嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかしむかしねぇ。

米福ちゅう娘と粟福ちゅう娘がおったちゅう。

この姉妹は、ほんに仲の良かったてじゃんもんねぇ。

あったいどん、

米福はしょてのお母さんの子じゃったあ。

粟福ちゅうたあ、後から来んしゃったお母さんの娘じゃったあ。

そいぎぃ、

後から来たお母さんなねぇ、米福にはボロボロの着物ば着せとってぇ、

「さあ、働け。さあ、働け」て、言いおんさいたあ。

あいどんもう、粟福はねぇ、

我が生んだ子じゃんもんじゃい、恐ろしく大切にしおんしゃいたあ。

そいぎぃ、

お祭いの日じゃったあてぇ、妹の粟福はねぇ、

もう囃しどんがドンドンヒャラヒャラ、ドンヒャラヒャラて、

聞こえてくんもんじゃい、お祭いに行きとおして朝からたまらん。

「おっ母【かあ】―、連れて行たてぇ。連れて行たてぇ」て言うて、

せがむもんじゃあ、

おっ母さんは、とっておきのきれいか着【き】物【もん】ば着せて、

「そうねぇ。そいぎ行こうかあ」ち言【ゅ】うて。

そうして米福にはねぇ、

「お祭いには、お前【まい】は行くだんじゃなかばい。

粟ば沢山【よんにゅう】搗かんばらん。

あの粟ば搗【ち】いとかんぎぃ、ご飯な食われんばい。

この一斗の粟ば搗【つ】いとけぇ。夕方帰って来【く】んまで搗いとけよう。

そうして、

風呂の水ば汲んで沸【わき】ゃあとかんばぞう。

風呂ん水を汲む時ゃにゃあ、笊【ざる】で汲め」て、

笊ば風呂ん側【そべ】ぇ置【え】ぇていたて、

「あん笊で風呂ば水汲んで沸きゃあとけぇ」て、

もう一時【いっとき】でん休まれんごと、

沢山【たくさん】仕事ば言いつけてねぇ、

「わかったかーあ」て言うて、

「しっかい留守番しとけぇよう」て、言い渡【わち】ゃあて。

粟福の手をつないで、そうして、二番嬶【がか】さんは出かけたて。

そいぎ、米福もねぇ、

ほんなこたあ、お祭いの来っ時ゃあ、

我がも連れて行ってもらうもんと思うとったぎぃ、

ぎゃんーして沢山【どっさい】仕事ば言いつかって、困ったにゃあて、

半べそばきゃあて、もう泣こうごたって、

力なか手で粟ばコットーンコットーン、コットーンコットーンて、

搗きおったぎぃ、山からお猿ちゃんがやって来てねぇ、

「姉ちゃん、姉ちゃん。どうして泣いてるんだい」て、言うたて。

「私ゃお祭いにも行けん。粟ば一斗も搗かんばらん」て、

クシュンクシュンて泣きおったて。

「姉ちゃんも、お祭いに行きたかったろう」て言うから、

「うん」て、言うたぎぃ、

「心配すんな。俺達【おいたち】が立派に搗いてやっけん。

お前【まり】ゃあ、心配せんで、お祭いに行け、行け。キィーキィー」

て言うて、山猿どんがねぇ、

「俺【おれ】ぇの仲間ば連れて来っぞう」て、言うたぎぃ、

沢山【よんゆう】集まって友達の来たて。

そうして、我が、米福が見おっうち、

コットンコットン、コットンコットン、

もうたーったすぐその、搗【ち】いてしもうた。

米福が、

「有難う。有難う」て言うて、お礼ば言うて。

あったいどん、

風呂ん水ないどん汲んどかんばあ。

「風呂も沸【わき】ゃあとけてやったけん」て言うて、

風呂ん水ば笊で汲もうでしたぎぃ、ザーアて、笊に水は溜まらん。

そいば二番嬶さんの無理【むい】なこと言うたい。困ったねぇと思うて、

またポロッポロッと涙ば出しおったぎぃ、

旅のお坊さんが、そけぇ来てねぇ、

「笊で水がなんてくまれるか。こういうことば言うて」ち言【ゅ】うて、

自分の片袖ばペラーッて、ひっちぎって笊ばクルーッと包みんしゃったあ。

あったぎねぇ、水は一滴でも出じさい、楽々てその水は汲めたてばい。

そうーして仕事はたったすぐすんだ。

そいぎ米福は安心してね。

そいぎぃ、

お祭い行く間、着【き】物【もん】ば持たんなーい、

と思【おめ】ぇよったぎね、雀のチュンチュンて飛んできてね、

「米福、早【はよ】う祭りに行けなされやーあ。チュンチュン」

て、言うたて。

見たぎねぇ、自分の着物はボロボロで、破れかぶれのボロ着とっじゃろう。

こいじゃ恥ずかしかけん、もう祭いに行かじも良かーあ」て、

娘さんが言うたぎねぇ、雀が、

「チュンチュン、棚箱見ろ、棚箱見ろ」て、しきりに言うて、チュンチュンて、

棚から下さい降りて来い、降りて来いしたて。

あらー、棚、棚て、思【おめ】ぇ出【じ】ゃあたら、

あの棚の箱ん中【なき】ゃあ、

母ちゃんの形見の着【き】物【もん】のいっぱいあっと思うて、

その棚ん上の箱ば下ろしてみたぎぃ、

米福のお母さんの上等の着【き】物【もん】の入っとったてぇ。

あったぎぃ、

そいば着て米福は人並みにねぇ、お祭りに行くことができたてぇ。

あったぎぃ、お祭いに行ったぎさ、誰【だーい】でん、

「こりゃあまた、きれいか姉ちゃんの来た。

観音さんのごときれいか娘。

ぎゃーんきれいか娘の村【むり】ゃあにおったとかい。

ありゃ、観音さんみたいばい。観音さんの現れだ。拝んでみゅう」て言うて、

人が集まって来【く】ってじゃんもん。

そいぎぃ、

おっ母さんとさい、二番嬶さんと来ていた粟福もねぇ、

沢山【よんにゅう】人のゾロゾロ集まって行くもんじゃい、

我がもそこん辺【にき】さい来たぎぃ、来て、こうして見たぎぃ、

米福てじゃんもん。

あら、姉さんじゃなっかねぇ、と思うて、母さんに、

「米福もお祭りに来ていたよう」て、お母さんに言ったら、

「馬鹿、何【なん】で来るか。

何【い】時【も】も汚【きたな】い着【き】物【もん】ば着て、

仕事ばいっぱい言いつけたから、人違いだよう」

ち言【ゅ】うて、母さんは見も来【こ】んじゃった。

「今頃、べそどんかいて、コットンコットン粟どん搗きおろう」て言うて、

いっちょんおっ母さんな本気にせんじゃった。

あーいどんなあ、

その米福ば見れば見るほど、美しかちゅうもん。

そいぎねぇ、

心にかかっとったいどん、米福は一時【いっとき】はお祭いに拝んだい、

その辺【へん】を見物してから、もう早【はよ】う先、帰っとかんぎぃ、

おっ母さんから怒らるっと思うて、急いで帰ってねぇ、

元の破れかぶれの着【き】物【もん】ば着て、知らん振いして、

その箱ん中【なき】ゃあ先【せん】のおっ母さんの着物ばなわして、

棚に載せとった。

そうして、また知らん振いして風呂ば焚きおったてぇ。

あったぎぃ、

そけぇ後から、お母さんと粟福と、

「祭いはきれいで楽しかったなあ。

お姫さんも見ぎゃ来ていたなあ」て言うて、米福こと話しながら帰って来たて。

「でも、あのきれいかお姫さんな、米福姉ちゃんに良う似とったよう」て、

粟福が言うたて。

そして、

「姉ちゃんは、家【うち】にズウーッといたんかあ」てまで、

粟福が聞いたぎぃ、

「ああ、俺【おら】あ、一日がかいでヨウヨウ粟も搗いてしもうたよう」

て言うた。

あったぎねぇ、

あくる日のことじゃったあ。

庄屋さん所【とっ】からきれいか顔の粟福と米福の所【とけ】ぇ来たてぇ。

そうして、

「米福ちゅうとの、こけぇおろう。

あの米福を是非、嫁に貰いたーい」ち言【ゅ】うて、言んしゃったて。

庄屋さん所【とこ】の使いが。

そいぎ二番嬶【がく】さんな、

「そりゃ、粟福の間違いじゃろう。

とても米福は、あんた達は、気にはいらん。

着物なボロボロ、真っ黒なって嫁っこに何【なん】の、

とてーも似合うもんなあ。庄屋さん所の不似合いだよう」て、言んしゃったあ。

そうして断わったいどん、駕籠の使いの人も、

「ちゃーんと、ボロボロの着【き】物【もん】ば着とっと思うて、

こけぇ立派か着物を用意してきました」て、言うてねぇ、

「その姉ちゃんとやらに、是非、会いたい」ち言【ゅ】うて、

米福がソローソロー恥ずかしそうに出て来たぎぃ、

そのきれーいか着物ば着せんしゃったぎぃ、そりゃあきれいかったちゅうもん。

そうして米福は迎いの駕籠に乗って、

庄屋さん所【とこ】に貰われて行ったて。

あったぎねぇ、

あの、粟福はさあ、

「あの駕籠に乗って、私もお嫁に行きたい。

私も米福みたいにお嫁に行きたい」ち言【ゅ】うて、

もう恐ろしか涙は川んごと流【なぎ】ゃあて、泣【に】ゃたぎばい、

粟福はとうとう川みなみしたってとばい。

川みなみ濡れてばっかいおったもんじゃい、涙で。

チャンチャン。

[二〇五A 米福粟福【AT四八〇+五一〇】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P172)

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