嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)

 むかーしむかしねぇ。

田舎の村にさ、

恐【おっそ】ろしか優しかお爺さんとお婆さんとおんしゃったてぇ。

そうしてばあーい、

お爺さんな団子【だんご】ば大好きやったてじゃんもん。

そいぎぃ、お婆さんのねぇ、

もう団子はねぇ、何【い】時【つ】も美【お】味【い】しかとばもう、

作って食べさせおんしゃったて。

そいぎねぇ、

お爺さんに丼【どんぶい】いっぴゃあ持って、

団子ば食べさせたもんじゃあ。その団子ば川さにゃ洗いぎゃ、

お婆さんが行きんしゃったて。

あったぎねぇ、

川で丼ば洗【あり】ぃおんしゃったぎばい、

上ん方からね、川上ん方からばい、

赤【あっ】か箱と黒うかごたっ箱と流れて来ってじゃんもん。

そいぎ婆ちゃんはねぇ、

「赤か箱、こちさい来い。赤か箱、こちさい来い。

黒か箱は、あっちさい行け。黒か箱は、あっちさい行け」て、

言んさったぎにゃあ。

赤か箱はねぇ、

「キャンキャン、クンクン」て音の、鳴きおっ。

黒い箱はねぇ、

「オロンオロン、オロンオロン」て、鳴【な】ゃあてグウーッと、

あっちさい流れていたてばい。

あったぎねぇ、

お婆ちゃんはねぇ、赤か箱ばさ、拾【ひろ】うて抱えて帰ってねぇ、

お爺さんの帰って来んしゃっとば待ってねぇ、

お爺さんな山じゃい団子食べてから行たとんしゃっ。

そうして、あの、赤か箱ば開けてみんしゃったてぇ。

あったぎねぇ、

可愛いか、可愛いか、真っ白な犬の中【な】ゃあおったあ。

そいしてねぇ、お爺さんなじき背中にチャンと乗ったいねぇ、

顔ばペラペラ舐【な】めたいすってじゃんもん。

そうーしてもう、

ほんーにもう、可愛がらじおられんごとしぐさばすんもんじゃい、

お爺さんもお婆さんもさ、

子供もおらんし我が子のごと可愛がって育ておんしゃったて。

あーったぎ一年も経たんうち、

その犬の恐ろしゅう太うなったてじゃんもん。

そうしてねぇ、立派か犬になってねぇ、

お爺さんにねぇ、人間のごともの言うたてばい。

「爺さん。鍬【くわ】も乗せろやあ、

袋も乗せろやあ、爺ちゃんも乗れ、婆ちゃんも乗れ。

ワンワン。ここの背中に、爺ちゃんも乗れ、婆ちゃんも乗れ」

て、こがん言うて。

そいぎ乗って良かろうかにゃあ。

「乗れ」て、言うもんじゃい、犬の背中に二【ふ】人【ちゃい】、

爺ちゃんと婆ちゃんと乗んしゃったてぇ。

あったぎねぇ、

ドンドンドンドン山さい行たてじゃんもん。

そうーしてね、楢【なら】の木の一本あっ所さい行たてばい。

そこん日当たりの良【ゆ】うして、

ほんに、お天道さんの良う照いおったてぇ。

そけ行たてね、

そうして、

「ワンワン。ここ掘れ」て、

「ワンワン。ここ掘れ」て言うたて。【ちょうど花咲か爺みたい】。

そいぎぃ、お爺ちゃんとお婆ちゃんとねぇ、

そこば掘ってみんしゃったてやんもん。

あーったぎねぇ、

そっから宝物【たからもん】の、

小判やら、いーっぱい出てきたもんじゃい、

その袋に詰めて持って帰んしゃった。

「あの犬の宝物にゃーあ」て言うて、

褒めて撫【な】でておんしゃったぎばい、

じき隣【とない】の爺さんが、こいば聞いてね、

「その犬【いん】ば貸せ」て言うて、来【き】んしゃったぎねぇ、

「いんにゃ。この犬な宝の犬じゃけん、めったのこと貸されん」

て。

「家【うち】の宝犬【たからいん】ばい」

【もう宝ば持って来たばかいじゃんもんじゃいねぇ。】

爺さんのしきりに頑張んしゃったてぇ。

あったぎ隣の爺さんの言うには、

「よーし。そんないば夜【よ】さいジイーッと、

お前さん達、寝とっ時、その犬は殺すけん」て、

ぎゃん言うもんじゃい、

爺さんな渋々、仕方なし隣【とない】の爺さんに貸しんしゃった。

そいぎねぇ、我が家【え】さい連れて行たいどん、

犬な何【なーん】ても言わじもう、

ふくずうどって【ウズクマッテ】。

そいぎ

隣【とない】の爺さんな、

「俺【おい】が背中【せな】に乗っぞう。

俺は背中に乗せて行け」て言うて、

鍬【くわ】やら大きな袋やら、二つも三つも持って、

犬を叩【たち】ゃあてねぇ、山さい連れて行きんしゃった。

そうーして、

「何処【どこ】ば掘って良かかあ。

早【はよ】う『掘れ』て言え」て言うて、

またいじめんしゃったぎぃ、

ほんなもう叩かれて、痛しゃあ、「ワンワン、ワンワン」

ち言【ゅ】うて、言うたもんじゃい、

「ああ、ここかあ」ち言【ゅ】うて、そこば掘ってみたぎねぇ、

どっさり骸骨てろうの、そいから瓦んごたっとの、

もうちょーっと怖【えす】かとの、そがんとの出てきたもんじゃい、

「こん畜生【つきしょう】、俺【おれ】をこぎゃんとばやって、

隣【とない】の爺さんには小判やら、宝物ばくいて」て言うて、

そこでねぇ、とうとういち殺しんしゃったてばい。

そいぎぃ、

「隣の爺さんな、あの犬【いん】なーあ」ち言【ゅ】うて、

じき、隣の爺さんな帰っとらすごたったけん、

行たてみんしゃったぎぃ、

「ありゃない、もうちい殺ぇたて、山【やみ】ゃあ埋【う】めてきたあ。

松の木ば目印しとっけん、じきわかっ」て。

そいぎねぇ、

「ほんに、あい、宝犬で可愛がって、子のごとあったとけぇ」て言うて、

泣く泣く良かお爺さんは、山さにゃ行きんしゃった。

あったぎ松の木の印のあったもんじゃい、そこば切り倒したぎぃ、

もうそのねぇ、【松の木は植えたとじゃなか。】

「すぐ側に大きか松の木のあっ所に埋めて来たあ」て言う。

そいぎその隣の松の木ば、切り倒して来て臼ば作んしゃったて。

あったぎねぇ、

お婆さんと二【ふ】人【たい】でお餅ば搗きんしゃったぎぃ、

ザクンザクン、バランバラン、チャリンチャリンいうて、

小判やら大判やら転げて、

またお爺さんな、そいば聞いてまた臼ば借りられた。

そうして、我が家【え】の婆さんと二【ふ】人【ちゃい】連れでもう、

悪か爺さんな、お餅ば搗いてみたぎぃ、塵【ごみ】やら茶碗かけやら、

もう出【ず】んもんじゃい、腹立ち紛れにねぇ、

「もう、ぎゃん俺【おれ】は悪かごとばかいすっ」ち言【ゅ】うて、

臼ば叩き割って、燃やしんしゃったて。

あったぎねぇ、また隣【とない】の爺さんな、

「もう臼ば返してくいやーい」ち言【ゅ】うて、

泣くごと言うて来【き】んしゃったけん、

「ありゃーん臼じゃったあ。おどんが餅搗【ち】いたぎぃ、

もう汚かとばっかい出たて。つん燃やあた」

「そうねぇ。困ったことをちいしてくいたあ。

良か臼やったとこれぇ」て、お爺さんは言うて、

「その灰ないとん、あいないば貰【もろ】うてくうかあ」て、

言うてねぇ。

そうして、あの、その灰ば貰うて、我が家【いえ】の畑に灰ば撒いて、

そこに芋ば挿しんしゃった。

あったぎねぇ、芋のでくっこと、でくっこと、

いっぱい掘っても掘っても、芋の出てきたて。

そいぎ爺さんと婆さんはねぇ、

「団子も好きやったけど、芋も好きだなあ。

この芋も美味【おい】しかあ」て言うてね、

お爺さんはもう、二つも三つやどころか、五つも食べらしたて。

あったぎねぇ、そいから屁ばっかいふるごとなんしゃったて。

お爺さんな、屁ばふんしゃったて。

その屁が面白かとじゃんもんねぇ。その屁の音がね、

「チチンプイプイ、めでたいめでたい、五葉の松」ち、

こがーん屁ばふんしゃって。

そいぎぃ、

「爺ちゃん、まいっちょふってんさい」て言うぎぃ、

「チチンプイプイ、めでたいめでたい、五葉の松」ち。

「こりゃあまた、珍しか」ち言【ゅ】うて。

とうとう殿さんの耳にまで、そいが入ったて、噂の。

あったぎ殿さんのね、

「そぎゃん屁ばふん者【もん】のあっとない、

聞いてみちゃあもんにゃあ。連れて参れ」て言うて、

駕籠で爺ちゃんば迎いぎゃやんしゃった。

そいぎ爺ちゃん方【がち】ゃ駕籠の来たぎぃ、

駕籠に乗って、お城さい行きんしゃったちゅうもんねぇ。

あったぎぃ、お城の大広間にさ、

緞子【どんす】の座布団の二つも重ねたね、

「こけぇ座って、その屁とやらばふってみぃ」て、言んしゃったて。

あったぎ爺さんな、力【りき】んでねぇ、屁ばふんしゃったぎぃ、

その屁がねぇ、

「チチンプイプイ、めでたいめでたい、五葉の松」て、

こぎゃん屁の出【ず】ってじゃんもん。

そいぎ殿さんなもう、家来どんも、殿さんも、

もう腹抱えて笑【わる】うてさい、

「こりゃあもう、めでたいめでたい。ほんなめでたい」ち言【ゅ】うて、

笑【わり】いんさったて。

そうして、

「奇妙な屁ば聞かせてもろうて有難【あいがと】う」て、言うてね、

ほんにご褒美ば、また車に積んでやんしゃった。

そいぎさあ、隣【とない】の悪か爺さんのまた真似して、

「あいの、俺【おい】も屁ぐりゃあふいゆっ」ち言【ゅ】うてばい。

そうしてねぇ、

「芋ば隣【とない】から貰うて来い」て言うて、

沢山【よんにゅう】食べんしゃった。

そうして、

「我がも屁ばふいますてぇろう」ち言【ゅ】うて、

お城さい行きんしゃった。

そいぎぃ、いっぱい緞子【どんす】の座布団ば二枚も重ねさして、

畏【かしこ】まって、ブーッて出たいどん、

もう黄色か、そこん辺【たい】煙【けぶ】いのごとなって、

誰【だい】でん黄色いちなった。

そうして、「臭か臭か」ち言【ゅ】うて、

全部【しっきゃ】あ鼻つまんで、殿さんも、

「こけはおられん」ち言【ゅ】うて、

「早【はよ】う、あっちありゃあ追い出せ」て、言んさったて。

そうしてねぇ、皆【みんーな】がプリプリ腹かいてねぇ、

「もう、お前のごたっとの何【なん】ちゅうこと、

殿さんの目の前来たか」て言うて、追い出【じ】ゃあて、

大きか門の戸をギーッと閉めて、ほうほうの手で締め出されて帰った。

そいばっきゃ。

[一九〇 花咲爺【AT一六五五】【類話】]

(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P150)

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