嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 ねぇ、人間ばっかいじゃなしさ、

野狐【やこ】でんがお産ばすっ時ゃ、

ほんにきつか産ばすっ時のあってばい。

そいぎもう、

野狐も恐ろしかきつかお産ばしおっけんちゅうてねぇ、

どがんしゅうかと思うて、

お父さん野狐の産婆さんば迎えに来たちゅう。

そいぎぃ、

「そんないば」ち言【ゅ】うて、

提灯ばつけて迎えの来【き】んしゃ

所【とこ】さいつんのうて【ツイテ。オ伴シテ】、

そうして、あの、そのお産ばしおんしゃっ所さい行きんしゃって。

そうしてその夜に、

ようようして【ヤット】

赤ちゃんの生まれたちゅうもんねぇ。そいぎぃ、

「ああ、良かったあ」ち言【ゅ】うて、

産婆さんも迎えぎゃ来た者【もん】も、

皆ホッとして。そいぎお礼に、

お金は勘定してやらすとたい。

「ぎゃん沢山【よんにゅう】やあ」て言うごと、

沢山貰【もろ】うてばい、

そうして、

その産婆さんな我が家【え】さい帰んさったちゅうもん。

「ただいま。お陰、あの、

赤ちゃんの生まれたあ」言うてねぇ、

喜んで帰って来んしゃったぎばい。ところが、

「沢山お礼どまちい貰うて来た」て言うて、

見せんしゃったぎぃ、

「恐ろしか良かったのまーい。

よっぽど金持ちばいねぇ」

「いんにゃあ、家【え】は

小【こま】ーか家【うち】だったいどん、

ぎゃん沢山貰うたばーい」で言うて、

見せんしゃったて。

「そいぎぃ、あぎゃんと、

しっかりなやーあとかんば、泥棒にどん合わんごと」て言うて、

なやーあて、翌日、

「夜【よ】んべは、お前【まい】

沢山お礼どま貰うて来たけん良かったのう」て言うて、

産婆さんな全部【しっきゃ】あから

称美【しょうび】られて、

「あいば、まいっちょ見てみゅうかあ」て、

見てみんしゃったぎぃ、

そいぎ木の葉ばっかいやったちゅう。

そいばあっきゃ。

〔二八六 狐のお産【cf.AT一五六B】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P244)

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