嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーし。

ある所に正直な百姓が一【ひ】人【とい】で暮らしおったちゅうもんねぇ。

毎日、セッセ、セッセと良【ゆ】うこの人は働き者【もん】じゃったて。

そして、夕方ねぇ、

帰りがけだから足の泥やら、鍬【くわ】の泥を川で落としおったて。

あったぎ、

そこに、ヒョッコイ娘さんが来てさ、

「どうです。あんたを竜宮城へお連れそましょうか」て、こう言うたて。

「えぇ。そりまた、本当かなあ。

一遍、私も竜宮とやらを見てみたかと思うとっばい」

「そんなら早速連れて行きます。

あんさん両手で目を塞いでください」て、言うたから、

両方の手で目を塞ぎよったぎぃ、

川の中にどうやらジャブジャブ入ったごとあったて。

「もう、目は開けていいですよ」ち言【ゅ】うて、目を開けたぎぃ、

もう朱塗りの丸か柱の竜宮城じゃったて、そこは。

そうして、乙姫さんが出て来てねぇ、

「さあ、沢山召し上がってください。さあ、召し上がれ」ち言【ゅ】うて、

そりゃ珍しかお御馳走がご膳いっぱい出てきたて。

そいぎぃ、一日中、男は働いて腹ペコペコじゃったもんだから、

片っ端からもう、美味【おい】しかばかいじゃったもん。

ご馳走なったちゅう。

そうして、こうこうして見おったぎぃ、

ピンク色の赤ん坊のような柔らか肉があったてぇ。

こら、何【なん】じゃろうか、と思うて、

「こりゃ、何ですかあ」て、言うたら、乙姫さんは、

「こいを食べると何時【いつ】まっでん、お年を取りません。

若いままでいられますよ」て、言んしゃったて。

そして、乙姫さんはまた、向こうからの部屋に行きんしゃった留守に、

こりゃあ、みやげに持って行こう、と思って、懐にシッカイ包んで入れた。

そして、乙姫さんに、

「私【あたし】はもう、家【うち】が恋しくなりました。

お暇【いとま】いたします」て、言うたぎぃ、

もう、乙姫さんの声もせん。

何時【いつ】ものように自分の畑にその男はおったて。

ああ、俺【おい】が畑じゃったにゃあ。夢んごたったにゃあ、と思うて、

考えて、ああ、そうだ。懐にあの赤ん坊のごたっ肉ば入れたけども、

ほんなこてあろうか、と思うて、懐を探したぎぃ、

ほんなこて紙に包んだとのあって。

それを出して眺めたぎぃ、美味【おい】しそうなピンクの色をした、

やっぱいあん時の、見たごーと美味しそうな桃色の肉じゃったちゅうもん。

ああ、もう良か塩梅【んびゃあ】、

何【なん】かお腹【なか】のすいたけん、こい食びゅうか、と思うたぎぃ、

「ああ、美味しか、美味しか。頬っぺたの落ちるごたっとは、

こいがこっちゃろう、ほんに美味【うま】かねぇ」と、言う言う、

その男、そこで、畑でいち食うてしもうたて。

ところがさ、そいから先は年は取らないで、

何時【いつ】まっでん若【わっ】かままで、

もう誰【だい】でん年取って死んだいないしたいで、

昔の仲間はおらんようになって男だけは元気で、

何時【いつ】まっでんその若【わっ】かピンク色のあれを、

肉を食べたばっかりに年ば取らんじ長生きしとったて。

そいばあっきゃ。

[二二四 浦島太郎【cf.AT四七〇、四七一】【類話】]

 

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P197)

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