飯前じゃったいどん、

そこの家(え)ばさっさと、

あの、女の手ば引いて逃ぐっこと逃ぐっこと、

もう、あの、走って逃げたて。

そうして、その男は、

もう人間の家(いえ)には、

人間の家こそ怖(えす)かことはなかて。

人間ばいち食うてみたい、

人間ば油搾いの家じゃったいしたけん、

もう人間の家には泊まらんて、

決めとんもんじゃいけん、

そこに太(ふと)ーか松の木のあったけん、

これに私(わし)が登って、そして、

「俺の紐で君を上さん吊り上げるから、

木の上に泊まろう。

そいぎぃ、あの、あぎゃん、

狼てん何(なん)てんに襲われじぃ、

木の上にばし寝んぎぃ、

もう人間の家に、もう泊まられん」て、

言うてねぇ。

そうして、

木の上に二人とめ泊まることにしたて。

あったぎ木の上に登っとったぎねぇ、

宵の口やったけん、

北の方からチントンカントン、

チントンカントン音立ててね、

お葬式の今度(こんだ)あ来(く)ってじゃんもん。

そうしてねぇ、

おっ母(か)さんのことたい面白かない」て、

つんのう(伴ヲシテ)て行きんしゃったて。

そうしてねぇ、

もうどうーもがんちゃんの来(こ)んごたっけん、

こりゃ小(こま)か子供ばい、

と思うてね、

「ああー、我が子ば山姥がいち食うてしもうたあ」言うて、

悲しさもあって、

ジーッと思いよったて。

そいぎその、

子供んごたっとのお葬式のあって、

その松の木から、

こう見ゆっ所に、埋めてね、

そうしてあの、その、帰って行ったて、

泣きながら。

あったぎ一時(いいとき)ばっかいしよったぎね、

その埋められた所(とこ)から、

泣き声のすってやんもん。

もうズーッと、そん時ゃ夜中ゃなっとったて。

「ぎゃーん夜中に泣き声のすんねぇ、

不思議かねぇ」て、二人(ふちゃい)て話して、

「あんさん達、見たろう」て、

女の方、言うもんじゃけん、

今見たばっかいのお墓じゃったいどん、

じき掘り返してみたぎねぇ、

そこには可愛か子供の埋められとったて。

そうして、墓んなかで生き返ってね、

泣きおったて。そいぎぃ、

そん子ば抱(うだ)いて、

そこの上は、

ここん辺(たい)の根つうじゃろう、

と思うてねぇ。

そうしてもう、

嫁さんと二人(ふちゃい)で、

その、今(こん)度(だ)あ木から降りて、

赤ちゃんば抱(うだ)いて山ば下ったぎねぇ、

「このお葬式ば出した所(とこ)、

何処じゃろうかあ」て言うて。

「ああ、四、五軒先の家です」ち聞いて、

大ーきか大ーきかとても分限者さんやった。

そして、

「そこにあんさん達が

お葬式に埋めてくんさったろう。

私(あたい)どんが木の上から見よったぎぃ、

泣き出(じ)ゃあて生き返んさったですよ」て。

その家中の人の嬉しかごたっ、

嬉しかごたっ、

「こりゃあ、あなた方は命の恩人」て。

「何時(いつ)までいてもいいから年寄りになって、

この世の一生あの、

私の家(うち)でお過ごしください」て言うて、

もう大事にされてねぇ。

そうして、

「ほんに良かった、

こんよに幸せのことはなかった」ち言(ゅ)うですね、

一生、幸せばつかんだ。

駆け落ちでつかんだ。

チャンチャン。

〔一四  本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P277)

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