嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかし。

村にねぇ、ほんーにこけぇも働く男のおったち。

そいぎ村の人達ゃあ、余【あんま】い休みなし働くけん、

この男のことをを四十五日どんとしきゃ呼びよらんじゃった。

一月【ひとつき】は三十日あっけど、朝から晩まで日曜なし働くけん、

こりゃあ人の倍は働くぎと、まあ四十九日ぐりゃあ働きよろうということで、

この人の名を、しこ名を四十五日どんてつけとらしたて。

そいぎねぇ、

この男は貧乏で、そぎゃん働【はたり】ゃあても

年の暮れになったぎ米櫃【びつ】は空っぽじゃった。

ああー、もう米、まんま食う米もなか。

正月は寝正月しとったがましじゃろう。

もう、こりゃあ寝とるにこしたこたなかあ、て思うて、

年の晩なあ、宵の口から早【はよ】う床敷【ひ】て、この男寝とったて。

何時【いつ】余【あんま】ーい働くもんじゃいけん、

疲れてじきゴウゴウやって、鼾【いびき】きゃあて寝とっ。

あったぎねぇ、

明け方近【ちこ】うなって夢見たちゅう。その夢はねぇ、

神さんのまあーだ暗かうちから、この「四十五日どーん、四十五日どーん」

ち言【ゅ】うて、戸ばドンドン、ドンドン叩【たち】ゃあて、

尋ねて来【き】んしゃったて。

そうして、言んしゃにはねぇ、

「お前【まい】さんの昔、

丁稚におった家の裏の松の木ん下には金壷の埋【う】まっとっばい。

こりゃ、お前【まえ】さんの物【もん】じゃけん、

早【はよ】う行たて掘いやい」

て、もう何度でん言んさったてぇ。

そいぎねぇ、「あら」って、四十五日どんな目覚【めさみ】ゃあて、

今の言葉はほんなこて、

ここん辺【たい】聞こゆっごと神様の言んしゃった。

ヒョッとすっぎヒョッとじゃいわからん、てこう思うたもんじゃから、

考えてみっぎぃ、丁稚におったとこあの太ーか松の木のあったもんにゃあ、

て思うて。

そいぎそんときゃあ、

早【はよ】うごそ起きして行た。正月やったちゅうもんねぇ。

あったぎ丁稚におったとこの檀那さんなあ、

「正月じゃい久しぶりに来たにゃあ。

さあ食べあがれ、あがれ。

お前【まま】ゃあ良【ゆ】う、もう働【はた】りゃあいてくいたあ」

ち言【ゅ】うて、ほんにほとむきんさったて【ゴ馳走シテクレタト】。

そいぎぃ、よう正月でご馳走にないながらねぇ、

「檀那さん。私ゃ夕べ夢見たあ」て。

「お前【まい】の家【うち】の裏の松の木の下【しち】ゃあ、

ここのばい、裏の松の木の下に金壷の埋【う】まっとっ、

ちゅうて夢見たあ。

そいで掘ってみゅうかにゃあと思うて、来たあ」て、

その四十九日どんが言うたぎね、

「まあまあ。そぎゃんことばかい言わじぃ、

今夜は久しぶいに来たもん、泊まって行けぇ。ゆっくいして行けぇ。

明日【あしちゃ】も掘って良かそう」て、檀那さんな言うて、

「しきりに今夜は泊まれ」て、言んさったて。

そいぎぃ、しょて【以前】友達もおんもんじゃけん、その泊まっことにしたあ。

あったぎ

その晩、考えおんさったぎね、

あいは、あいばあがん枝、松の木ん辺【にき】にうっ倒れた昔からなかいどん、

掘ってみゅうかにゃあ、

わざわざめっちゃ来【こ】ん者【と】の来【き】たからあー、て思うてねぇ、

その晩、その、檀那さんがさ、松の木ん所【とけ】ぇ行たてぇ。

そうして

ゴットンゴットンやって、掘んしゃったてぇ。

何【なーん】もなかちゅうもんねぇ。まあーだ掘い足らんとやろうかにゃあ、

と思うて、またドンドンやって掘いよんしゃって、カチッてしたごたっ。

ありゃ、あったばいにゃあ、て思【おめ】いんしゃったぎねぇ。

そっからバタバタバタバタバタバタて

烏【からす】の一羽飛び出【じ】ゃあたて。

「なーんや烏のかごうどったあ」て言うて、あの、その檀那さんな、

「ふうけた話、あくた話ば見て家【うち】まで来たあ」言うて、

止めとんしゃったてぇ。

そいぎねぇ、今度【こんだ】あ、あの、朝になったぎぃ、

その元おった丁稚に、夢見たちゅう人【と】に、

「お前【まい】、あそこ掘ってみっかあ」て言うて、連れて行たて。

そうして嘘、言んしゃったて。

「お前のこん前ばい、あそこ掘って見よったぎぃ、

何【なーん】もなかったよう。見てみさあーい。

烏どんがここん辺【たり】ぃ母【かあ】ちゃんが、あくたば捨てとったけん、

そぎゃんとどん食べぎゃ来て飛んでいったばっかいやった」て言うて、

言んしゃったて。

そりゃ、ほんなごとじゃったて。

「そうねぇ。やっぱい夢もねぇ」て、言うてから、

その丁稚も、

「そいぎもう、お世話になりましたあ。ご馳走になりましたあ」

ち言【ゅ】うて、あくる日帰って行きおったて。

そいぎ我が家【え】さい、ズウッと行きよったぎねぇ、

山ん辺【にき】来たぎぃ、お坊さんの石ん上、腰掛けとんしゃたちゅうもん。

真っ黒か衣ば着たとの。

そいぎねぇ、

「あらー。お坊さん何処【どこ】行くですか」

「ああー。あんた方の村に行きおっばあーい」て。

「ひとつ、連れしゅう」ち言【ゅ】うて、

その休んどんしゃったとに立ちかかって、四方八方の面白か話どんして、

道連れしてドンドン、ドンドン歩いて行きおんしゃったぎぃ、

話ながらテクテク歩きおったもんじゃ、

自分の家【うち】帰っ時ゃ、もう晩方にいちなったて。

そいぎぃ、

その坊【ぼん】さんの言んしゃには、

「私【わたし】ゃ当てなし来たとやいけん、

おんさらんちゃ一晩泊まろうかあー」て、言んしゃったて。

「はあ、良かばい。あいどん何【なーん】もなかあ」て言うて、

その四十五日どんの泊めらしたちゅう。

そいで、おろーいか【ヨクナイ】布団ばシューッと出して座敷泊めて。

そうしてもう、あくる日にはなって、働かんば銭【ぜん】もなか、米もなか、

早【はよ】う稼がらんとけて、モジィモジィしおいどん【シテイタガ】、

坊【ぼん】さんの座敷寝ていっちょん起きて来【き】んさらん。

ほんーに起きて来んさらんぎぃ、もう働きぎゃ行こうで思うとっとけぇ、

て思うて、

「坊さーん。もう朝も遅かばーい。坊さーん」ち言【ゅ】うて、

呼んでも返事もなかもんじゃ、座敷に行たて、

その布団をベラーッてめくってみんしゃったぎぃ、

何【なーん】の千両箱やったて。

真っ黒か坊さんは、千両箱やったて。

そいぎねぇ、眩【まばい】いかごとその布団の中【なき】ゃあしてから、

そいから先ゃ四十五日どんは、あの、不自由なし暮らすことができたて。

チャンチャン。

[一九九B 大歳の客【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P165)

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