嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

ズーッと家の並んだ町のあったちゅう。

そのズーッっと並んだ町にねぇ、

恐ろしかぼろ着【き】物【もん】なボロボロでさ、

痩せこけたチョッというぎ坊主さんのごたっとのねぇ、

もう泊まい先もなか、銭も持たん。

「今夜泊めてくんさんみゃあか【クダサイマセンカ】。

一晩で良かけん泊めてくんさい」と、言うどん、

誰【だーい】も泊めてくるっ者【もん】のなかったちゅう。

また隣の家【うち】に、

「今晩一晩泊めておくんさい」て。

そいぎぃ、隣の家は、

「いやもう、今夜は歳【とし】の晩【ばん】やっけん忙しゅうして、

人どん泊むっとは冗談【じょうだん】じゃなか、泊められん」て言うて、

何処【どこ】からでんお払い箱。

チョッと今夜は人の家【え】の内は泊まられん、と思うと、

トボトボトボ杖はちいてそのぼろ着た人は行きおんしゃったちゅうもん。

もう町はずれちゅうて、もうこいから先ゃ家はなかちゅう。

そこ一軒貧ーしか家の権太さんの家【うち】があったもんで、

「こんばんはー」ち言【ゅ】うて、また断わらるっばい、と思うて、

行きんしゃったぎねぇ、

「なーい」と言うて、おばっちゃんの出て来て、

「和尚さん、家【うち】んごたっ所【とこ】で良かぎぃ、どうぞ、どうぞ、

泊まってくんさい。

そんかわりぃ、

夜具でん何【なん】でん、そがんフカフカすっとはなかばってん、

どうぞ、泊まってくんさい。

家で良かったら、どうぞ」て言うて、我がどんは茶の間で寝て、

座敷に床ばとって寝せてくんさったちゅう。

そん坊さんな、

「ほんに有難うございます。お陰、今夜は一夜の宿ば借っごとのできた。

ほんにお陰良かったあ」

誰【だい】ー一人もねぇ、親切にしてくるん者【もん】のなか時、

こんな親切にあうぎぃ、もうそりゃ、その和尚さんな嬉しかったとよう。

【あんた達も誰【だい】からでん「いやいや」て、言わるっぎぃ、

いっちょでん有難味のわからんじゃろう。

悲しゅうなっ。

あいどん、

誰からでんもう、無理【むい】な者に言われて、

捨【うす】たい者のごと言われている時、

一人から優しく言わるっぎぃ、泣こうごと嬉しかもんねぇ。

有難かもんねぇ。】

そいぎぃ、

その和尚さんも床ん中では泣き泣き感謝ばして、有難う、有難う、と思うて、

寝んしゃったくさんね。

そいぎぃねぇ、

あくる日、明日【あした】は元日、

一月一日て【三十一日で大晦日じゃったけん。】。

ところが、

その和尚さんはいっちょん起きて来【き】なれんちゅうもん。

朝もう早【はよ】う夜の明けて、陽が昇っとっとこれぇ、

いっちょん起きて来ならん。

「お爺さーん。またーだ起きんしゃらんねぇ。

早【はよ】うお汁【つゆ】どんぬくめて、食べさしゅうど思うとっといどん、

まあーだ起きて来【き】んしゃらんねぇ」て、言うてでん、

いっちょでん起きて来んしゃらんもん。

そいぎぃ、

「お婆さんと、もうひあかい【正午ニ】近かもん。行たてみちゅうかあ」

ち言【ゅ】うて、襖【ふすま】ば開けて来んしゃったぎぃ、

何【なん】じゃいとこーっ【飛ビ出シ】て、

こう太うして、布団ば被せてあっちゅう。

「あらっ。小【こま】ーか和尚さんじゃったいどん、

今日【きゅう】は太ーかごとしとんしゃっよう。

ほんなこて寝とんしゃろうかあ」て。

「あなた、もうお昼ばんたあ。起きんさらんかんたあ」て、

お婆さんの言んしゃいどん、何【なーん】も返事もなかちゅう。

そいぎぃ、

「お爺さーん。布団ばめくってみちゅうかあ」て言う。

お爺さんも、

「そぎゃんない【ソウダナア】。そぎゃんしてみゅうかあ」ち言【ゅ】うて、

開けてみたぎね、千両箱じゃったちゅう。

和尚さんは、そけぇは寝とんしゃらんもんね。

泊めたとは千両箱ば泊めとったとよう。そいぎねぇ、

「あらー。

私どんはもう、あの和尚さんな、汚【きたな】か和尚さんと思うとったいどん、

あの人【しっ】たんなそれこそ福の神さんじゃったあ」ち言【ゅ】うて、

お婆ちゃんとお爺ちゃんは、もう手を取って喜んでねぇ、

良か正月ば迎えんしゃったてばい。

誰【だい】でんこぎゃんねぇ、親切か。

立派か者な泊むっ。汚か者は泊めんて、

いうてわけ隔てのなし、誰【だれ】ーにでん当【あ】たーい前、

温かい心で親切にすっぎぃ、こぎゃん良か褒美のあっとう。

そいばあっきゃ。

[一九九 大歳の客【AT七五〇A【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P160)

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