嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

庄屋さん方【かち】ゃさい、

たった一【ひ】人【とい】娘のおったちゅうもん。

庄屋さんな、

たった一【ひ】人【とい】女の子ば持っとんしゃったてばい。

あったぎねぇ、

小【こま】ーか生まれた時から、

目の下【しち】ゃポトーッて、

小【こま】んかイボんできとったて。

そいがねぇ、

だーんだん年頃になったぎばい、

だんだん太うなったてぇ。

もうブラブラ下がったごとなった。

「あありゃあ、

年頃になって聟さん取らんばらんとこれぇ、

ぎゃーんイボの太うなって困ったあ、

困ったあ」ち言【ゅ】うて、

庄屋さんが言いおんしゃったぎねぇ、

近所の辺【にき】者の世話焼く者のおってさ、

「お前【まい】、

知らんやったのまーい。

室島【佐賀県杵島郡有明町】の地蔵さんな、

あいしたイボ地蔵さんばーい。

あつけぇあ参【みゃ】ってんござい。

イボばでけた者【もん】な、

誰【だい】ーでん、

あすこの地蔵さんに参って治【ゆ】うないよっばい。

イボのコロッと扱【こ】ぐって。

あつけぇ、参【みゃあ】ーあいござい」て言うて、

教えんさっ者【もん】のあったぎね、

「参あぐりゃあは易しかこと。

イボの扱ぐっとないば参あらんばあ」て言うて、

お父さんもおっ母さんも。

おっ母さんな朝早【はよ】う、

お父さんな夜【よ】さい、

日暮れ時、もうそのイボ地蔵さんにねぇ、

真剣に、

「家【うち】の娘の、

あのイボ扱ぐっごと、跡形のなかーごと、

扱ぐっごと、いっちょしてくいござい」ち言【ゅ】うて、

一心に拝んどいさいたてぇ。

そいがねぇ、

イボ地蔵さんのあっ所【とこ】ん、

後ろの方、こう竹のこう生【う】えてとんもんねぇ。

ほんなこてあっ。

そいぎねぇ、こう竹の生【お】えた所【とけ】ぇはね、

狸のおったとたーい。

こう相撲取ったて、狸の。

あったぎねぇ、そん狸のさ、

「イボ地蔵さん、

家【うち】ん娘の目の下のイボの扱ぐっごと。

家【うち】の娘の年頃じゃっけん、

みたんのうなかごと【醜ククナイヨウニ】、

後も残らんごと、扱ぐっごとしてくんさい」て、

拝みよったとばい。

狸どんが朝は行きよったちゅう。

そうしてその、古狸の爺さん狸が、

そいば聞きつけてね、

そうして悪知恵ば考えたてばーい。

そうしてねぇ、我がやどの者【もん】には、

その古狸は、あの、息子てん孫どみゃ何【なん】てでん言わじねぇ、

山【やん】法【ぼう】師【し】さんに化けてさ。

そうして庄屋さん方ゃ行たてねぇ、

「こんにちはー」ち言【ゅう】うて、来て、

「庄屋さん。お前【まい】んとこの娘さんな、

イボんできとんさってじゃろうがあ」

「ない。イボのあいが、

いっちょ取るっくるっぎ良かいどん。

あいが取るっぐるごと、

あの、室島のイボ地蔵さんに、

そいけん参【みゃ】あぎゃ行きよったんたあ」て言うたて。

そいぎ知らん振いしてね、

「そぎゃんやあ。

ただ参あってはばい、

イボは扱【こ】げんと。

お地蔵さんにもね、何【なん】ない、

お供えばせじにゃあ。

『ムニャムニャムニャー』て、

言いばかいして、イボのコロッと扱【こ】げとけぇ。

そりゃあねぇ、あんた達のお供えぐりゃあしわゆうもん。

ぎゃん金持ちさんじゃいもん」て、

山法師さんの言んしゃっぎぃ、

「ない【ハイ】、ない。

お供えは、そいぎ何【なん】ばすっぎよござんしゅうか」て、

聞いたぎぃ、

「お供えは、ほら、大方小豆ご飯じゃろうがあ」て、

そがん言うて。

「あはあ。小豆ご飯ねぇ」て、

言うてねぇ、言んしゃったて。

「小豆ご飯ばっかいでは、

効き目のなかとばい。

油揚げの味噌汁と小豆ご飯ば上げてんござい。

てきめん効き目の良か」て。

「そがんや。あいばもう、明日【あしち】ゃあから、

そんくりゃあのことでイボの取るっとない。

そりゃあ、気づかんじゃったあ。

有難【あいがと】うでござんしたあ」て言うて、

山法師さんは丁寧にお礼どん言うて、帰はったて。

そうしてねぇ、その翌日からは、

小豆ご飯どん炊【ち】ゃあて、

そうして油揚げどん沢山【よんにゅう】入れて、

味噌汁どん作ってねぇ、

お供えに持って行たて、

「どうーぞ、娘のイボの取れますように」ち、

拝みよんっさいた。

あいどん、小【こも】うもならんし、

太うもならんし、

ブラブラいっちょん変わらんてじゃもんねぇ。

そいぎぃ、

「変わらんにゃあ。

お供えしても効果は何【なーん】も効き目はなかたーい」ち言【ゆ】うとば、

じき床下ん辺【にき】、

チャラチャラ来とってぇ、

古狸が聞いた喜べ、

じきーその晩げ方、

庄屋さん方【がち】ゃあやって来てばい、

「お前【まい】達の、

呪【まじにゃ】あの声は、

外ん方さいつん漏いよって。

つん漏らんごと、幕張いござい。

幕ば張ってばい、

我が来て、そうしてお祓いばしてやっ」

「そうですか。そりゃあ有難いこと、

有難いこと」ち言【ゅ】うて、

しきりにその、嬉しがったちゅう、

庄屋さん達ゃあ。

そいぎぃ、

家【うち】ん者【もん】に幕ば太かとば張らせて、

グルーッと、そこ張い廻【めぐ】りゃあたぎね、

その日から五人もねぇ、

小【こま】ーか者【もん】やら、

太ーか者やら、ジクッとした者やら、

五人もねぇ、山法師の来たてよ。

山法師さんの五人も来やってよ。

そうしてねぇ、お経さんておかしかて。

ペチャクチャ、パチャパチャ、

クチャクチャ、チャクチャク、

もう後ろの方で、

「ワーアワーアイ」ち言【ゅ】うて、

頭ば地に引っつけて、聞きおっぎぃ、

ペチャクチャ、パチャパチャパチャパチャ、

変なお祓いにゃあと思うて、聞きよった。

あったぎねぇ、庄屋さんの隣【とない】村【むら】に、

山ばいっちょ、

そこのお地蔵さんの所【とこ】ば越えてから行く所にねぇ、

あの、お招【よ】ばれに行ってさ、

ちいーっと酒どんひっこくろう【ガブ飲ミシテ】て、

ヨトーヨトして帰って、

その笹藪【ささやぶ】ん辺【にき】に来らしたぎね、

「ガヤガヤ、ワアワア」言いよっち。

あら、誰【だが】ぎゃん。一休みして行こうかにゃあ、

と思うて、こうー石になんかかって【モタレカカッテ】、

一時【いっとき】よくう【休ンデ】とらしたぎね、

何【なん】の狸どんが、

「良かったなーい。

今日【きゅう】の小豆のうまんまは、

美味【うま】かったない」

「いんにゃあ、油揚げの味噌汁が美味かったあ。

我【わり】ゃあ、油揚げの味噌汁が美味かったばい」

「あいば、

小豆の何【なん】て言えん味やったじゃなっかあ」て言うて、

「うまいとこいたない」ち言【ゅ】うて、

もうほんに、そいが、ガヤガヤじゃったて。

そいぎ庄屋さんな、

ありゃあ、おどんなふうけ【馬鹿】てごとした。

あの狸どんから、古狸どんから、

からかわれよったあ。

ぎゃんして、

おどんばきゃくい【接頭語的な用法】騙しおったあ」て、

言うてねぇ、我が家【え】さい帰って、

「あのイボの扱げん筈【はず】くさい。

山法師ちゅうて来たたあ、ありゃあ、

狸やったあ。あの狸は捕らんば、

もう仕様なか」て。

「あの、ぎゃん狸の

きゃあくい【接頭語的な用法】騙【だみ】ゃあて、

イボ地蔵さんに願たてございて、

教えぎゃ来たとも狸じゃったなかったろうかにゃあ」て、

こう言んしゃったて。

「いんにゃあ、あの人たんな、

ほんな人間じゃったあ」て言うてねぇ、

言うことじゃったて。

そいぎぃ、狸ばいっちょ捕ろうでちゃ、

太ーか袋ば作って、

そうして袋に全部【ひっきゃ】あ追い込もうでちゃ、

何【なん】じゃい燻【くす】べんばらんみゃあ」ち言【ゅ】うて。

「うん。あの青松葉ば燻【くすぶ】っとが、

いちばんけぶたしゃすっけん、

青松葉ば燻【くすび】ゅうでぇ」て、

言うたぎぃ、青松葉ば用意して、

太ーか口ば、口ば太く開けて、

袋ば作って行たてねぇ。

あくる日から、その庄屋さん達ゃ、

「下男も来い。下女も来い」ち言【ゅ】うて、

沢山【よんにゅう】連れて行たてね。

そしてじきー燻【ふすぼ】らかすごとしとったぎぃ、

もう何時【いつ】もよいか倍もね、

あの、小豆まんまも作い、

油揚げの味噌汁も作いして、

沢山【よんにゅう】抱えて持って行たてね。

そいぎ山法師さんの来ないよったちゅう。

「あらー。今日【きょう】はまた、

ご苦労でござんすっ。

あいどん、今日【きゅう】は、

あの、お祓いばすん前、あの、

ぎゃん沢山【よんにゅう】抱えて、

連れまでつれて来たけん、

早【はよ】うこいば、あの、この、

あんた達の食べんさっとまで、

いっちょ持って来ましたけん、

こい、ご馳走ば食べてくんさーい」て、

上手に言うたぎね、

好きな物【もん】じゃもんじゃい、

「ああ、有難【あいがと】うござんすっ」ち言【ゅ】うて、

もう恐ろしか涎【よだれ】タラタラしてもう、

喜んでねぇ、その晩に着いたて。

「うまいとこ来よっぞう」ち言【ゅ】うてね、

目くばせどんしてね。そうして

「片一方でしよったけん」て言うて、

合図ばして出かけたぎぃ、

そいどまペチャペチャ食べかけたて。

あったぎ一時【いっとき】したぎぃ、

何【なん】じゃい燻【けぶ】かとの

煙【けぶ】いの来【く】んにゃあ、

折角美味【うま】かとば

ご馳走にないよっとっこれぇ」て言うて、

「ああ、煙【けぶ】さあ。

ああ、煙さあ。あいどん美味かにゃあ」て言うて、

食べおったいどん、

「全部【しっきゃ】あ早【はよ】う、

こっちの方さに、

こっちが煙【けぶ】いの来んごたっあ」て、

煙いの来んごたっ所【とけ】ぇ、

大穴ば開けて袋ば据えちゃあっことはわからじぃ、

もう目は半分ひん眠って、

その袋の中【なき】ゃあ、

お祓いばしよった山法師さんちいよった狸どんが、

入【ひゃ】あったて。

「それ、ふけぇ【ココン】入あったぞう。

早【はよ】う閉めんばあ」ち言【ゅ】うて、

口ば括ってねぇ、その晩なさい、

狸汁じゃったばあーい。

そいばあっきゃ。

〔二七五B 金剛院と狐【類話】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P237)

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