嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある村にコロイちゅうとが流行ったちゅう。

なしかちゅうぎぃ、

じきぃその酷ーか病気に罹るコロッコロ、

コロッコロ皆村ん者【もん】の死んようたもんじゃ。

皆が、

「ありゃ、コロリばい」て、つけとったて。

そいぎその村に、

樵【きこり】さんの男の家【うち】があったが、

その家には、嫁に来たばっかいのおっ母【か】さんが、

じきそのコロリに罹って死にんしゃったて。

そいぎぃ、

そいは流行【はや】い病気で爺さんも死に婆さんも死んだて。

そいから先ゃ、

その樵さんもたった一【ひ】人【とい】

残って寂しゅうしてたまらん。

そうしてもう、

「家【うち】の者【もん】な全部【しっきゃ】あ死んだあ。

誰【だい】もおらんごとなった」ち言【ゆ】て、

泣きおんしゃったて。

あいどん、ぎゃんして泣きおって、

我がまでもう、

死んでしまうばい、て思うたもんじゃけん、

「お婆が死ぬぎぃ、

爺ちゃんの墓もおっ母【か】かの墓でん建たん」て言【い】うて、

元気ば、まあ、自分の心に言い聞かせておった。

そうしたところに、友達が、

「山の木ば請けのうて来たけん、

山ん木ば仕事しが行こう」ち言【ゅ】うて、

誘いぎゃ来【き】んしゃったて。

そいぎぃ、その樵さんも、

「友達と一緒に仕事ばしよっぎ

悲しかことも忘るっもん」ち言【ゅ】うて、

来る日も来る日も働きよんしゃったて。

そうして、その男はいっそんこと、

こりゃあ家おっ死んだ者【もん】のことばっかい

思【おめ】ぇ出すけん、

山の小屋で暮らそうかにゃあて、

こう決心して山小屋でそいから先ゃ暮らすごとした。

あったぎねぇ、ある日のこと、

村祭いの太鼓とか笛とか、

良か音【ね】の山まで聞こえてくっちゅうもんねぇ。

そいぎねぇ、そん時ゃ村祭いじゃったあて。

ああー、祭いにどん行たとき良かろうごたっにゃあー。

賑【にぎ】合【あ】わせて良かにゃあ、

と思うて、あの、お祭いに出かけて、

お酒どん久しぶりに貰【もろ】うて飲んで、

真っ黒い夜【よ】さいの道ばヨローヨロして、

あの、帰って来【き】おんしゃったていうもんねぇ。

山小屋で住まうごとしとんしゃったけん。

あったぎ、何時【いつ】まで歩いても、

もう大抵【たいちゃ】あ歩いて

家【うち】には着くはずらんばらんけど、

山道の遠かちゅう。

行たても行たても、

我が家【や】さん着【とど】かんて。

おかしかにゃあ、もう、こい、

着からんばいかんけど、と思うて、

酔っ払【ぱ】っておるない、

フラーフラしながら、

こうして我が家【え】の方ば見おんしゃったぎぃ、

灯りのついとっちゅうもん。

あらあー、

誰【だい】じゃい帰って家【うち】灯いばつけてくいとっ、

と思うて、そこに行たてぇ。

そして灯いのあっ所【とこ】に、

その、勇気を出して行きんしゃった。

そうして、

「ただいまー」ち言【ゅ】うて、

行きんしゃったぎぃ、

ほんにー温【ぬく】うして

良か塩梅【んびゃい】で布団まで敷【し】いちょった。

ほんに気持ち良―かよう、と思うて、

グッスイ酒を飲んだあげぐじゃれして寝て。

じき夜の明けたあーて。

あったぎぃ、目ば覚【さみ】ゃあみたぎぃ、

なんや山の草籔【くさやぶ】ん中【なき】ゃあ

ゴロ寝しとんさいたて。

ありゃあー、て思うて、

モジモジしおんしゃったぎぃ、

友達の山の下の方から登って来て、

「お前【まーり】ゃ、

昨【ゆう】夜【べ】はフラフラすっごと酔うとったけん、

小屋までほんなごて帰ったやろかと思うて、

来てみたあ」ち言【ゅ】うて、

あの言うて、

「お前【まい】その、

あいの藪ん中【なき】ゃあ何【なん】したとやあ」て言う。

「いんにゃあ。こけ灯いのちいとった、

と思うて、家【うち】と思うて、

こけで寝とった。

今朝まで寝とった。温【ぬっ】かったばーん」て、

言んさったぎぃ、

「そりゃあー、

狸の金玉の中どんだったじゃろうだい。

狸の金玉は広かけん、

八畳敷もあってばーん。

そりゃあ、温【ぬく】うして良かったない」て、

皆からからかわれたて。

そいばっきゃあ。

〔二六六 狸の八畳敷【AT一一三五、一一三七】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P236)

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