嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

小さな小僧さんが、小さな瓢箪【ひょうたん】ば持ってさ、毎日、

「酒を一升くれぇ」て言うて、買いに来【く】っちゅうもん。

「とても、そがん小【こま】か瓢箪に一升も入【ひゃ】らんよう」て、

酒屋の主人が言うぎぃ、

「入【い】れてみんさい。この壷には一斗でん入【はい】るよう」

て言うて、その小僧さんな言うもんじゃっけん、

「無理だよ」て、言うけれど、

「いや、入【い】れてくれ」て、言うもんだから、

「そいぎぃ、入【い】りゅうかなあ」て言うて、入【い】るっぎぃ、

確か入【はい】るて。

そいけん、おかしなことも言うてじゃんもんねぇ。

「この、小【こま】ーかけれども、一斗でん水が入【はい】るとこれぇ、

入【い】らんぎぃ、川ん水ば全部でん我が飲んで良かあ」て、

賭【か】けのようなことまで言うたて。

そうして、その酒屋の主人は小【こま】ーか瓢箪に入【い】れおったぎぃ、

一升ペローッと入【はい】るったてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、

小僧はニコニコして、銭をチャーアンと払【はる】うて、

毎朝一升ずつの酒ば買って行たてぇ。

そうして、言うことにゃ、

「番頭さん『何処【どっ】から買いに来たかあ』と、言うことは、

決して聞かんでくんさいねぇ」て、念ば押すちゅうもん。

そいぎぃ、

その酒屋の番頭は、

「良か、良かあ」と、不思議に思うとったいどん、

そがん言うて。そうして、主人に、

「ぎゃんして、『何処から来たあ』て、聞かんでくれ。

毎朝、店に買いぎゃ来【く】っ。酒ば一升くれ」ち言【ゅ】うて、

小【こま】ーあか瓢箪ば持ったとの小僧の言うたぎぃ、

そいぎぃ、

酒屋の主人はまた、

「今度、酒買【き】ゃあぎゃ来たぎんとには教えてくれぇ」て、

番頭さんに言うとったて。

そいぎぃ、今日【きゅう】も瓢箪ば抱【かか】えて、

「お酒をくれぇ」ち言【ゅ】うて、買【か】いぎゃ来たちゅうもんねぇ。

そいぎ主人も、あぎゃん小ーかとに一升も入【はい】ろうかあ、

と思って、先回りして小僧が店から出【ず】っとば見おんしゃったてぇ。

そうして、小僧さんの何処【どこ】さい帰って行こうかにゃあ、

と思うとったぎぃ、川の渕【ふち】さい行くてじゃんもんねぇ。

そうして、岩ん上さい立って、

何じゃい、ブッブッブッて、唱えよったぎぃ、

一時【いっとき】すっぎぃ、ダブーッて、瓢箪ば抱えたまま飛び込んだ。

ありゃあ、やっぱい怪しかった。

渕の主じゃったとばーい、と思うて、帰んしゃったてぇ。

そいぎぃ、

明日【あした】、小僧が来【く】っぎぃ、取っつかまゆうだい、

て思うとんしゃった。

そうして、岩の渕に酒屋の檀那旦那さんな隠れとんしゃったて。

そいぎぃ、

小僧は翌日の朝も、チャーアンと瓢箪ば抱えて来て一升買【こ】うて、

その岩ん所【とこ】まで来て、ブッブッブッて、言うたぎぃ、

何【なん】じゃい唱え始めたとは、

ブッと、言えばその酒屋の檀那さんは、ひっつかんで、

「こりゃあ」ち言【ゅ】うて、言んしゃった。

小僧は、

「キャアー」て、悲鳴ばあげて逃ぎゅうでしたて。

「お前【まい】、何処【どっ】から来【く】っとかあ」て、言うぎぃ、

「俺【おり】ゃあ、竜宮の乙姫さんの使いばい。

酒ば毎朝、神さんにお供えすっとば買【き】ゃあに来【き】おっとう」

て言うてもう、オイオイ泣き出【じ】ゃあたて。

そいぎ主人は、

「気の毒じゃったなあ。

そぎゃん乙姫さんのお使いで来【き】おったないば、堪忍してくれ。

俺【おい】が悪かった。

そいぎぃ、

俺【おい】が一緒に乙姫さんの所【とけ】ぇ行たて、

わけば話【はに】ゃあて堪忍してもらうけん、

俺【おい】も連れて行かるっとかい、どうかい」

言うて、言んしゃったぎぃ、

「じゃあ、一緒に行こうかあ」て、言うごとなって、主人もねぇ、

「その小僧さんにつんのうて、水に入【ひゃ】んしゃい」

ち言【ゅ】うて、ザブーンち飛び込うだぎぃ、

そいぎぃ、水が二つにわかれたごと、

サッサと、スイスイやって、竜宮さい着いたてじゃん。

そいぎぃ、小僧さんは誰【だい】かを連れて来たもんじゃい、

乙姫さんはビーックイして、

「ほんに、竜宮まで訳ば、事訳【ことわけ】言いぎゃ来てくいて、

有難うございました」て。

「こちらでユックイして行ってください」ち言【ゅ】うて、

乙姫さんなほんにもてなしんしゃったて。

そうして、今まで見たこともなか、聞いたこともなか、

そりゃ楽しかことばっかいじゃったて。

あったいどん【ソウシタラ】、

「三日ぐりゃい経って、もう家【うち】の者【もん】が心配しおんなあ。

渕から川に落ちて死んだと、水の中【なき】ゃあ落ちて死んだばい、

と心配しとろうだーい。心配しおろうかわからん。

そいで乙姫さん、私、こいでお暇【いとま】いたします」と、

言うことになったぎぃ、乙姫さんは、

「ほんにそうですねぇ。まあーだおんさっても良かけど。

そいぎぃ、仕方ないですねぇ。

そいぎぃ、この宝の箱ばおみやげに差し上げます。

こりゃねぇ、『聞き耳の箱』て言うて、

箱に耳ば当っぎぃ、鳥でん獣【けだもの】でん、

虫でん何【なん】でん話よっとの聞こゆっ箱ですよ。

そんかわり蓋【ふた】は決して開くっぎいけませんよ」て言うて、

聞き耳の箱ば渡されたちゅう。

そいぎぃ、そいばみやげに貰【もろ】うて、

そうして小僧さんに送られて家【うち】さい帰んしゃったて。

そいぎねぇ、木に止まっとっ鳥【とい】のさい、

ピイチク、ピイチクしとっけん、

ありゃあ、何【なん】て話よっかにゃあ、と思うて、

箱のこう耳ば当てて聞いてみたぎぃ、

「もう主人がおらんごとなって三年もいちなっ。

そいけん、三年忌の法事ばあげんばらん。

今は、お経あげの最中だあ」て、その鳥どんが言いおっちゅう。

そうして、家【うち】さい帰ってみたぎぃ、

誰【だーい】でんビックイして、

幽霊の帰って来たごと不思議がっちゅうもんねぇ。

そいぎ主人が、今までんことば話【はに】ゃあてみたぎさ、

「乙姫さんの使【つき】ゃあで、あの小僧は

酒ば神さんに上【あ】ぐっとば買【き】ゃあぎゃ来【き】よったあ」

ち言【ゅ】うて。

そうして、

「案内された乙姫様にお詫びば言いぎゃ行たあ」ち、言うたぎぃ、

「たった三日おったいどん、三年も経っとったてやあ。

死んではおらんやったあ、おらんやったあ。ほんなもんよう」

て言うて、

「こりゃあまた、夢んごたっ話ねぇ」て、言うたいどん、

皆酒屋の者な、もう恐ろしか喜んで、

その晩な檀那さんが帰ったお祝いじゃったてぇ。

ところがねぇ、そこに一【ひ】人【とい】娘の

おミツていうたとがおったぎぃ、

お父さんのおらん時にさ、

「そぎゃんよか箱ねぇ。鳥の声まで聞こゆってやあ」て言うて、

その箱ば開けてしもうたてねぇ。

あったぎぃ、中から良かーあ匂いのパーアッて、

煙【けぶ】いのごと出てきてさ。

そうして主人もまた、外出先で急に死んだ。

その娘もその場でちい死んだちゅう。

そいばあっきゃ。

[二二三 竜宮童子【AT五五五】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P189)

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