嬉野市塩田町 蒲原タツエさん(大5生)
むかーしむかし。
良かーお爺さんと悪かお爺さんと隣同士住んどんしゃったあ。
そうして、ある日んこっじゃったてぇ、
良かお爺さんが山の畑に行って働きよんさったぎねぇ、畑の隅の方で、
「ああー重【おふ】たか、ああー重たか。
早【はよ】うー誰【だい】じゃいのけてくれぇ。ああー重たか」
ち言【ゅ】うて、誰じゃい声のすっちゅうもんねぇ。
不思議かにゃあ、て思【おめ】ぇながら、
良かお爺さんな仕事ばやめて、そけぇ行ってみんしゃったて。
あったぎ
確かにね、
「早うー、早うー、重たかばっかい。助けてぇ」
て、今度【こんだ】あ、言んしゃっ。
そいぎねぇ、何事【にゃあごと】やろうかあ、と思うて、
ガッカンショウーガッカンショウーて、そこば掘ってみんしゃったて。
そいぎだんだん近【ちこ】う声の聞こえて、
「重【おも】たーい、重たーい。のけてぇ、のけてぇ」て、声のすっ。
そいぎねぇ、そこば、
「そんない」ち言【ゆ】うて、
ヤイヤイやって汗びっしょいになって掘んしゃったぎねぇ、
じきそけ小判のザクザク光いよったて。
そいぎぃ、
「こいばのけんかあ」て、言うたぎねぇ。
そこん中【なっ】から小人の三人出て来て、
「お爺さん、おおきにぃ。
小判から押しつけられて私【わたい】ども殺さるっとこでした。
お爺さんおおきにぃ」ち言【ゆ】うて、
あっちさい【アチラヘ】行たてしもうた。
そいでねぇ、お爺さんな、
そいぎぃ、私【あたし】にあいばくるっとやろうかにゃあ、と思うて
ねぇ、そいばお爺さんなね、俵に詰めて
よっこらしょーと、持って帰んしゃった。
そいぎもう、
自分の家【うち】帰ってねぇ、小判ば一枚一枚どん数えよっぎね、
夜の明けるうちに幾ら入っとじゃいわからん。
そいぎぃ、
お婆さんがおってねぇ、
「お爺さん、お爺さん。
お隣から枡ば借ってお出でんさい。
枡ば借って来て量りゃあ、いちばん良かよう」
て、お婆さんが言うもんじゃけん、
隣【とない】の心ん悪か爺さんの所【とけ】ぇ行たて、
「枡ば借りに来ましたあ」て、言うたぎぃ、
隣では何【なん】ば量っとかにゃあ、枡ば借りや来たぎぃ、
「何ば量いますかあ」て、聞いたぎぃ、
「枡ば貸【き】ゃあてくるっぎ良かあ」て言うて、
何ば量って言んさらん。
そいぎぃ、
何ば量かいようかわかーごと、後ろん方に油ば塗っとってみゅう、
と思うてねぇ、油ば塗っとんしゃったてぇ。
あったぎねぇ、
一時【いっとき】ばっかいして、
「どうもおおきにぃ。有難う」て言うて、
枡ば隣【とない】から返しぎゃ来【き】んしゃったとう。
小判のベターッて、くっついとった。
そいぎねぇ、ありゃあ、隣の爺さんな、小判量ったばい、て思うて、
早速、その悪か爺さんなおっつけて隣【となり】来て、
「お前【まい】さん所【とこ】ー、
小判ば枡で量っごと沢山【よんにゅう】あったやあ」
て、言うてた。
「うーん、さあー。
今日【きゅう】は畑ば打ちよたぎ畑ん隅【すみ】でぇ、
『重【おふ】たかあ、重たかあ、早【はよ】うのけてくいろ』て言うて、
もう、三人の何【なーん】か小人のばい、
押しゃあつけられて死んはずじゃった。
爺ちゃんに助けられた
この小判な、くるっ【クレル】ちゅうもんじゃけん、
貰【もろ】う来たあ」て言う。
そいぎねぇ、その悪か爺さんも、
そいないば、私【わし】も行たてみゅうて思うて、
翌日、朝早【はよ】うから出かけて、
爺さんの掘ったとは、ここばいと思うて、見よったぎじきわかった。
あいーば、ここば掘らんばて思うて、
また何【なん】てじゃい誰【だい】じゃい言うぎ良かいどんて思うて、
何【なーん】も言わんてじゃもんね。
あいどん、ヒョッとすっぎぃ、
ここはまあーだ取い残しのあいどんわからんて思うて、
掘いよったぎねぇ、
上ん方のズラーッて崩れて、お爺さんな穴ん中【なき】ゃあ落ちて、
とうとう這い上がいきらじそのまま死にんしゃった。
そいばっきゃあ。
[一八五 鼠浄土【AT四八〇】【類話】]
(出典 蒲原タツエ媼の語る 843話 P145)