嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

七人の六部さんが恐ろしゅう大雪の降る時にさ、

川の渡し場に来んさったちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、その渡り守いはさ、

若(わっ)か者(もん)じゃったてぇ。

ほんに寒かったけん、

何時(いつ)も、あのお爺さんが舟で渡し守りばしよったのに、

その日に限って息子が渡し舟を渡しおったて。

そいぎぃ、夕方近くなって、

大雪の吹雪になった時分に、

七人の六部さんが乗り込んで来んしゃったけんねぇ、

「今日はもう、ぎゃん吹雪まで降っけん、

やみゅうで思うとったあ」て、言うたぎにゃ、

「いんにゃあ。もう、

どうぞ急ぐけん向かい岸に渡してください」ち言(ゅ)うて、

頼むもんじゃっけん、

「そんない、仕方なかあ」て言うて、

乗り込んだのが、

年寄いのお髭(ひげ)の白いお爺さんから、

だんだんに舟に乗り込んで来たて。

そいで、いちばん最後に乗った者(もん)な、

小(こま)ーか子供じゃろうか、と思うごと、

小ーか一(ひ)人(とい)六部さんじゃったて。

子供のように小さい人じゃったて。

そうして、舟に乗って来たいどん、

乗るさみゃあ、ヨロヨロヨロって、

よろめいてゴトッと、倒(とお)れた。

そいぎぃ、後ろに背負っていた籠(かご)からバラバラバラって、

金銀の宝物(たからもん)ば

舟ん中に零れ落としたてじゃんもんねぇ。

そいどん、その舟頭はその目でじき

見逃さじ見とったあて。そうして、

だんだん、だんだん舟は、川の真ん中さい行く。

川は広かちゅうもんねぇ。

そうして、吹雪のして向こう岸もわからんごたった。

そいぎぃ、舟をやいながら、舟頭さんな考えた。

ありゃあ、

あの人達は背中に背負(かる)うたとは

金銀の入(はい)っとっに違(ちぎ)ゃあなかあーち、

こう睨(にら)んでとったて。

(もう、心が鬼になりましたねぇ。)

そうして、ようーし、このたった七人、

舟ば俺(おい)が操らんことにゃ向こう岸へは渡られん。

俺(おい)が大将たい。

こいどんば殺すぎんとにゃしめたもん、

と思うて。

もう、心が鬼のごとなっとんもんじゃっけん、

舟が真ん中ん辺(たい)まで来た時に、

もう、舟から棒で突き落として全部(しっきゃ)あどめ、

七人とめ、

川に落としたい傷おわせたいして、

殺(これ)ぇてしもうたて。

そいで、その背中の物を開けてみたら、

もう目も覚めるごと金銀財宝ばっかい、

ギッシリ持っとらしたて。

しめたあ、良かったにゃあ。

家はもう破産寸前じゃったのに、

良かったあ、と思って、ほくそ笑(え)んで。

そいから先ゃあ、

その舟頭さんの家(うち)ゃ大金持ちになって、

家も御殿のごと立派かとば作ったちゅうもんねぇ。

そいどん、

そいからそのちょうど七人の

六部さんばうち殺(これ)ぇてから一年目になっとったて。

御殿のごた家も建てたばっかいだったのに

火事で丸焼けになったて。

ありゃあ、ちょうど吹雪の日じゃったあー、

と思う時、丸焼けしてしもうたて。

そいどん、沢山のお金じゃっけん、

またじき建つ、建つ、また家ば建てたて。

そいぎにゃあ、

今度は一月(ひとつき)も経たんうち、

そこにめがけて雷の落ちて、

とうとう主人までも焼け死んだて。

そいから先ゃねぇ、

残った家の者は酷か病気ばっかい絶え間なかった。

そうして、とうとうその家は、

三年目にはつぶれてしもうたて。

そいぎぃ、誰(だい)でん言わん者ななし、

「あの雪の日に七人の

六部さんを殺したちゅうが、

ありゃ、ほんなことじゃったとばい。

その崇(たた)いで、ほら、

あの家は断絶した。

悪かことすれば必ず崇りがあるちゅう

その辺(へん)の噂持ちきりじゃった。

そういうことです、終わり。

〔本格新三三 こんな晩(AT九六〇)(類話)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P256)

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