嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

恐ーろしか太か赤ちゃんの生まれんしゃったてよ。

恐ーろしか一貫目も上もあっごたっ太ーか赤ちゃんでね、

スクスクと育ちんしゃったて。

そいぎぃ、家(うち)ん者はねぇ、

「ぎゃん太か男ん子の生まれたけん、

お前(まり)ゃあ、相撲取いしゃんにならんばたい」て、

家ん者の言いおんしゃったてぇ。

そいぎねぇ、その人はねぇ、

お相撲さんにならんばじゃろうて、

こう思うとんしゃったてぇ。

そうして、だんだん、だんだん、

もう大きくなるにつれてよう、

良か男になって、堂々とした体格てじゃんもんねぇ。

そうして、良か若(わっ)か者じゃったてぇ。

あいどん、お相撲さんにならんばらんにゃあーて、

覚悟ば決めとったもんじゃっけん、

あの、青年になった時ねぇ、

四月三日にねぇ、

お相撲取りが始まっちゅう村で評判じゃったてぇ。

そいぎぃ、

誰(だい)ーでん見物しおっ最中に

負くぎこりゃあ大事(ううごと)じゃあ、

と思うてねぇ。そうして氏神さんに、

「どうぞ、四月三日の相撲には勝ちますように」て言うて、

お参りをしよったてぇ。

そいぎねぇ、

真黒か氏神さんのお社(やしろ)に行たて帰よったぎね、

向こん方からねぇ、

女の人の来(き)おんしゃったてぇ。

そして、赤ちゃんばさ、

ゴョゴョ、ゴョゴョと泣くとばさ、

「よしよし、よしよし」て、

あやしながら来てね。

そして、その相撲取いさんになろうて

決めとっ若(わっ)か者の側に来てね、

「この赤ちゃんば一時(いっとき)ばっかい預かってください」て、

言んしゃっちゅうもん。

「そいぎぃ、私もお宮さんにお参りして来ますから」て言うので、

ああ、この人も何(なん)じゃい願掛けとっばいねぇと思うて、

「はい。いいです」ち言(ゅ)うて、

その赤ちゃんば受け取んしゃったって。

そして、そのおっ母(か)さんの言んしゃっのにはねぇ、

「決してこの子を下に、土に下(お)ろさないでください。

抱(うだ)いたまましとってください」て、

言んしゃったて。

そうして、お宮さんにテクテク

拝みに行きんしゃったちゅうもん。

あったいどん、

赤ちゃんはおとなしゅうしとんしゃったいどん、

だんだん、だんだん手にのさんごと

重とうなってくるちゅうもん。

早(はよ)う帰って来んしゃっぎ良かいどんねぇ、

と思うとっどいどん、

じき来(く)って言んしゃったその女の人は、

いっちょん来(き)んしゃらんて。

もう手はのさんごと重(おも)とうして、

もう汗はたらたら体中はぬくもって、

精一杯下に下ろすことなんちゅうことだったから、

一生懸命抱(うじ)ゃあとんしゃったて。

ますます重とうなんしゃっちゅうもんねぇ。

困ったねぇ、て思うとんしゃったぎねぇ、

とうとう、しらーっと、

鶏の鳴いて夜の明けてきたて。

そいまで待っとったいどん、

お母さんな来(き)んしゃらんちゅうもんねぇ。

そうして、こうして見よったぎさ、

人間の赤ちゃんと思うとったぎぃ、

お地蔵さんやったてぇ。

石の地蔵さんやったて。

そうして、重とうしてたまらじねぇ、

そうして、やっぱい、ああ、お地蔵さんやったと思うて、

しんしゃったところが、

その青年の恐ろしか相撲の力ば貰(もろ)うとんしゃったて。

そうして、

相撲取りは都でいちばんになんしゃったて。

そいばあっきゃ。

〔本格新二〇 産女の礼物(AT七六八)〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P254)

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