嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

ある所にねぇ、

姉さんが妹と二番嬶【がく】さんと暮らしておんしゃったて。

姉さんは先【さき】のお母さんの娘じゃったちゅう。

おっ母【か】さんがねぇ、底の抜けたて籠【てぼ】は姉さんに持たせて、

底の開いた籠は妹に持たせて、

「栗ば拾うて来いよ」ち言【ゅ】うて、やんしゃったて。

そいぎぃ、栗ば拾いぎゃ行ったぎぃ、

妹の籠【てぼ】にはじきいっぴゃあなったちゅうもんねぇ。

そいどん、姉さんの栗は拾うても拾うても、かっかえていっぴゃあならんて。

そいぎぃ、

妹はじきいっぴゃあなったもんじゃい、早【はよ】う帰ってしもうたて。

姉さんが拾いよったぎもう、

とうとう暗【くろ】うなってきて夜【よ】さいになったてじゃんもんねぇ。

「困ったにゃあ。困ったあ」ち言【ゅ】うて、おったら、

白髪の真っ白のお年寄【としよ】いか現われてねぇ、

「夜になったとこれぇ、どぎゃんしてぎゃん【コンナ】所におっとう」て、

その老人が聞きんしゃったて。

そいぎねぇ、

「あの、今までこうこうこうして、ほんに拾いよったいどん、

私の籠にはいっちょん栗の溜まらじぃ、

ぎゃん遅【おす】ういち【接頭語的な用法】なったあ。家に帰られーん」て、

言うたぎぃ、太ーか桶と扇子をくいてねぇ、

「ここん辺【たい】、ぎゃん娘のおっぎ鬼からうち食わるっ」て。

「この桶に隠れとけぇ」て、

「もうじき鬼がやって来【く】っよ。

そいぎにゃ、この扇子ばパラッと、開いて、

『何を盗【と】って来たあ。何を盗って来たあ』て、初めて言うたよ。」て。

「そいぎ鬼が、宝物【たからもん】ばやっけん、そい、桶の中に入れて、

そうしてまたねぇ、

また扇子ば開いて、『トッテコーイ。トッテコーイ』て、こう振れ」て、

言うたぎぃ、パーッて、老人が言ったと思うぎぃ、消えておらんごたった。

そぎゃんもう、じき鬼がやって来たてじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、その桶ん中【なき】ゃあひっ【接頭語的な用法】かごうで、

教えたごと扇ば開いて、

「何【なん】持って来たかあ。何【なん】盗【と】って来たかあ」て、言うたら、

宝物ばやってじゃんもんねぇ。

そいぎぃ、だんだん宝物ば入れて、

「トッテコーイ。トッテコーイ」ち言【ゅ】うぎぃ、また出て行くて。

そしてまた、一晩中宝物ば持って来って。

そのたんび宝物ば桶に入れたてぇ。

そのうち夜が明け始めたちゅうもんねぇ夜の明け始めたぎぃ、

お天道さんの見っぎぃ、鬼どんはそこん辺【たい】おらんて。

そうしてもう、前の白髪の老人が出て来てねぇ、

「こりゃあ、二度と来【く】っとこじゃなかぞ」て。

「早【はよ】う、お前【まい】さんは帰らんば」て言うて、

「宝物を全部【しっきゃ】あ持って行きなされ」言うて、やんしゃったて。

そいぎぃ、姉娘は宝物ばいっぴゃあ持って、

喜び勇んで家【うち】に帰んしゃったて。

そいぎぃ、

継嬶さんは今度は、ぎゃん良かことのあった。

妹にも、そいぎぃ、底んなかとばやらんばらんやったにゃあ、と思うて、

底んなか籠は持たせて、

「今日【きゅう】は、お前【まい】一人【ひとい】栗拾いぎゃ行たて来【こ】い」

て言うて、やんしゃったて。

そいぎぃ、妹は栗のいっぱいならん、

拾いもせじ良か、夕べになっとば待っとんしゃったて。

そいぎんとにゃ、

ちょうどそけぇ、白髪の老人も誰【だーい】も出て来【き】んやったて。

そうして、鬼どんがドカドカやって来て、

「昨夜【ようべ】は俺達を騙したなあ。こん娘だ」ち言【ゅ】うて、

もう娘をバリバリやって食べてしもうた。

そいばあっきゃ。

[二一二 栗拾い【AT四八〇】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P180)

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