嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

あるところに姉さんと妹と別々のうちに暮らしよったて。

妹の家【うち】は恐ろしか金持ちさんじゃったけど、姉さんはもう貧乏も貧乏。

そいで、

正月の来っぎお餅搗きや他所【よそ】の家【うち】に杵担いで行きよったて。

今年も餅搗きやあ、と思うて、出かけたけど、

何処【どこ】の家【うち】でん、もう、

餅搗きは早【はよ】う準備ができて雇わじ良かて、一軒も雇うてくれん。

ああー、困ったなあ、と思うて、トボトボと帰りよったあ。

あったぎ川ん所【とこ】に橋のかかっとっところに来て、

「ああー、今年もこの杵は用が無【な】くなったあ」と言って、

その川に杵ば、もう、流しんさったて。

あーったぎねぇ、

じきー流れて行く杵ば見おんさったぎぃ、

橋ん所に亀の出て来てねぇ、

「娘さーん、娘さーん。私【あたし】の背中に乗んさい」て言うた。

「私は竜宮の者【もん】で迎えに来ましたよう」て言うた。

そいぎぃ、姉さんの亀に言わるっごと、亀に乗って行たぎぃ、

竜宮にじき着いた。

そいぎぃ、そこには、竜宮では乙姫さんが出て来て、

「あなたが昨日【きのう】くださったお陰で、

竜宮にもお正月餅をいっぱい搗くことができました。

お礼として差し上げたいものがあります」ち言【ゅ】うて、

お盆に山盛りした小判ば持って、

そうして、

まいっちょの小脇に可愛い子犬を抱えとんさった。

そうして、言んさっには、

「あんさんの、お盆のお金か可愛いか子犬と、

どっちでもあなたさんの良か方をお取りください」て、言んさった。

そいぎぃ、姉さんは見よったぎぃ、もう、

その子犬のパチーッとして、可愛らしか可愛らしか。

そうだもんだから、

優しい正直な姉さんは、

「この子犬をくださーい」て、言うたら、乙姫さんはねぇ、

「そうですかあ」ち言【ゅ】うて、その子犬ば差し出【じ】ゃあーて、

「この犬にはねぇ、お椀一杯のご飯を食べさせると必ず小判をひりますよう」

て、言んさった。

そしたら聞いて、子犬ば貰【もろ】うて、また亀の背中に乗ってねぇ、

姉さんは帰って来たて。

そいぎぃ、家【うち】んちいたぎぃ、じきー犬に、

「ひもしかったろう」ち言【ゅ】うて、お米をやろうとしたけど、

自分の家【うち】は余【あんま】り貧乏でお米も無【な】かあ。

お櫃【ひつ】には何【なーん】も、ご飯も残っとらん。

そいぎぃ、ああー、犬もひもじか目合わせて困る、と思って、

自分の帯をしめたのを町に売いぎゃ行たて。

そうして、お金に代えて帰りにお米を買って来て、

言われたごーと子犬にお椀一杯ご飯をやったて。

あったぎねぇ、

じきー小判を子犬はひったてよう。

そうして、姉さんはお金はいっちょん困らじぃ、暮らしよったて。

そいぎぃ、この頃も姉は貧乏しとろだあーい、と思うて、

妹が見や来たぎぃ、そいぎもう、姉さんはほんに金持ちになっとっ。

そいぎ近所に聞いたぎぃ、

「その犬がお金をひりようっ」て言うこと聞いて、妹は、

「姉さん、その犬ばちょっとでいいから貸してください」て、借りに来たて。

そいぎ姉は優しい心だったもんで、妹が言うごと貸したて。

そして、

そいぎ妹は犬を借りて行って、姉さんから習ったように、

一杯のご飯を食べさせたけど、なかなか小判をひらん。

そいぎ、妹は、

「ありゃあ、家【うち】でこの犬の糞ばっかい。

お金ばひるて嘘ばっかいやった」て、言うて腹立てて、

とうとうこの子犬を殺【これ】ぇてしもうた。

そうぎ姉さんはこのことば聞いて、

「そいぎ犬の亡骸ないとん、裏山に埋みゅうだい」ち言【ゅ】うて、

裏山に埋めてから、毎日拝んでいた。

あったぎねぇ、

その子犬を埋めたとけぇ木が生えて、その木にもね、小判がいっぱいなって、

この姉さんは長者にならしたてよう、というお話です。

そいばあっきゃ。

[二〇四A 大歳の亀【AT六一三】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P170)

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