嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

奥山にさ、

お婆さんと若【わっ】か者【もん】がおったちゅう。

お婆さんな、

「親類に用事があっけん、

今夜は泊まって来【く】っから戸締いば良【ゆ】うして、

火の用心はせろよ」て言って、

行きんしゃったて。

そいぎぃ、戸締いしゃったぎぃ、

お婆さんは、

「もう、今帰ったよう」て言うて、

帰って来【き】たもん。

そいぎぃ、若か者は知らん振いして、

「お婆さんな、夜【よさり】寝る時は

麻袋に入【はい】るんだったなあ」て、言ったら、

「はい、はい」ち言【ゅ】うて、

麻袋に入ったてぇ。

そいぎ若か者は、

「そいぎぃ、

袋の口は縄で酷うよく硬う括らんばじゃったなあ」て、

言うたて。

「そうだよう」て、

中から声んすっけん、シッカイ括ったて。

そうして、

「納屋の中に放り込むんだったなあ」て、

若か者が言うたぎぃ、

「そうだよう」て、言うもんやっけん、

納屋に放り込んどったてぇ。

そうしてねぇ、来てみたぎさ、

袋の中は空っぽになっとった。

もうあれ、婆さんに化けて来たとは狸じゃったて、

若か者は知っとったてじゃんもんねぇ。

そいで、

そいが一本道をズウッと走って

逃げた狸は追いかけて来よったぎぃ、

辻にお地蔵さんがあった。

そいぎもう、

その逃げたと思うて追っかけて来たいどん、

お地蔵さんが今日【きゅう】に限って、

二体も建っとんさってじゃんもんねぇ。

そいぎんと狸のお地蔵さんにうまく化けたいばい、

と思うて、その若か者な、

どいが本物【ほんもん】の

お地蔵さんじゃいわからんごと、

良【ゆ】う似とんさっもんじゃっけん、

「本物のお地蔵さんな笑いんさっもんなあ。

笑うんだったなあ」て、

言うたぎぃ、左【ひだい】側のお地蔵さんが、

キャラッキャラッキャラッって、笑った。

そいぎぃ、

そのお地蔵さんにシッカイ麻袋ばかけて、

シッカイ括って、担【かた】げて持ち帰ったぎぃ、

そん時ゃほんなお婆さんが、

「ただいま」ち言【ゅ】うて、

帰って来【き】んしゃったて。

そいばあっきゃ。

〔二八〇 叺狐【cf.AT三二七C】【類話】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P240)

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