嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

大金持ちの酒屋さんがあったてぇ。

そこにズウッと前からねぇ、クマて、

名のつけられた猫が、

飼い猫がおったちゅうもんねぇ。

「クマ、クマ」て言うて、

家中の者【もん】から可愛いがられよったいどん、

何時【いつ】ん頃からかねぇ、

「酒屋の猫、化くってばーい」て、

噂があったちゅう。

「あいどん、まさかあ」て、

誰【だい】でん、

酒屋の主人も初めは本気にしとらんやったて。

ところがねぇ、ある人がお宮の森で酒屋のクマが、

ほう被り【手拭イデ顔ヲ包ンデ】してねぇ、

子猫ばいっぴゃあ集めてさ、

踊りば教えおったちゅう。

噂のあったとば酒屋さんに来て番頭さん達が話【はに】ゃあたて。

そうして、

「番頭さん、気をつけとってんさい。

猫の全部【しっきゃ】あ、お宮さい行きおっばーい」て、

言うたもんじゃっけん。

そいぎぃ、気をつくっごとなったちゅうもんねぇ。

あいどん、一時【いっとき】気をつけたぎぃ、

何【なーん】のこともなかったて。

ところがですよう、

酒屋のご主人が夜中に厠【かわや】に起きた時があったて。

あったぎねぇ、

手拭【てふ】きばこう掛けた

手拭【てぬぐい】ば猫の

そのクマがさ爪【つめ】でヒューと立って、

引きずい落としおって。そうして、

ジィッと見よったぎぃ、口にくわえて裏口から一心に、

足音もたてじ駆けて行くちゅうもん。

ありゃあ、人ん噂もほんなことじゃったばいなあ。

そいぎぃ、あいば見届けてみゅうかあ、

と思うて、

その主人なクマの跡ばつけて行きんさったぎぃ、

やっぱいお宮の森さん行たちゅうもんねぇ。

そうして、ようしとったぎぃ【ジットシテイタラ】、

何処【どこ】ん辺【たい】から集まって来たとこっじゃい、

もう何十匹ちゅう猫の集まって来て、

真ん中【なき】ゃあクマが入って、

そうして手拭いでほう被いどんして、

自分で音頭ばとって、

面白うその猫踊いば教えよったちゅう。

そいぎぃ、酒屋の主人もねぇ、あの噂、

ほんなことじゃったあ、と思うて、

ゾーッと、そん時ゃしんしゃったて。

そいぎぃ、

「今から、あの猫ば飼【き】ゃあおっぎぃ、

何【なん】しでかすかわからん。

村の人達に迷惑どんかくっぎ大変」ち言【ゅ】うて、

クマが縁先で日なたぼっこしとっ時、

ヤアーッて、刀で斬りつけんしゃったて。

あったいどんねぇ、

クマば殺しんしゃったぎぃ、

そいから先ゃ、

その酒屋さんに不幸ばっかい続いてさ、

もう瞬【またた】く間【ま】にバタバタっと、

落ちぶれてしみゃあいんさったて。

そいぎぃ、村ん人達ゃ、

「そりゃ、猫ば殺しんさった祟【たた】いばい」て、

皆が噂しおったて。

そいばっきゃ。

〔二五五 猫の踊【cf.AT八一二】【類話】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P234)

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