嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

山法師さんのねぇ、

山道を行きおった時、松の木の下にねぇ、

狐の日向ぼっこしとったてぇ。

そいぎぃ、若【わっ】か山法師さん

悪戯【いたずら】気ば起こしてさい。

そして、あん狐のよか昼寝【ひんね】をしとっ。

いっちょビックイさせてやろう、

と思うて、我が持った法螺貝ば、

バーバーて、吹きんさいたちゅう。

そいぎぃ、

狐はビックイしてちんちろまい【大慌テ】して

逃げたてじゃっもん。

そいぎぃ、山法師さんな

テクテク、テクテク山道ば歩いとったぎぃ、

ああ、草臥れたなあ、ここらで一休みしよう、

と思うて、休みんさったぎぃ、

あら、もう日の暮れたろうかにゃあ。

秋の日は短かていうどん、

本当だなあ、と思うて、しんぐるなってきたて。

あいどん、ぎゃん日の暮れたないば

何処【どけ】ないとん泊まらんばにゃあ、

と思うて、

こうして首ば傾【かし】げて見んさったぎぃ、

向こん方に一軒見えたてじゃっもん。

あつけぇ家【え】のあったあ、

泊まろう、と思うて、

「こめん」ち言【ゅ】うて、

戸ば開けんさいたぎぃ、

婆さんのおったて。そうして、その婆さんの言わすにゃ、

「あんさん、良か塩梅【んびゃあ】来てくんさったあ」て。

「私【あたし】の家【うち】は今、

死人の出てくさんたあ、

隣【とない】の家【うち】に知らせに行かんばらんと。

困っとったあ。代わいのなし。

私【あたい】が迎いに行たて帰って来【く】んまで、

この棺桶ば番しとってくんさい」て言うて、

サッサと出かけて行きんさっちゅうもん。

そいぎぃ、山法師さんはジイッと座って番しとんさったぎぃ、

ミシィミシィて、音んすってぇ。

そうっと後ろば見んさったぎぃ、

その山法師さんのねっち寄って来【き】おったちゅうもん。

じゃーん、よそん悪かと思うて、

後さずりすっぎぃ、また後さずいの所さにゃ山法師さんな来【く】って。

そいぎぃ、山法師さんな仕舞【しみゃ】あには、

幾ら山法師でん恐ろしゅうなって、

ガタガタ、ガタガタ震【ふり】ぃながら

後さずいばあっかいしおんしゃったて。

あったぎね、ちぃっと向こん方に、

田ん中にねぇ、あの、

仕事しぎゃ来【き】とった百姓達にさ、

「ありゃあ、あい、山法師ゃ、

今、川にちい落ちっばい。

もう川【かや】あ落ちっばい」て、

言うし仕舞わんうち、

その山法師さんな川さにポテーて、

かっかえんしゃったて。

そいぎぃ、こりゃねぇ、

山法師さんな狐に騙されおんしゃったと。

暗か暗かと思うとんしゃったいどん、

なんの狐から騙されて、そ

うして真っ昼間に川に落ちてビッショイ濡れて、

「ありゃあ、狐に騙されたあ」ち言うて、

喚【おめ】きんさいたいどん、

狐は狐、山ん上から尻屁をパラパラて振いながら、

山法師さんの川に落ちっとば見おったちゅう。

そいばあっきゃ。

〔二七六 山伏と一軒家【cf.AT八一二】人と狐〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P239)

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