嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村にねぇ、とても正直者【もん】の爺さんと婆さんが暮らしおったてぇ。

恐ろしか貧乏人じゃったちゅうもん。

そいぎぃ、

年の晩のやってきたいどん、

「俺【おど】ま何時【いつ】ーになっても福の神さんには縁のなかにゃあ。

貧乏神ばっかい取りつかれとっとみゆって。

俺【おど】みゃあ、

貧乏神【びんびゅうがみ】さんの取い付【ち】いといなっばーい」ち。

「もう、早【はよ】う寝たがましー」ち言【ゅ】うて、寝とったあて。

あったぎねぇ、

押し入れでガサガサガサ、ガサガサガサで、音のすっちゅうもん。

そいぎぃ、お爺さんなねぇ、

「鼠の来【き】よっとじゃろうだーい」て、そぎゃん言うて、

「あいどん、余【あんま】い酷うかにゃあ」ち言【ゅ】うて、

押し入れば開けて見らしたぎばい、

そけぇもう、お爺さんば半分ににゃあたごと

痩【や】せこけた骨と皮ばかいのさ、爺さんのそけぇおってばーい。

「私【わし】ゃあ、貧乏神じゃあ。

こん家【うち】、長【なん】かことお世話になったあ」て。

「爺さん達も年取ったのう。ちぃっと楽どんしたかろういどんのう」て。

「貧乏は楽じゃなかのう」て、その貧乏神が言うちゅうもん。

そいぎぃ、爺さんも負けじねぇ、

「そうじゃあ」て。「貧乏は不自由かばっかい」て、言んしゃったてぇ。

あったぎ

貧乏神がねぇ、

「そうかあ。そんない、お前達も何【なん】とかしてやらんばいかんのう」

ち言【ゅ】うてばい、

「私【わし】もさい、貧乏ては付【ち】いといどん、神さんのうちじゃっもん。

そいけん、貧乏大明神ちゅう祠でん、明日【あした】建ててみっぎぃ、

正月じゃんもん、誰【だい】なっとん拝みぎゃ来っかわからん」て、

こぎゃん貧乏神が言うたてぇ。

そいぎぃ、

そのお爺さんは根が正直【しょうじっ】かもんじゃ、

「そりゃあ、良かなーい」ち言【ゅ】うて、相槌ちを打たしたてぇ。

そうして、早速あくる日に、

板切れどん拾うて来て小【こうま】か祠ば建てて、

幟【のぼい】に「貧乏神大明神」て、書【き】ゃあて、旗ば立てたて。

そいぎもう、正月ちゅうもんねぇ。

そいぎぃ、

二、三日は、そこには拝みぎゃ来【く】ん者な、誰【だーい】もなかった。

あったぎねぇ、

四日目ごろから、恐ろしか立派か身なりばした人のねぇ、

やって来て見たぎぃ、

我が我が見たごとなかごと、金ぴかの、銭【ぜん】ば

お賽銭【さんせん】箱に上げおったてばい。

そいから、

次の日も次の日も、

拝【みゃ】あぎゃ来【く】ん者な金持ちさんばかいやったて。

そのうち銭【ぜん】もねぇ、ピカピカ光っ銭ばーかいお賽銭箱に入れおったて。

「我が我が、ぎゃん困っとっとこれぇ、

余【あんま】い銭の余【あんま】い過ぎて

困っとっ者【もん】もおっとばいにゃあ。

やっぱい、余い持ち過ぎっとよいか、

良か塩梅【んびゃあ】がいちばん良かいどん、我が我が余い持たじ困っとっ。

世の中は良か塩梅がいちばんよかにゃあ」ち、爺さんな、

「まっと沢山【よんにゅう】金持ちさんの

参【みゃ】あぎゃ来らすぎ良かいどーん」て、言いながら、

その貧乏神大明神の祠ば見おらしたて。

チャンチャン。

[二〇一B 貧乏神【cf.AT七五〇】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P168)

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