嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかしねぇ。
年取ったおっ母(か)さんと娘さんと二人、
もう寂しい暮しじゃったてぇ。
その娘さんは器量は良し、
もう年頃になったて。
そいで方々から、あっちからもこっちからも、
「嫁さんに欲しかあ」て、
言う人ばっかいじゃったけれど、
娘さんのこのお母さんは
余(あんま)い年寄(としお)いじゃったてじゃっもんねぇ。
そしてねぇ、その上さ、
もうほんに体の弱かったてぇ。そいけん、
「こぎゃん弱か体のお母さんば、
いっちいては(置イテハ)お嫁には行かれんけん」て、
降るほど縁談があっても、
どの縁談も断わりどうしやったて。
あいどん、まめまめとお母さんば良(ゆ)うしてやいよんしゃっ。
優しい娘さんの評判はねぇ、
「親孝行だ」ち言(ゅ)うて、
村中に知れ渡とったあと。
そいぎねぇ、村の庄屋さんの息子さんが、
「嫁に欲しかあ」ち言(ゅ)うて、
申し込んだて。
ところが、ちょうどそこもねぇ、
「ぎゃん貧乏の娘とでは釣り合いの悪か。
そりゃもう、釣り合いの合わんとは、
不縁のもとじゃっけん」て、
こいもじきに断わんさいたと。
そうして、とうとうその年も正月になったちゅうもんねぇ、
もう近所には、
ここのおっ母(か)さんの弟さんが住もうとんしゃったて。
で、初午の日に、あがん、
誰(だい)でん美しゅう着飾って初午詣でばしおんもん。
あすこの娘も、
おっ母(か)さんとばっかいおんもん。
連れて行かやあ、と思うて、叔父さんが、
「今日は初午だ。
お参りに一緒に行こうやあ」ち言(ゅ)うて、
誘いに来たて。そいどん娘さんは、
「今日、お母さんの
風邪引きが酷うして寝とんさっけん、
あの、家(うち)からでも
拝んでいっちょきます」ち言(ゅ)うて、
断わったて。
「どぎゃんこってん、
初午詣でもしゅうごとなっかあ」て言うて、
「そぎゃん、おっ母さんが具合が悪かないなあ、
叔父さんが一(ひと)人(い)でお参りして来(く)っ」て、
言うてね、叔父さんは行ったて。
そして、おみやげにねぇ、
「何(なーん)も、
おみやげでんなかもん。
ここん辺(たり)笹のあっもん。
初午には笹が良かろう」ち言うて、
笹ば買(こ)うて、笹の五枚ちいとったて。
そいば買うて来(き)んしゃったと。
「こりゃあ、
縁起物(もん)じゃっもんなあ」て言うて、
「ハッ、おみやげ」ち言(ゅ)うて、
帰って来てから、
娘さんに渡(わち)ゃあたぎぃ、
「こりゃあ、有難いことでございます。
早速、神棚へお供えしときなさい」て、
お母さんが言うもんだから、
「はい。そうします」ち言(ゅ)うて、
神棚へお供えしたとば
叔父さんは見て帰んしゃったて。
あったぎぃ、
翌朝になって娘さんが
神棚を手を叩(たち)ゃあて拝みおったぎぃ、
「今日も無事でありますように」て言うて、
拝みよったところがねぇ、
その笹のさ、見えんてじゃっもん。
ビックイして、
確かに笹ば上げたいどん、と思うて、
「お母さん、笹が無(の)うなっとっがあ」て、
お母さんの枕元に行って言うたらねぇ、
お母さんが、
「その辺(へん)によく見てご覧。
倒れちょるかもしれんよう」て、
言んしゃったて。
「そうねぇ」て言うて、
触ってみたがない。
そいぎぃ、お母さんが床ば起きて来て、
神棚をこう伸び上がって探してみたいどん、
なかったいどん、何(なん)じゃいころって、
触った物があるなあと、
お母さんが取ってみたら、
小判のキラキラ光っとの五枚あったてぇ。
「あらー、
笹の葉に五枚葉がついとったとの
小判になっとっ」と言うて、
この親子はビックイ仰天してねぇ、
「早(はよ)う、
叔父さんに言うて来(こ)じにゃあ」ち言(ゅ)うて、
じき近くだもんだけ、跳んで行たて、
叔父さんば呼んで連れて来たて。
そいぎ叔父さんも、
「そぎゃんことがあるかあ」ち言(ゅ)うて、
半信半疑で来てみましたて。
そうしたところが、
確かに目の前に小判が
五枚もあったちゅうもん。
そいぎぃ、叔父さんが言うことには、
「お前がほんに今夜も感心かごと、
親孝行ばしおんもんじゃっけん、
神さんが確きゃあ授けてくんさったと。
そりゃ、取っときやい。
お前(まい)の孝養の褒美じゃよう」て、
言んしゃったて。
そいぎねぇ、
小判の五枚ちゅうぎ恐ろしか金持ちてねぇ。
(今ん者はわからんけど)
そん噂がじき村中広がったて。
そいぎぃ、庄屋さんの所(とこ)からねぇ、
「息子さんの嫁に、ぜひ。
もう他には取らん。もう、ぜひとも」て、
言うことを持ち込んできたて。
「もう、そぎゃん貧乏人ては
五枚も小判ば持っとっない言われん」て、
言うことで、
叔父さんも仲に入(はい)って取り持って、
機嫌よくその娘さんは、
庄屋さんの所(とこ)にお嫁入りするごと決まって、
そいから先ゃ、
ほんに幸せな暮らしだったと、いうことです。
そいばあっきゃ。
〔一三 本格昔話その他〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る843話 P276)