嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

お母さんと娘さんとが川に洗濯に行ったて。

そうして、あの、きれいに洗っとったら、

上の方から竹の子がポカリポカリと流れてきたて。

「あらー。大きな竹の子の流れてきたあ。

ぎゃん十二月の寒い時に、竹の子の立っとっやろうかあ。

そいでも美味【おい】しそうだねぇ」ち言【ゅ】うて、

お母さんと二人で川に流れ着いた竹の子を拾って帰って、

その晩味噌ん煮で食べたら、

「何かお母さん、お腹の中は重たい重たい」て、女の子は言うから、

「どうしてだろう」て、言ったら、あくる朝になったら、赤ちゃんの生まれたて。

そいぎまた、近所近辺に噂に広がって、

「恐ーろしかまあーだ十才ぐらいの女の子が、

赤ちゃん持ったてよう。そうして男の子が生まれた」て言うて、

噂になったら、その村の上の方にお寺があったけど、

実はそのお寺の本尊の如来さんの真ん前に、和

尚さんが朝、お経さんを上げよんに、隣【とない】に行ったら、

竹の子が見ている間【ま】に如来さんの前に、ズンズン、ズンズン大きくなる。

こんなに本尊に竹の子が立って、困ると思ってへし折って、

裏の川に竹の子を捨てたんです。そいぎぃ、

「竹の子取って子供が生まれたならば、

その子は寺【うち】んとじゃ。そぎゃん、在郷の内で育てちゃいかん」て、

和尚さんが言うて、大変怒って生まれた赤ちゃんを引き取りに来【き】んさった。

そいぎもう、お母さんも、

「自分の娘は、まあーだ十才もならじおるから、

まあ、家【うち】の子にしては恥ずかしいことだから、

和尚さんに、そいぎお頼みします。立派に育ててください」

そうしてもう、寺に可愛がって育ておったら、スクスクと大きくなったけど。

 

ああ、他の小坊主【こぼう】さんと一緒に、

お経さんを上げとっとしても、一向にお経さんを覚えん。

困ったなあ、ぎゃんお寺に来たないば、

お寺の子じゃっけん、お経さんばいちばんに覚えんばらんのに、

お前は、お経さんを覚えんたあ、寺におかれん。

もう、暇出すから出て行け」て、言われて、

もう絵筆いっちょ持ってドンドン当てもない旅に行きおんさったけん。

もう檀家の者【もん】は、

「家泊まっても良か。家に泊まって良か」て、次々に泊まらせて。

ところが、あの、その小坊主【こぼう】さんが、

暇出されて小坊主さんが、描【か】くのはもう、

猫でも動くから、鼠がすぐに、

その檀家の家【うち】の鼠が減って、ほんに有難い」て、言うことで、

もう、何処の檀家からでも、

「家【うち】に来てくれ。家に来てくれ」て、小坊主さんは大変大切がられて。

そうしてドンドン、ドンドン行きおったら、

もう大きな家があったから、そこに行ったら、

そこにはあっちこっちに家があるけど、

誰【だーい】も住んどらん。不思議だなあ、と思って、

ある大きな家【うち】に行ったら、そこもガラーンとしとるけど、

「誰もおらんね」て言うた。

そこには奥の方から娘が出て来て、泣いて。

「なぜ、そんなに泣く」

「皆、死んでしもうた」て。

「なぜか。どうして。誰からか殺されたか」て。

「いや、殺されたのじゃない。鼠が来て、鼠からかじられて、皆死んだ」

そいぎぃ、

「私が描くのは何でも動くから」て、言うことで、猫をいっぱい描いて、

家に貼りつけとったら、

夜はみんーんな猫の働きのお陰で、鼠が仰山食い殺されていたて。

そいも四日もその家泊まい続けた。そうして、その猫に毎晩、

「ひと働き頼むぞ、頼むぞ」ち言【ゅ】うて、頼みよったぎぃ、

遅うにはとうとう鼠一匹でん見えんごとなったて。

「ようようして退治してしまうた。

『チュッ』てでん、声ば聞かんごとなったあ」て、

 

言いよったぎぃ、娘さんな恐ろしゅう喜んだて。そうして、

「私ゃ、自分一【ひと】人【い】この家【うち】におるぎんとにゃね、

また鼠にかじり殺されるかわからんけん、

あんさんここの家におってください」て言うて、

二人は何時【いつ】まっでん仲良くそこで暮らして、

とうとう男は、お家【うち】の聟さんになったて。

そいばあっきゃ。

〔二三二B 絵猫と鼠【cf.AT一六〇】〕
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P211)

標準語版 TOPへ